週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

TVCMにもタグ付け 広告でも進むAI化の波

2017年12月04日 07時00分更新

 マーケティングやコミュニケーションという枠組みの中でAIを活用するためにはどうすべきか。それを考える上で興味深い研究成果が、「NoMaps 2017」のカンファレンスセッションのひとつ、「AIからHIへ」で発表された。HIとはHuman Intelligence、「人間知」だ。コンテンツ制作会社、AI研究者、マーケター、それぞれがどのように人間知について考えたのか、なぜHIを見直すことがAI活用に必要なのか。

日本から消えた「中流」がコミュニケーションを見直すタイミング

 このセッションのモデレーターを務めたのは、アビームコンサルティング デジタルマーケティングセクターのディレクター、本間充氏だ。本間氏は最初に「日本ではデジタルマーケティングという言葉が誤った使われ方をしている」と指摘した。

アビームコンサルティング デジタルマーケティングセクター ディレクター 本間充氏

 「本来デジタルマーケティングとは、ITを使ってマーケティングをデジタル化することを意味しています。しかし日本ではウェブなどのデジタルメディアを使ったマーケティングを指してデジタルマーケティングと呼ぶことが多いようです」(本間氏)

 それに加えて、デジタルメディアを使う方が既存メディアを使うよりかっこいいという風潮もあると、本間氏は言う。しかし本来それぞれのメディアには異なる特性があり、優劣ではなくそのときどきに最適なメディアを活用すべきだ。

 「たとえばデジタルネイティブと言っても、若者がLINEで恋の告白はしません。また、DMの開封率が低いというのは神話のように語られますが、それでも開封もせずに捨てる人はいないでしょう。一方でみなさんは毎日たくさんのメールを開封もせずに捨てていませんか?」(本間氏)

 このようなメディアごとの特性をきちんと理解しなければならなくなった背景には、メディアが多様化しただけではなく、日本国内だけを見ても人々の生活様式が多様化しているという点が挙げられる。所得だけを見ても、平均値と中央値と最頻値がそれぞればらばらで、「一般的な中流家庭」という偶像はもはや描けないという。かつては性別と年齢でセグメントすればほぼ同じ収入、ほぼ同じ家庭環境に暮らしており、同じコンテンツに感動できたが、今は同じコミュニケーションで同じことが伝わる時代ではなくなったということだ。

 「日本の中だけでも多様性が出てきて、同じ広告映像、同じ映画で感動しなくなりました。コミュニケーションそのものを見直さなければなりません。そこで注目したのがHIだという訳です」(本間氏)

現代社会に適した広告コミュニケーションを模索

 岸本高由氏が所属するAOI TYO Holdings株式会社 Pathfinder室は、テレビ広告制作会社の研究開発部署だ。広告業界はコミュニケーションそのものがビジネスと言っていい。そのため、既存のコミュニケーション手法が通じなくなりつつある今、これを大きな課題と捉えている。同じ危機感を抱く企業が集い、2017年6月に結成されたのが、価値観・HIコンソーシアムだ。

AOI TYO Holdings Pathfinder室長 岸本高由氏

 「コンテンツ作成の視点から参加しているAOI TYO Holdingsのほか、CRMで顧客情報を扱ってきたシナジーマーケティング、ストックフォト業界大手のアマナ、色彩の専門家である大日本インキが参加しています」(岸本氏)

 コンソーシアムの目的は、多様性あふれる現代社会における最適なコミュニケーションデザインの研究、開発だ。これまではプロフェッショナルの勘と経験、暗黙の了解に基づいてコンテンツを制作してきたが、一様なコミュニケーションで多くの消費者にメッセージを届けるのが難しくなったうえ、そうした匠の技は伝承が困難だ。

 「作り手も、受け手も、自分たちがどのような価値観に共鳴するのかなんとなくしかわかっていません。作り手側と受け手側の行動を可視化し、機械学習(による分析)が可能な形、AIで活用できる形にするのが、コンソーシアムの今の目的です」(岸本氏)

 ミッションをより具体的に説明すれば、クリエイティブと受け手側の価値観属性の相関関係を見つけ出し、これからの時代に最適なコンテンツを模索すること。そのための共有プラットフォームを作り、コンテンツクリエイティブにおけるさまざまな知見を蓄積、共有していくという。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この特集の記事