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No Maps伊藤氏とSapporo AI Lab川村氏対談

社会実験で始まるAIテクノロジーと札幌の新しい関係

2017年09月14日 07時00分更新

 2017年8月末、都内で開催されたBACKSTAGE 2017において、「『まちに、未来を、インストール』クリエイティブイベントNo MapsとSapporo AI Labの対談」と題し、No Maps実行委員会委員長である伊藤 博之氏と、北海道大学院大学教授でありSapporo AI Labの所長でもある川村 秀憲氏の対談セッションが行なわれた。そこではNo Mapsというイベントの内容だけではなく、AIなどのテクノロジーと札幌の新しい関係について、ふたりが目指す未来の姿が語られた。

札幌を壮大な社会実験場にする取り組みはすでに始まっている

 まず伊藤氏からは、No Maps 2017の概要が紹介された。本イベントは2017年10月5日から15日まで札幌を舞台に開催されるもので、映画、音楽、テクノロジーが一体となった世界を作り出す。モデルとなっているのは、アメリカで毎年開催されているサウス・バイ・サウスウェスト(以下、SXSW)だ。

 「実は昨年のBACKSTAGEで、3都市のテック系イベント関係者が登壇するセッションがあり、SXSWみたいなことをやりたいねって話をしていたんです。その中から、まずは札幌が立ち上がりました」(伊藤氏)

No Maps 2017 実行委員会委員長 伊藤 博之氏

 本家SXSWは音楽フェスをスタートとして、映画を加え、IT技術を使ったインタラクティブな展示も加わった。同じようなことを札幌でもやりたいというのが、No Maps 2017のスタートだ。本家との違いは、ミートアップや社会実験にも重きを置いているとことだという。

 「民間企業、官公庁、教育関係者が一堂に会して、ALL HOKKAIDO体制を取っているのが特徴のひとつです。社会実験をやるには色々な制約をクリアしなければならず、そのために地元官公庁などとのやりとりは欠かせません。No Maps 2017では官公庁も運営に加わっているので、それらの折衝を短時間でまとめることができます」(伊藤氏)

No Maps Future Labの役割は産官学連携の調整役

 すでに稼働している実例が、8月にスタートしたMobikeだ。No Maps Future Labが産官学連携による連絡調整役を務め、約3ヵ月で札幌にインストールできたという。Mobikeは市民やNo Maps参加者のアシとしてだけではなく、その移動データは研究者にも提供される。ビッグデータ解析やAI開発に使える生きたデータは、とても貴重だ。

 官公庁の協力が得られることもあり、展示に使えるスペースも多様だ。たとえば札幌駅前から大通り、すすきのをつなぐ全長520メートルにおよぶ地下広場「チ・カ・ホ」も展示スペースとして使える。日常生活で使われる通路なので、イベント目当ての人だけではなく一般の市民にもインタラクティブな展示をアピールできる。その他多くの会場で40以上のカンファレンスが予定されている。

札幌市の地下に広がる広大な空間「チ・カ・ホ」も展示スペースとなる

 「第12回札幌国際短編映画祭や、150組を超えるミュージシャンが登場する音楽フェスティバルも同時に開催されます。業種やジャンルを超えたミートアップ、交流の場を作っていきたいですね」(伊藤氏)

札幌を壮大な社会実験場にする取り組みはすでに始まっている

 続いて川村氏からは、札幌地域で取り組んでいるSapporo AI Labについて説明があった。札幌界隈には、実はIT企業が多い。しかしほとんどが下請けや孫請けで、かつて右肩上がりだった売り上げもここ10年は横ばいに転じている。

 「何もしないと、札幌のIT業界はジリ貧になってしまうでしょう。その対策のひとつが、AIを主体とした産業づくりです。AIに仕事を奪われるのではなく、AIで仕事を作っていこうということです」(川村氏)

Sapporo AI Lab所長 川村 秀憲氏

 川村氏は、AI時代を生き残るには2つのポイントがあると言う。ひとつは、AI事業ではAIを開発する川上と、AIを活用する現場である川下のみが勝ち組になるということ。北海道にはいろいろな現場があり、研究開発だけではなく多様な現場の課題に取り組んでいけるという。

