2013年6月10日(現地時間)にアップルはWWDCというイベントを開催予定だ。ここでなにが発表されるかが、目下、ちょっとした話題だが、廉価版のiPhone5Sは出ない、Haswell搭載の新Macはよさそう、iOS7がお披露目になるというあたりで落ち着いてきている。海外の予測情報もまあこんなところかという感じだが、こういうときはアップルの立場に立って考えたほうが答えに近いことがある。1年前の「『iPhone 5』は“アップルが業界をどう見ているか”でわかる by 遠藤諭」に続いて、いまのアップルの気持ちを勝手に代弁してみることにする。
1. iOS7でAndroidは一気にダサく見えるようになる
せっかくジョニー(Jonathan Ive)が、iOS7をカッコよくデビューさせようとしているのに、Tom's Hardwareというオタクメディアが、「アップルがマイクロソフトのデザイン変更にヒントを得た」なんて水を差すような発言するからまいる(注1)。世のなかウェブでもなんでも平面的なデザインに切り替わり中なんだよ。こういうときは、いままでのデザインは“skeuomorphism”(スキューアモーフィズム)というんだよとか言って自ら陳腐化させるのがいちばんだ。マイクロソフトが問題なんじゃない、これでAndroidのトップ画面がえらくダサく見えるということだ。デザインは力なり。
2. iWatchは不安でいっぱいだ
米BI Intelligenceが、米国の総研各社のウェアラブルの市場予測を並べて比較している。それによると、IMS Researchは2016年でも下手すると1400万台しか出荷されない可能性があるなんて発表している。いちばん景気のいい数値を出しているのが、ABI Researchで2016年に約3億500万台(2018年には全世界で4億8500万台)という予想になっている。実に、予測差20倍。これIT業界の予測でもめずらしいくらいの開きじゃないか?(注2) せめてものなぐさみは、KPCBが出している一般ユーザーは1日150回以上スマートフォンを使うけど、95回はiWatchでオッケーな機能だというレポート(注3)。
↑いまアップルはどんなことを考えているのか? iOS7のフラットデザインでいままでみたいなアイコンのAndroidはえらく古いものに見えるようになる、次期iPhoneの画面サイズは正直迷っている、iWatchはいろいろ言われても楽しいでしょう……。
3. 健康管理のためのウェアラブルなんて話じゃない
iWatchは、腕につけるデバイスを毎日充電しなくてすむようなBluetoothヘッドフォンなみの軽いデバイスになるべきだ。ということで、Google Glassみたいにテザリングではないし、手順をなんらかの形でLightningみたいにライセンスすることだって考えられる。アジアに行けばフェリカ入りの腕時計で買い物していたりするけど、iWatchなら生体認証付きでモバイル決済なんかできるかもね。4億人のクレジットカードを握っているのがアップルで、体育時計メーカーSUUNTOがライバルじゃないからね。
4. グーグルの月額9.9ドルの音楽サービスどうなの?
そうでなくてもSpotifyなんて北欧生まれの音楽サービスがやってきて、iTunes Storeがダサいなんて連中が出てきているのに、なんだかまたスジのよくなさそうなサービスを始めるらしいね。YouTubeでは大量にお金を入れてコンテンツも作っているんだって? どうもキミのところはコンテンツの取り扱いというのがあまり得意じゃないんだね。
5. 正直、次期iPhoneの画面サイズは迷っている
本当にAndroidには迷惑している。ぐずぐずしているうちに、TizenだとかFirefox OSだとか、プラットフォームまで乱立しはじめているじゃないか。中国が最大のモバイルメーカー大国になるわけだけど、Xiaomiなんて正体不明のメーカーまで出てきていて、CEOのプレゼンはジョブズみたいなんだって? いいかげんにしてくれよ。これだけたくさんあっても根本的な差別化は画面サイズだけだよね。
6. iTVは急がなくていい
アップルが本気で出せば世界中でテレビを再定義することになる。しかし、家電メーカーの実力はここ2年くらいのCESで教えてもらった。2014年以降でも大丈夫そうだ。
7. NTTドコモはどこまで待たせるのだ
グーグルが“Google Fiber”という高速ネット接続の実験サービスをはじめている。それと組み合わせる高速無線サービスも始めるらしい。次の時代の商売のためにはネットを新しくするというのはさすがというしかないね。アップルは、ドコモにiPhoneを提供する見返りにNTTの特許を交換条件として突きつけているという噂があるけど、本当かもしれないね。
さて、アップル憑依文体がそろそろ気持ち悪くなってきたので、このあたりでやめることにするが、これ以外にもやれることはたくさんありそうだ。電子書籍、教育関連、クラウド系サービスの一新、動画配信もまわりの動きをほおっておけない。それよりも、ティム・クックCEO自身がiOSがすでに古いと言っているとおり、せめてこの共有(シェア)の時代にAndroidのシェアボタン(INTENT)くらいほしいし、Google Nowみたいに操作せずにどんどんほしい情報が出てくるなんてのもいいと思う。まさか、デザインだけが新しくなるなんてことはないと思うが。
ラッキーだと考えるべきは、Windows8タブレットが、インテルCPUのおかげでハードウェア的にはいいバランスで仕上がってきているのに、モダンアプリをうまく展開できていないことだ。アップルは自社でアプリまで提供する傾向があり、マイクロソフトはプラットフォームに徹する傾向があるが、がむしゃらにLINEでもパズドラでも、無理やり突っ込んでくるタイミングではないのか? 「7インチなんてない」というジョブズの発言を唯一そのまま受け取ったのはマイクロソフトだけだなんて言われているが、Windows Blueで7インチはよいかもしれない。
↑アップルはみんなの投げてくるボールを打ち返すことに徹する総合電機メーカーみたいな企業じゃない。なにか、ひとつか、2つ、あるいは3つ、シンプルでシンボリックでクールな商品だけを売るメーカーなのだ。
前回の予測はみごとにはずれてiPhone5の画面サイズは大きくなったわけなのだが、今回も、次期iPhoneの画面サイズについては変わらないと予測したい(一部には2~3種類の画面サイズのiPhoneが作られているなんて噂もあるが)。ちなみに、前回の記事ははずれたと書いたけど、いま読み返してみたら「iPhoneが腕時計のようなデバイスに向かっている」なんてこと書いてある。これは、その後のiWatchの話題を考えるとある意味当たっていたと言えるかもしれません。だとすると、そこで書いたようにiPhoneはあくまで電話で、iWatchは対話を含むインタラクションデバイスなのかもしれません。それはWWDCでは出ないということなんだけど……。
●関連リンク(外部サイト)
注1)iOS7はWindows Phoneに似ているよね
注2)米国の調査会社がウェアラブル市場を比較
注3)スマホでやっていることはiWatchでできることが大半
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
角川アスキー総合研究所ゼネラルマネジャー。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、1万人調査“メディア&コンテンツサーベイ”のほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。東京カレーニュース主宰。TOKYO MX TV 毎週月曜日18:00からのTOKYO MX NEWS内“よくわかるIT”でコメンテーターを務め、『週刊アスキー』で“神は雲の中にあられる”を巻末で連載中。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭
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