なんでよりによってこの日に!!(涙)
ご存じのように、10月24日に、Amazonがついに日本参入を正式発表した。「Kindleストア」のサービス開始をアナウンス、専用端末「Kindle Paperwhite」シリーズとタブレット「Kindle Fire」シリーズの予約を開始した。
そして、(これもご存じなら、本当にありがたいのだが)私はこの数年間電子書籍をずっと追いかけていて、Amazonにも、積極的に取材攻勢をかけていた。この春、Amazonのジェフ・ベゾスCEOへインタビューしたのだが、その時、次のようなコメントが返ってきた。
「年内には日本でもサービスを開始する。それだけしか言えないが、ご注目を」
正直、「おお!やっと!」と胸をなで下ろしたものだ。
それから半年。なかなか始まらないサービスに後ろ髪をひかれつつも、今週私は、アメリカ取材に出かけている。実は、いやーな予感も、情報もあったのだ。
そうか、やっぱり、今日発表だったのね。私がいない時に……(涙)。
そんなタイミングで、なんのために渡米していたのかって? 同じ24日(アメリカ時間では23日になるが)に発表された「iPad mini」を取材するためだ。やっぱり、この機会を逃すわけにもいかなかった。(もうひとつ、断腸の思いであきらめたのが、Windows 8のローンチイベント……)
Kindle日本上陸の日に日本にいなかったことがあまりにくやしく、思わず、US版のKindle Fire HD 7インチを購入してしまった。いや、日本のサービスで使える保証はないのだが。
↑思わず買ってきたUS版Kindle Fire HD。価格は199ドル。
↑持ってきていたNexus 7と比較。画面サイズ・解像度はまったく同じだけれど、ベゼルがかなり太く、重い。UIはAmazonに特化して作られていて、ほとんどAndroidに見えない。 |
それはともかく、この時期にAmazonが日本に参入し、アップルからiPad miniが登場するのは、もちろん偶然ではない。「IT系のアイテム・サービスに注目が集まる」この時期を見て、皆が一斉にアタックをかけたようなものだ。その様は、ロードレースのゴールスプリントのごとし。
ようやく日本で「電子書籍」の準備が整い始めた、という事情もあるだろう。過去2年の間に、出版社が電子書籍を出せるよう整備が進み、数も揃ってきた。「なかかなKindleがこない」と言われてはきたが、先に始めた日本系の電子書籍ストアが地道にビジネスをやり、地盤が見えて来たところに、併行して準備していたAmazonが「こんどこそ」と入ってきた……という面も。まだ日本進出を果たしていないもう一つの「大物」、アップルのiBook Storeも、そう遠からずスタートするのでは……との情報もある。(「来る来る情報」は話半分で聞いておいた方が、精神的にはよろしい。いや、私的に、根拠はあるんですが……)
スマートフォンやタブレットが一般化して、「本を読める機械」の頭数も揃ったのも重要だ。アメリカの場合、スマートフォンやタブレットより先に電子書籍が来たため、専用端末であるKindleが売れることで電子書籍が普及して本の数も増える、というサイクルだったが、日本ではスマートフォン・タブレットが出てからのスタートだ。
出版社側としても「タマゴ(=端末)が揃った」状況を見て、電子書籍の用意に取り組み始めた、という話はよく耳にする。
その中でも、6インチから8インチはスイートスポット。タブレットのトップメーカーであるアップルが満を持して「iPad mini」を出し、新参であるAmazonが低価格なKindle Fire HDで戦う……というのは面白い図式だ。
さて、電子書籍目線で見ると、iPadとKindle、そして他のタブレットはどういう関係になるだろうか?
