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【前編】魂の入ったマウスパッド、グロウアップ・ジャパンの『紫電』開発秘話を直撃!

週刊アスキー5月3日号(4月19日発売)の特集記事『素材で極める最高級マウスパッド』(92~95ページ)に掲載したものを再構成したものです。詳しくは本誌をご覧ください。

 日本製に徹底的にこだわり、日本のプロゲーマーに支持を受けるグロウアップジャパンに、最新マウスパッド『KAI.g3 紫電』を制作したきっかけや作成時の苦労、マウスパッドにかける情熱を聞いた。

紫電

KAI.g3 紫電
グロウアップ・ジャパン
価格 2880円(S)、3380円(M)、4380円(L)
サイズ:250x210mm(S)、320x250mm(M)、420x330mm(L)

紫電

開発者インタビュー
グロウアップ・ジャパン
代表  小林敏博さん

「みなさん、マウスパットなんてどれも同じだと思ってるでしょう?」

 マウスパッドは一般用であろうがゲーム用であろうが、基本的に求められるものはあまり大きく変わらないんです。ただ、ゲーム用は要求がシビアっていうんですかね。
 他社のゲーム用布製マウスパッドは、中間層、真ん中のスポンジ部分ですね、ほぼ似たようなものを使っています。ほら、こんなふうに泡が入ってるでしょ。こういう泡がつながっているものを連泡っていうんですけども、連泡と単泡の違いって言えるマウスパッドメーカーの技術者、少ないですよ。

紫電

 連泡っていうのは台所のスポンジのように泡がつながっている(写真上)。柔軟性があって、質量も軽い。単泡は泡がそれぞれ独立しているので、水を含まなくて反発弾性が強い(写真下)。そういう特性があるんです。で、連泡の泡のサイズはコントロールできません。つまり厚さも反発弾性も場所によって微妙に違うんです。均質にならない。製造上の制約です。で、さらに致命的なのは、うねってるんです。しかもマウスパッドのどこにうねりがあるのか、買ってみないとわからない。

 うちも初代の製品をつくったときは同じようなゴムを使ったんですよ。で、僕たちはこうやってうねりのあるもん全部ダメだと言って捨ててたんです。誰でも指で触ればわかります。それほど大きいうねりなんです。だから歩留まりが非常に悪い。下手したらまともな個所は2~3割ぐらい。

 いやあ、数々の失敗をしてきましたから。痛い思いをさせられたこともあります。でも、その失敗があったから学習できたことも多いんです。


「マウスパッドは勝つための大事な"ギア"なんです」

 
例えば、スポーツについて考えてみてください。ゴルフクラブ、テニスのラケット、野球のバット、100メートル走のランナーが走るシューズ。何でもそうです。勝つために、タイムを縮めるためにつくってるギアじゃないですか。もしもそこにネガティブな要因があったら、勝つためにリスク要因を取り除いておくのは当たり前の話でしょう。不思議でも何でもないですよね。
 あるいは、道路とクルマの関係で考えるとよくわかるんですよ。クルマは平らなところを走るのとデコボコな道を走るのと、どっちが走りやすいですか? きわめてシンプルですよね。君はどっちの上を走りたいんだと、そういうことになります。 

「マウスを止めるのは誰か? もちろん、ユーザーですよね。
滑るのも大切。同時に、いかに止められるかも大切です」

 マウスを止めるときは、当然ながら勝手に止まらない。ユーザーが止めるんですよ、無意識に。これ物理ですからね。運動エネルギーを0にしない限り止まらないわけじゃない。止めるための操作は、マウスに荷重がかかるんです。そうすると布製マウスパッドの中間層はクッと歪む。歪むと抵抗にもなりますし、摩擦係数が変わる。山越え抵抗とかいろいろ難しい話があるんですけども。それによって止まりかたが変わってくるわけですよ。この中間層の固さによって止まり方が変わるんです。

 結局マウスパッドっていうのは、滑走面と真ん中の……うちは中間層って呼んでいますが、その組み合わせによって最終的に特性が決まる。今、日本のユーザーを見てると、滑走面に目が行き過ぎてます。本当は確実に止まるためには中間層がないとダメなんです。絶対必要なんです、これは。薄いのがいいとか言うけど、それだったら紙でもいいじゃない。紙はトラッキングいいですしね。

 『紫電』をソリッドでつくると樹脂製と同じぐらい滑ってしまいます。でもそれをやると止まらなくなってしまう。『紫電』は硬度でいえば真ん中ぐらいのものを使ってるんです。来月あたりこれのいちばん柔らかいヤツも出す予定ですが、それはさらに歪むので止めやすい。どちらを好むかは、使われる方のプレースタイル次第です。

 あまり滑らない重い滑りのマウスパッドが止めやすいのはあたりまえ。はなっから、滑ってないんですから。だけど、初動が遅い。良く滑る軽い滑りのマウスパッドが止め難いのも当たり前。だから、中間層が大切なんです。軽い滑りで、止めやすくするためのキーポイントなんです。私は、軽いマウスと、スタビリティーの高い軽い滑りのマウスパッドで、シャープな操作をするほうが理にかなってると思ってます。

「某有名プレーヤーは縦にして使ってQuakeConで準優勝した。
 契約しているメーカーに内緒で(笑)」

 たとえばゲーム『Quake Live』のユーザーってマウスの動かし方がカウンターストライク系の人と少し違うじゃないですか。Quakeは縦の動きもよく使うみたいですね。プレーするゲームによっても向き不向きがあるんです。『紫電』は縦横の滑りの差が無い。それはそういうふうに意図してつくってるんですよ。
 『飛燕』は縦横の滑りの差があるということを、わかっていてあえてつくってるんです。某有名プレーヤーは滑りの悪いほうを縦にして使って、QuakeCon準優勝したんですから。契約してるメーカーのマウスパッド使わないで。写真撮ったけど公には使えないです。でも、うちの使って準優勝した事実があるじゃないかと。それも、私たちがお願いしたわけでもないのに(笑)。

 FPSに使うんだったら、自分の意思に近いところで止められるのがいちばんです。単純にこれはよく滑るとかって言われたって、結局のところなにもわかんないのと同じですからね。ときどき個人的に問い合わせがあって、ここ(東京・神楽坂本社)で実際にゲームをプレーしながら試すという方もいらっしゃいます。本当はそういう環境がもっとたくさんあればいいんだけども、なかなか量販店などでそういう場所を用意してはいただけないので……そこがちょっともったいないですね。

(代表の熱いトークは止まらない。中編へつづく)
 
注釈 ※毎年米国で行なわれる世界最大のLANパーティーイベント。世界中から腕に自信のあるゲーマーが集まる。

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