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『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』に続く6本目の快挙を達成

『運び屋』クリント・イーストウッド最新作 4つのポイント解説!

2019年03月09日 16時00分更新

1.主人公が「ひどい父親だった」と嘆くワケ

 『運び屋』はイーストウッド演じるアールが、メキシコの麻薬カルテルで運び屋になるサスペンス映画。一方で、実は「家族の物語」でもある。アールは家族よりも仕事を優先しており、長年家族と疎遠だ。はたして「ひどい父親だった」と嘆く彼は家族と和解できるのか?

 今作では、ブラッドリー・クーパー演じる麻薬取締局の捜査官コリン・ベイツが主人公を追い詰めていく。主人公とベイツ捜査官は追う側/追われる側と正反対だが、仕事ばかりで家族をないがしろにするのは共通点だ。

 クーパーと言えば、イーストウッド監督『アメリカン・スナイパー』で、イラク戦争に4度従軍するクリス・カイルという実在のスナイパーを演じたことで有名だ。クーパーが監督を務めるレディー・ガガ主演『アリー/スター誕生』(※1)も、以前はイーストウッドが監督をする予定だった。監督作を譲るぐらいだから、言わば弟子のような存在なのだろう。イーストウッドが弟子である彼に自分と似たような役を演じさせているのも面白い。

(※1)日本ではあまり売れてないのが残念。大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』と同時期に公開されたことや、『Born This Way』以降に人気低迷した「レディー・ガガの復活」という物語性が身近ではないこと、マイノリティーへの言及がわかりにくいことなどが原因か。

カリフォルニア州のロサンゼルスで実施されたプレミアレポートの様子。

 実は、イーストウッドは64年目になるキャリアのなかで「崩壊した家族」を描き続けてきた。代表作のひとつ『グラン・トリノ』では、彼演じるフォードの自動車工だった老人ウォルトは妻を亡くしており、日本車のセールスをする実の息子にさえしかめっ面だ。イーストウッドはいつも家族をなおざりにし、孤独に社会と立ち向かっている。

 ただ、彼の映画の主人公はただ家族と不仲なだけではない。血縁関係のない他人と「疑似家族」になる物語も多い。ウォルトも隣に越してきたモン族の少年タオと親密になっていった。

 だが、もっとも最近の主演作『人生の特等席』では心変わりしたのだろうか。彼演じる大リーグのスカウトマンであるガスはひとり娘ミッキーとわだかまりを抱えているが、決して「疑似家族」に逃げようとはしない。次第に野球を通して、彼女と和解をしようとする。

 今作でも、主人公は麻薬カルテルたちと実の家族のように親しくなるが、それも途中まで。イーストウッドの過去作を1本でも見直しておくと、今作でアールが降した決断は涙なしで観られないだろう。著者は試写会で2つ隣の席に座る、映画評論家の蓮実重彦さんと同じタイミングで泣いてしまった……。

(次ページでは「監督&役者で立ち向かった初の実話作品」)

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