そもそも現状、「このハードを買わねば本が読めない」形式のストアは古い。むしろ「ハードは問わないが、あるストアでしか読めない」のが、いまの電子書籍ストアの形だ。マルチデバイス対応し「専用機でも好きな端末でも読める」のが最低条件だ。Amazonは、最高級のブランド認知と使い慣れたウェブストア、そして安価な専用端末を持ちつつ、しかもマルチデバイスでスタートする。もはや「マルチデバイスでない」サービスは、スタートラインに立っていない。国内大手の多くはなんとか「マルチデバイス化」を行えた。最後尾にいたソニーはAndroidのみだが「ギリギリ間に合った」が、楽天は結局時間までに到着できなかった。アップルが今後参入するとすれば「iOSのみ」ということが逆に制約となり得る。
すなわち、「どのストアをずっと使うか」が定められない人は、専用機は後回しにして「汎用タブレット」を選ぶべき。そこでは、シェアの大きなiOS系は最初の選択肢であり、iPad miniは有利だ。次に低価格なNexus 7などが想定され、Amazonに決めた上で選ぶのであれば、Kindle Fire HDと「専用」の良さがあるKindle Paperwhiteから選べる……、というところだろうか。
スマートフォン向けアプリの市場調査を手がける、クエリーアイ株式会社の水野政司社長に、こんな話を聞いたことがある。
「アメリカの場合、iPadのダウンロードランキングの上位は圧倒的にゲーム。それだけ家庭に浸透しているということでもある。でも日本のランキングには、電子書籍やツール系も入ってくる。これは、両国でiPadの普及度・利用層に違いがあるから。日本では、アメリカで言う『Kindleを使っているような層』がiPadを使っている、と言えるのでは」
アメリカでiPadは家庭に浸透し、「自分が本を読む」「自分でビジネスツールにする」より、「みんなが使うもの」となった感がある。書籍を読む人は、パーソナルなツールとしてのKindleを利用する例が多い。他方で日本の場合には、iPadの普及率がまだ低いので、まずこういうものに飛びつく「パーソナルなツールを求める層」が中心になっている、という分析だ。だとすれば、ますます「自分の端末を切り換えつつ読む」サービスの価値が高まる。
やはり「iPad」は有利? Kindleは価格と「電子ペーパー」の両面作戦
ここで、それぞれの端末をみた上で、「日本人向け電子書籍目線」でのインプレッションをお伝えしよう。
まず、コミックを読む層。ここは7インチでなく10インチ、はっきり言えば第三世代もしくは第四世代の「Retinaディスプレイ搭載iPad」でキマリだ。見開きで、紙により近い質感で楽しめるのは、現状iPadのみ。縦横比が16:9(もしくは10)のAndroidタブレットでは、違和感が大きくなる。解像度的にも、iPadほどのものはない。
見開きにこだわらない場合7インチクラスでもOKとなるが、ここでも「4:3か16:9か」問題は存在する。アップルが会見で例示した通り、現状は、4:3のiPad miniの方が違和感は少ない。それはまだ「iPadを想定して作られたコンテンツ」か「スマートフォン向けに作られたコンテンツ」が多く、Androidタブレットにはそこから移植される結果、16:9(もしくは10)への最適化が弱いためだ。スマートフォンのサイズで読む場合には、結局拡大・縮小が必要なので、AndroidでもiPhoneでも大差ない。なのに、7インチクラスになると「拡大しない」ので、最適化しないとどうにも収まりが悪い。
Paperwhiteは専用機で、ビュワーも専用だけにとても収まりが良く読みやすい。目にも優しい。しかし、そもそもモノクロの電子ペーパーは、画像の再現性の点で不利。従来に比べ解像度が増して、同じ電子ペーパー系端末の中では圧倒的に満足度が高いが、カラーはもちろんだが、モノクロの画像でも、文字を見た時ほどの満足度は得られない。
ドット密度の差から生まれる解像感でいえば、iPad miniより、7インチ・1280×800ドットのパネルを使うKindle Fire HDやNexus 7の方が上であり、そこを重視する人もいるだろう。他方で、やはり両方を見比べると、感覚的に「物理的な表示面積の大きさ」に引きずられる部分も大きく、iPad miniの方がいい、と感じる人も同じようにいるだろう。ここは一長一短だ。
小説や実用書などの「文字モノ」を中心に据えると、話はだいぶ変わってくる。見開きで読む必然性は減り、画面内での文字の流れは「リフロー」によって、画面サイズ・画角にあわせて変化するため、マンガなどで存在した「最適化されていないがゆえの気持ち悪さ」は減ってくる。元の印刷物の事情に左右されづらくなるので、7インチ以下の製品の価値は、ここで最大化する。余白とのバランス、画面の物理サイズの違いもあり、似たサイズ感のタブレットの中では、おそらくはiPad miniがもっとも「たくさんの文字を表示できる」ものになる。ベゼルが細いNexus 7はまだしも、Kindle Fire HDはその点不利だろう。むしろ文字モノ中心ならば、1も2もなくPaperwhite、という気もする。さらに画面の狭いスマートフォンを許容しうるかは、その人次第だが。
iPad miniについてはハンズオンでの感触からの「予想」だが、おそらく7インチクラスでも、iPad miniが有利であることは間違いない。だが、価格と購入動作のシンプルさから、Amazonの専用機群も魅力的だ。
どの端末を使うにしろ、「多くの人が読みたいと思うコンテンツ」が増える後押しになるには違いなく、それがまたタブレットの価値を上げる。他の電子書籍ストアも、Amazonと競合するために価値を上げていこうとするはず。そうできなければ生き残れない。日本で「本格的なタブレット普及期」が来るには、強力な企業がガチンコで競争してくれることが、プラスに働くのは間違いない。
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