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7万円切りの3Dプリンター『ダヴィンチ1.0』実力テスト

2014年03月18日 13時30分更新

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 『ダヴィンチ1.0』は4月の消費税増税後も価格が変わらず、6万9800円で販売される予定。楽天とアマゾンでの直販のほか、ビックカメラグループ(ビックカメラ、コジマ。ソフマップ)での店頭、通販でも販売される。Yahoo!ショッピングでも3月末から取り扱いが開始される予定。

■安いだけでなく、扱いやすさもワンランク上■

 『ダヴィンチ1.0』の最大の魅力は、最小積層ピッチ0.1ミリと20万円クラスの製品と同等の性能を発揮しながら、扱いやすくするプラスアルファの付加機能を搭載。さらに7万円を切る価格という点だ。ハッキリ言って、コストパフォーマンスは現時点で最強。その理由を次に挙げたい。

1.低価格ながらキチンとしたハウジング

 3Dプリンターはまだ黎明期にある製品のせいか、10万円前後の製品では造型する機械部分を保護するパネルやケースがないものも多い。これは特許がらみの問題もあるようだが、材料を射出するエクストルーダー(押出成形器)のノズル部分の温度が200℃前後、材料を積み上げていくベッド部分が100℃前後になる機械であるにも関わらず、保護パネルがないというのは安全性の面で問題がある。

 安全面だけではなく、造型品質の面でもパネルがないのは室温の変化による影響を受けやすい。筆者の経験では、造型中の物体が冷やされて収縮してベッドから剥がれてしまったり、歪んでしまったことが何度もある。そのため、安全に使えてある程度急激な温度変化を抑制するためには、熱溶解積層方式の3Dプリンターではパネルは必須といえる。

 ちなみに、ケースやパネルがあったとしても自分で組み立てが必要というパターンもある。これでは誰でも扱えると謳うには程遠い。その点、『ダヴィンチ1.0』はシッカリしたパネル内に機械部分が収められており、自分で組み立てをする必要もない。

 前面と左右の側面は造型中の物体がよく見えるように半透明となっており、造型中は内部がライトが照らされるため、造型の状態をつかみやすいのもポイントだ。この価格でここまでシッカリしたパネルに入っているだけで好感がもてる。

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↑半透明パネルのケースに入っているため、造型中でも内部が見える。
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↑内部にはライトが点灯するため、造型中の物体の状況が把握しやすい。

2.最大20センチ四方の物体が造型可能

 3Dプリンターを選ぶときに重要な要素のひとつが造型できる最大サイズだ。3Dプリンターにはさまざまなな価格の製品があるが、造型可能な大きさの違いで価格差がついていることがある。『ダヴィンチ1.0』はこの価格帯では最大クラスの20センチ立方が造型可能。一例だが、10万〜20万円クラスのメジャーな機種の最大造型サイズは以下の通りだ。

【主要3Dプリンターの価格と造型可能なサイズ】


●XYZプリンティングジャパン『ダヴィンチ1.0』(6万9800円):200(W)×200(D)×200(H)mm


●CellP『3Dプリンター組立キット』(14万7000円前後):200(W)×180(D)×180(H)mm
●3D Systems『Cube』(16万8000円前後):140(W)×140(D)×140(H)mm
●オープンキューブ『SCOOVO C170』(18万9000円前後):150(W)×150(D)×175(H)mm
●PP3DP『UP!Mini』(12万9800円前後):120(W)×120(D)×120(H)mm

 

 本体サイズは468(W)×558(D)×510(H)ミリとかなり大型な部類(大型の電子レンジぐらい)だが、本体の大きさは造型できるサイズに比例するため納得の大きさといえる。

3.台座の調整が確実にできるセンサーを搭載
 
 筆者がいちばん「ありがたい!」と思ったのが、台座を調整する“アウトキャリブレーション”機能だ。このクラスの3Dプリンターを使うときに最もめんどうなのが造型する台座(ベッド)の調整だ。材料を射出するエクストルーダーとベッドの隙間を0.1ミリ前後にし、しかもベッド自体を水平に保つ必要がある。

 この調整がうまくいかないと、材料がベッドに吸着しなかったり、造型中に材料が切断してしまうことがあり、造型失敗の大きな要因となる。とはいえ、この調整はアナログ的な職人技が必要であり、エクストルーダーをベッドの中央と四隅に移動させてコピー用紙を隙間に通し、その引っかかり具合で隙間を判定するしかない。このやり方では隙間を正確に測定できず、ある程度のカンと経験が必要になる。正直言って、筆者はこの調整にかなりの苦労することが多かった。
 
