1カ月ほど前、アスキー総研の問い合わせフォームに「デンマークのテレビ局から取材のお願い」という連絡をいただいた。デンマーク(!)って、私が個人的にお世話になっている国である(単純にレゴをいっぱい買っているとか、アンデルセンが好きで毎晩読んでから寝るとか、そんな話ではない=後述)。
映画『禁断の惑星』のRobbyの手がタコになったような物体はなんだろうか? 答えはこの後をご覧あれ。
「デンマークの公共テレビ局DRの番組で、最先端をいく日本のデジタルデバイスやテクノロジーについて、インタビューさせていただきたい。番組名は《So ein Ding》(おもしろいもの)で、今回で6シーズン目になる人気番組。テクノロジーによってどう私達の生活や未来をよりよいものにできるのか、分かりやすく、真剣に、ユーモアを交えてお伝えする番組です」
とある。一体何を答えたらいいのかとも思ったが、“分かりやすく、真剣に、ユーモアを交えて”というあたりが、私の信条とピッタリ一致する! 楽しくなければテクノロジーじゃないというわけだ。教えてもらった番組のウェブサイトを見にいくと「DR 2」と書かれていて、これってNHKの「Eテレ」な感じなのかもしれない(違うかもしれない=なにしろ言葉が分からない)。
番組映像も上がっていて、開いてみると「WINORA R2」というドイツ製の電動アシスト自転車(?)の話をやっている(http://www.dr.dk/dr2/soeinding/?p=2601)。最初っから“自転車マックスターン”の映像が入るなど、いい感じで始まっている。スマートフォンとQRコードを使ったデンマーク製の駐輪アプリ(TAGLOCK=http://taglock.dk/)や自転車用GPSの話など出てくるのだが、最後は駐輪違反(?)でロックされた自転車をワイヤカッターで外して帰っちゃうという内容(違うかもしれない=なにしろ言葉が分からない)。
デンマーク公共放送DRの番組《So ein Ding》(おもしろいもの)のサイト。左下の司会のゾンネ氏に注目。
やがて収録当日がやってきて、プロデューサーのダン・ポールセン(Dan Poulsen)氏とインタビュアーのニコラス・ゾンネ(Nikolaj Sonne)氏がやってきたのだが、正直、もっと準備をしておくべきだった。デンマークから遠路はるばるやってきた彼らの興味に対して十分に答え切れたのかどうか? なにしろ、最初の質問が次のようなものだったのだ。
インタビュアー:日本は道をロボットが歩いていると思った。ここに来るまでも1台も見かけなかったが、彼らはどこにいるのか?
私:・・・。
彼らは秋葉原や日本在住の英語でハイテク情報を流しているブロガーなんかも取材するそうだから、アスキー総研にはえらく真面目で固い質問がくると想像していたのだ。事前にいただいていた質問リストには、「最新のマストなガジェット/デジタル機器はなんでしょうか」とか、「最新のモバイルインターネットの速度は、どんな技術でどれぐらいの速度がでるのでしょうか」とか、「携帯電話の一番人気の使い方や簡単な進化の歴史、そして次にどのような進化をすると思いますか」といった質問が書かれていたのだ。
たしかに、そうした質問もあって、私は、日本の携帯電話が世界をリードした歴史(裏側には米国の携帯電話のFCCや独禁法による黒歴史がある)や、HSDPAの通信速度が、数MbpsだったのがLTEになって数十Mbpsまで理論上は出るようになったなどという真面目な話もしたのだった。しかし、彼らの質問のほとんどは「今まで見た一番風変わりなガジェットはなんでしょうか?」とか「日本ではみんな携帯から何かぶら下げています。これはなんでしょうか?(ストラップのこと)」とか、たしかに《So ein Ding》(おもしろいもの)に終始するのだった。
インタビュアーのゾンネ氏はかなりの人気者らしい。左はカメラマン、奥はコーディネーター/通訳のIさん。
しかし、こういうネタというのは、とっさに言われるとなかなか答えるのがむつかしい。というよりも、70年代から90年代初頭にかけてオリジナリティ溢れるハイテク製品を世界に送り届けていた日本は、いまどんなモノを世界の人々にメッセージしているのだろうか? ウォークマンやカラオケや、あるいはUFOキャッチャーやプリクラなど、楽しく役に立つ「メイド・イン・ジャパン」はどこに行ってしまったのか? などと感傷にひたっている場合ではない。
そこで、昨年、セガが発表するやいなや話題をさらった“おしっこゲーム”の「トイレッツ」を紹介した(http://toylets.sega.jp/index.html)。「こんな根源的な欲求に答えたゲームってあるかい! どうだ!!!」と説明したのだが、もうひとつデンマーク人には、この洒落が理解できないようす。こういう生理的な現象に関する部分は、文化的な背景が大きく影響するのかもしれない。