 もうひとつのポイントは、最先端のAI知識を手に入れること。ビジネス化を優先する企業には難しいが、大学の研究室では英語の最新論文にも日常的に触れている。産官学が連携することで、研究室で得た最新の技術情報を現場につなぎ、全体としてAIをつかったものづくりができる場所にしていくのが、Sapporo AI Labの目標だ。

 「ビジネス創出、人材育成、社会実装の促進が3つの柱になります。どこかの企業だけのビジネスになるわけではなく、実験して実証していく場をつくり、産官学連携でAIを活用したサービスを、社会に実装していきます」(川村氏)

No Mapsは単なるイベントではなく、産官学連携の窓口としても機能していく

 対談は、佐藤 みつひろ氏のファシリテートで進められた。またセッションが終わった後も、場所移し、興味を持つ参加者との対談は続けられた。

佐藤氏(写真右)のファシリテートで進んだ対談

佐藤氏(以下、敬称略):まず、プラットフォームとしての札幌の良さってどこにあると考えているのか、お聞かせください。

伊藤氏(以下、敬称略):既存のものをうまく使うことに長けた土地柄があると思っています。たとえば大通公園は、昔は除雪した雪を捨てる場所でした。そこに集まった雪で雪像をつくり、やがて雪まつりにつながっていった訳です。そういう工夫をするのが得意なんですよ、きっと。大通公園といえば今はオータムフェスタをやっているけど、食も雪像もコンテンツのひとつ。それを見てもらう場所が既にある。

札幌市全体がイベント会場であり壮大な実験場となる

佐藤:チ・カ・ホもすごいですよね。特に何もなくても、3万人から4万人の人が日々通っています。

伊藤:チ・カ・ホでは、本当に普通の人にテック系の展示を見てもらいたいと期待しています。一般にテック系のイベントは参加者が偏りますが、チ・カ・ホでトレードショーをすれば、普通の人にリーチできるのではないかと思います。

佐藤:No Mapsのイベントに先駆けてMobikeがローンチしましたが、Sapporo AI Labと連携できそうなことはあるのでしょうか。

川村氏(以下、敬称略):研究者はデータの処理方法や解析方法は思いつくことができても、動いているデータでそれを試す機会はほとんどありません。Mobikeを通じて得られるデータでを使うことで、より実際的なビッグデータ分析やAIの実験ができると可能性を感じています。

伊藤:ITの世界って、研究室から出ても、どこか仮想の世界だった。仮想の世界に何かをインストールするのがこれまでのIT。でもIoTで、実在するものにどんどんITがつながっていく状態になってきた気がします。でも、それを実用化するには実証実験が欠かせません。No Mapsはそこをサポートします。道路の使用許可を取ったり、地元チェーン店の協力を得たり、No Mapsを通すことで官庁、警察、民間企業が一体となって協力できる体制を得られます。

セッションタイムが過ぎても、芝生広場に場所を移して対談は続いた

伊藤:No Mapsは札幌を舞台にしていますが、これを機会に札幌に引っ越して来てほしいとか、札幌で何かを始めてほしいって意味ではありません。何かを始めるために、札幌をうまく使ってもらいたいんです。

川村:札幌だけが良くなればいいってことじゃないんですよね。実証実験の場として札幌を使ってもらって、そこで作ったり試したりしたものがほかのところで役に立てばいい。

伊藤:本来、その町ごとに、その場に合ったものが育って行くべきだと思いますが、それをそれぞれの町で実験からやるのは簡単ではありません。札幌を実証実験の場として、その結果を似た場所に展開していって欲しいと思います。10月のイベント会場では、東京も含めていろいろな場所からさまざまな人に来てもらって、ミートアップしてもらいたい。接点を持ってもらうきっかけを作れるよう、私たちはがんばるつもりです。偉そうなことを言っているけれど、今年が第1回。前半は映画祭などが中心なので、IT系の人は後半にきてもらえると楽しめると思います。

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