 その苦労を大幅に軽減してくれたのが“アウトキャリブレーション”機能。『ダヴィンチ1.0』のエクストルーダーには、材料射出部のほか、センサー突起を装備している。“アウトキャリブレーション”機能を使うと、自動的にベッドの3点をこのセンサーを使って測定し、エクストルーダーとベッドの隙間とベッドの傾きを測定してくれる。3点の測定結果は数値として表示され、その度合いに合わせて、ベッド下にあるネジを回してベッドを調整すればいい。また、調整が完了すると知らせてくれる。

 明確な数値とその善し悪しを判定する機能がついたことで、ベッドの調整がだいぶラクになった。この調整は設置の際にいちど合わせてしまえば、その後はそのまま使えるのがうれしい。何度か造型したあとに“アウトキャリブレーション”で調整にズレがないか測定してみたがズレは起きていなかった。失敗が心配ならば、造型前に測定してみると安心できる。

 最初の調整は、数値が合致するまで何度も測定とネジを回して調整を繰り返すため、場合によっては時間がかかる場合もある。実際に筆者は調整に1時間ほどかかった。できれば、高さ調整もネジ部分にモーターを付けて自動的にやってほしいところだ。とはいえ、紙を使って隙間を計測するベッド調整に苦労したうえ、何度も造型に失敗した経験がある筆者は、この機能が付いただけでもライバル製品より価値があると思う。

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↑エクストルーダーの左側にある突起が隙間を測定するセンサー。“アウトキャリブレーション”時にベッドの端の金属部分にセンサーを接触させて距離を測る。
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↑液晶部分に出た数字を参考にしながら、下部の3カ所のネジで高さを調整する。

4.エクストルーダーにクリーニング機能がある

 熱溶解積層方式の3Dプリンターでは、造型前にエクストルーダーを熱すると、材料が射出口から溶けて垂れてくることがある。垂れた状態で造型すると、造型する物体に垂れた材料が付着して造型物が汚れてしまう。『ダヴィンチ1.0』は、垂れた材料を造型前に自動的に拭き取り、ダストボックスに貯めるクリーニング機能を搭載している。

 クリーニング機能で取り切れない場合は、付属の金属ブラシで磨けばすぐにキレイになる。先ほどの“アウトキャリブレーション”機能や拭き取り機能など、『ダヴィンチ1.0』はライバル製品で起こりがちな問題をちゃんと解決して使いやすくしようという工夫が感じられる。

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↑エクストルーダーから垂れた材料を拭うクリーニング機構。エクストルーダーを灰色のプラ部品の上を通過させると、垂れた材料がぬぐい取られるしくみ。
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↑拭った材料は飛び散らないようにダストボックスに貯まる。

5.本体のみでステータス確認や造型が可能

 多くの3Dプリンターは、機械のステータスやメンテナンス作業をPCの専用ソフトで行なう。『ダヴィンチ1.0』は、文字表示液晶とカーソルキーにより、本体側でステータス確認とメンテナンス操作が行なえる。同様の機能は『Cube』も搭載しているが、『Cube』が英語表示のみなのに対して『ダヴィンチ1.0』は日本語表示。また、この価格帯で液晶付きの製品はない。

 ステータスには、現在のエクストルーダーやベッドの温度はもちろん、造型中の物体がどれだけのパーセンテージ完成していて、あとどれぐらいの時間で完成するのか確認できる。さらに、設置時の動作チェック用にPCがなくてもスタンドアロンで造型する“デモモード”も搭載。筆者のテストでも、設置状態を確認できるデモモードが大いに役に立った。

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↑ステータスを表示する液晶。カタカナ表示のみだが日本語表示なのはわかりやすい。

6.フィラメントが安い

 3Dプリンターは、“本体は安いが材料が高い”というケースもある。材料となるフィラメントカートリッジの価格は600グラムで3280円。最安ではないものの、1グラム当たり5.4円とかなり安い部類だ。また、ビックカメラ系列でも取り扱いがあるため、入手性が良いのも◎。フィラメントのカラバリは、イエロー、グリーン、ブルー、ホワイト、ブラック、レッドの6色。