それでも、「分かりやすく、真剣に、ユーモアを交えて」という彼らの番組にあいそうなネタということで、以下の5つを紹介した私だった。
・「SPIDER」
(http://www.ptp.co.jp/spiderpro/)
・「ANOBAR」
(http://anobar.jp/)
・「ニコニコ動画」
(http://www.nicovideo.jp/)
・「初音ミク」
(http://www.crypton.co.jp/cv01)
・「ロボッキャッチャー」
(http://robocatcher.jp/about/index.html)
「SPIDER」と「ANOBAR」については、さすがにテレビという共通言語があって、ここまでやっている製品がないらしい。テレビ業界はいま、「スマートテレビ」という蜃気楼(?)に向かって半信半疑で歩きはじめているという話で、「全録機」、「実況板」というのが、分かりやすくて便利そうだと一応喰いついてくれた。
しかし、「ニコニコ動画」と「初音ミク」については、真剣に説明は聞いてくれるのだが、どうしても話がかみあわない。「ヨーロッパでもデイリーモーションが使われているでしょう。あれの日本版がニコニコ動画で、ニコニコというのは笑っている状態を表現している言葉なんですね」とか。
インタビュアー:映像が文字で隠れて見えないのですが・・・?
私:文字で埋まるほどいい感じなんですよ。
インタビュアー:なぜ見えなくていいんですか?
私:盛り上がるじゃないですか。
インタビュアー:・・・・。
私:悪口を書かれるのも、ある意味“いただき”だったりするんですね。
インタビュアー:なぜ悪口を書かれるのが“いただき”なんですか?
私:・・・・。
(※だいたいこんな感じで進行したと思う)
「初音ミク」に関してはMXTVの「東京ITニュース」で紹介した2010年3月9日に行われたソロコンサートの映像を見せた(http://www.youtube.com/watch?v=9bPHOoK2xro)。この映像、100万回以上も再生されているのだが、インタビュアーの青い瞳にどう映ったのか? 正直なところ分からない。ジッと見ていたから、やっと彼らの期待するミステリアスな日本に触れることができたのか? 「ロボキャッチャー」は、この後のお話がでたところであげさせていただいた(これは口走っただけだが)。
というのは、収録の最後のほうで、「この映像を見て率直な感想を述べてほしい」と1本のビデオを見せられたのだ。デンマークで巨額な予算を投じて開発されているロボットのプロジェクトらしいのだが、これが、ご覧になっていただくと分かるのだが、タコの手ロボットがカップを落としたり、リンゴを運んだり・・・。個人的には、今年見たネット動画の中でいちばん印象に残っているものの1つになっている。
タコの手ロボットくん、頑張れ!
実際の映像はココ(http://ing.dk/artikel/121890-se-video-af-en-splinterny-robothaand)で見れるので、リンクからたどって是非見ていただきたい。「率直な感想」と言われてもねぇ・・・。新しいモノを生み出すのは本当に難しいことだ。とかく巨額の予算で動いたプロジェクトがうまくいかないことがある。そこまで言えなかったが、デジタルには愛が必要なのではないかとも思う(ひょっとしたら日本のハイテクの特徴ってこれかもです)。
ちなみに、彼らの番組で海外取材するのは今回の日本がはじめてだそうで、そのあたりは光栄としてか言いようがない。ということで、インタビューは無事に終了。放送は9月とのこと。私の頭の中は「デンマーク人というのはタコは食べるのでしょうか?」という疑問がよぎったままだったのではあますが・・・。
p.s.
冒頭で触れた「個人的にデンマークにお世話になっている」というのは、私のシマシマアニメ・ボールペンプロジェクトのことだ。週刊ASCII PLUSでも記事にしてくれたんだけど「アニメーションフローティングペン」を作ったのだが(http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/028/28240/)、これがデンマーク製なのである。もちろん、デンマーク人の彼らのお土産にさしあげました。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
アスキー総合研究所所長。同研究所の「メディア&コンテンツサーベイ」の2012年版の販売を開始。その調査結果をもとに書いた「戦後最大のメディアの椅子取りゲームが始まっている」が業界で話題になっている。2012年4月よりTOKYO MXの「チェックタイム」(朝7:00~8:00)で「東京ITニュース」のコメンテータをつとめている。
■関連サイト
・Twitter:@hortense667
・Facebook:遠藤諭
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