【材料1グラムあたりのコスト】

●『ダヴィンチ1.0』 1カートリッジ600g:3280円(1gあたり5.4円


●『3Dプリンター組立キット』 1巻き1kg:4980円(1gあたり4.98円)
●『Cube』 1カートリッジ350g前後:6300円(1gあたり18円)
●『SCOOVO C170』 1巻き1kg:4980円(1gあたり4.98円)
●『UP!Mini』 1巻き700g:6300円(1gあたり9円)

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↑フィラメントカートリッジ。ケーブル状のABSが巻き取られて入っている。
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↑カートリッジを本体にセットしたところ。カートリッジはプラパーツでガッチリ固定される。エクストルーダーにコード状のフィラメントを入れて、前面の液晶パネルを操作してフィラメントをロードするとセッティング完了。

7.制御ソフトが日本語対応

3DプリンターではPC用制御ソフトが英語のままというのもザラにあるが、『ダヴィンチ1.0』は日本語化されており、とっつきやすい点も魅力。ただし、肝心のプリント設定が英語のままだったり、ファイルを開く部分の記述が“開いた”というやや“?”と思う記述がある。

 また、造型時にスライスデータを作成するプロセスにやや時間が掛かる。実際にデータを作成したところ、『Shade 3D』が配布している3Dプリンター用のプレゼントデータの造型では、STLデータからスライスデータに変換するときにライバル製品のソフトよりもやや時間がかかった。0.4ミリピッチでは3分37秒とライバルと比較しても遜色ないが、0.2ミリピッチでサポート材とラフト材を付けた場合は54分もかかった。

 ソフト自体は非常にシンプルで使いやすく、物体の大きさを設定したり、配置を回転させる、プリンターの温度モニターといった必要不可欠な機能を搭載。3Dデータは調整のみ可能だが、造型には過不足ない。

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↑プリント用のソフト。日本語訳にやや?な部分もあるが……。
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↑造型する物体は縮尺や向きを調整できる。基本的な機能は十分そろっている。
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↑プリント品質を調整する画面。なぜかここの部分だけ英語だ。

■気になる造型品質は?■

仕上がりとスピードは20万クラスと同等以上

 『Shade 3D』の配布データを実際に0.4ミリピッチ(Nomal設定)で造型してみた。ピッチが広いせいか全体に等高線状の模様ができており、細かい部分では乱れも見える。しかし、サポート材を設定しなくともラフト材だけで腰のくびれの中空部分がきちんと表現されており、滑らかな曲線も的確に表現されている。

 もともと、20万円クラスの3Dプリンターでは造型が難しいデータだけに、これだけ造型できていれば、20万円クラスの製品と同等かそれ以上と言えるだろう。なおこの造型の印刷には3時間4分かかった。

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↑『Shade 3D』のサイトで配布されているデータを0.4ミリピッチで造型したサンプル。曲面が等高線になっていたり、やや細部に乱れはあるが、キレイな曲線が出ている。また、腰の部分のくびれがサポート材なしでもこれだけ中空に材料を貼れるのがポイントが高い。

 次はデモモードで造型した物体。上部に広がる部分が比較的キレイに造型されており、エクストルーダーの動作とフィラメント送りの正確さ、ケースによる保温効果が出ていると思われる。

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↑デモモードで造型した物体。上部に広がるような構造は熱溶解積層方式の3Dプリンターが苦手とするが、乱れが少なくキッチリ造型されている。

 最小となる0.1ミリピッチの造型サンプルも造ろうとしてみたが、データの作成と造型(印刷)にかなり時間がかかるため、ここで無念のタイムアップ。こちらは追ってテストを行なうつもりだ。

 現時点で『ダヴィンチ1.0』は、本体とフィラメントの安さ、メンテナンスのしやすさという点でライバルより抜きんでている。

 造型品質も20万円クラスと同等かそれ以上のポテンシャルを備えており、iPhoneケースやペン立てのような小物の作成は実用レベル。今まで3Dプリンターに対して様子見だったユーザーも“買って損しない”はずだ。

『ダヴィンチ1.0』スペック
造型方式:熱溶解積層法
最大造型サイズ:200(W)×200(D)×200(H)mm
積層ピッチ:0.1〜0.4mm
プリントヘッド:シングル
使用フィラメント:ABS
対応データ:STL、XYZ形式(.3w)
対応OS:Windows XP、Vista、7、8、8.1、MacOS X 10.8以上
インターフェース:USB2.0
サイズ:468(W)×558(D)×510(H)mm
重量:23.5kg

●関連サイト
XYZプリンティングジャパン
『ダヴィンチ1.0』直販サイト
『Shade 3D』3Dプリントデータ配布ページ

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