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市場の縮小、後継者問題など山積する課題を解決できるのか

ITが水田に入らない理由 北海道米の将来性について交わされたディスカッション

2017年11月30日 07時00分更新

 「NoMaps 2017」初日のセッションリストにならんだ「農Maps@No Maps ~北海道米LABO~」。農業を取り巻く人々がそれぞれの立場から北海道米について語り、パネルディスカッションにも多くの時間が割かれた。そのパネルディスカッションを中心に、研究者、IT企業、農協などそれぞれの立場の意見を見ていきたい。

バーチャルエンジニアリングによる農業革新の可能性

 「農Maps@No Maps ~北海道米LABO~」パネルディスカッションに参加したのは、北海道農協 青年部協議会 副会長 堀田昌意氏、北海道大学大学院 農学研究院 准教授(地域連携経済学研究室)小林国之氏、システムデザイン開発株式会社 代表取締役 菅野滿氏、農業データ連携基盤協議会 副会長 上原宏氏、ホクレン農業協同組合連合会 米穀事業本部米穀部主食課 課長補佐 松尾一平氏、フュージョン株式会社 代表取締役社長 佐々木卓也氏と多彩な顔ぶれ。

 モデレーターは北海道大学大学院 情報科学研究科 特任教授 山本強氏が務めた。話題は農業の機械化や流通の効率化から、後継者問題にまで幅広くおよんだ。(以下、敬称略)

北海道大学大学院 情報科学研究科 特任教授 山本強氏

山本:なぜ農業は衰退していくのか。電気量販店でルンバが簡単に買える時代になったのに、なぜロボット除草機みたいなものは販売されないのか。そういった話を集まったみなさんでしていきたいと思います。

菅野:農家の方に聞いた話なんですが、農業は一生で30回しか勝負できないって言うんです。米は特にそうで、植えるタイミングもワンポイントなので完全に1年に1回の勝負です。これってクルマづくりと似ているんですよね。クルマの場合は開発に数年かかるので勝負できる回数はもう少し少なくなりますし、大切なのはやはり勘と経験です。そして今、日本の自動車メーカーにも危機が起きています。

山本:どういうことでしょうか。

菅野:農業も自動車メーカーも、新しいことにトライする回数が限られています。ところがクルマづくりにおいてはここに変革が起きているんです。たとえばドイツではコンピューター・シミュレーションで何度も何度も試作を繰り返し、クオリティーを上げてきています。日本の自動車メーカーはこのものづくり革新に遅れをとったのです。

山本:それは農業に置き換えるとどのようなことになるのでしょうか。

システムデザイン開発株式会社 代表取締役 菅野滿氏

菅野:農業では一生に30回しか勝負できないと言いましたが、実際にはもっと少なくなる可能性があります。というのも、農家のおやじというのはなかなか代を譲らないからです。死ぬまで譲らない人もいます。そうすると若い人が、父親を抜いていくのは難しくなる。そこで、単に生産効率を上げるのではなく、バーチャルエンジニアリングで新しいものにトライする回数を増やしたり、それを自動的に繰り返すことでコンピュータが最適解を見つけたりと、新しい切り口があるのではないかと思うんです。

 生産現場だけではなく、ITで市場を革新することも必要かもしれません。北海道のIT産業は優秀ですから、ITと米が結びつくことで電子市場を北海道に作るなど、色々な流通ルートに揉まれる必要もあるのかなと考えます。ホクレン(北海道農協)さんへの一極集中ではなく。

松尾:(ホクレンは)一極集中ではないし、そんな電子市場が生まれるならぜひ一緒にやっていきたいですよ。確かに札幌はIT産業が盛んな地域ですし、観光資源もある。そういうほかの業界と協力していくべきとは私も考えています。特に、北海道米を道外に売っていく場合には、ITを使って物流コストを下げたり、電子決済を取り入れたりと、流通だけを見てもさまざまな可能性があると思います。

農業の機械化が難しい理由と、解決の糸口を探る

山本:ルンバは簡単に買えるのに、水田用の自走型除草機がなぜないのか。そちらについてはどのようにお考えですか?

北海道農協 青年部協議会 副会長 堀田昌意氏

堀田:個人的には、ぜひ作っていただきたいですね。水田には用水路から水をいれるパイプや排水路がありますが、それらが設置されている高さや水田の深さなどは、圃場によってばらばらなんですよね。実は私は、これらを統一してロボットが動けるようにと考えて、数年前から水田の作り直しをしています。まだ道半ばですが、ゲートの場所や排水路の深さなどが決まっていれば、ひとつの機械ですべての圃場を回れるようになると信じて取り組んでいます。

山本:それは面白いですね。水田の作りから変えていくと。そういう発想がIT側の人間にないことが問題なのかもしれません。現状の田畑を見て、それに合わせた機械を作るためにものすごく苦労しています。でも、「田んぼをこうしてくれたら低いコストでいいものができる」って話を、農家と握り合えばいいと思うんです。IT側は「なんでも言うことを聞きます」って姿勢でしょう?

佐々木:いやそんなことはありませんが(笑)

菅野:私たちは製品を作る際に、機能だけではなくコストについても考えます。どのような機能の物を作れば、どれくらいの価格で、何台買ってもらえるのか。それを考えるときに一番知りたいのは、機械の導入によってどれだけコストが下がるのかということです。

 たとえば大根の場合、ロス率が25%から30%もあるんですよ。それを5%でも下げることができれば、その分は丸儲けですよね。だったら、センサーなどの設備投資をしても十分な投資対効果が得られるなと。逆に100万円も200万円もするなら、人手でやった方がいいってことになります。

 コストの観点でもうひとつ言っておきたいのは、これは日本人の全体的な特性ですが、あまり完璧なものを求めないことですね。できることとコスト、投資と効果を見極められれば、ロボットが農業に入っていく余地はあるし、ビジネスとしても成り立つと思います。

山本:品質という面では、一般消費者向けの製品づくりよりハードルは低いんじゃないかと個人的には感じます。私自身も農家に育ったので知っていますが、農家は実はエンジニアで、自宅に納屋という工場を持っています。農業機械だって故障することがありますが、たとえば田植えのシーズンに機械が壊れたからといって修理に出している暇はありません。みんな自分で直して使うんです。そういう意味では、一般消費者に比べて完璧ではないものを受け付ける土壌を持っていると思います。

菅野:そうですね。私たちの製品も3年くらいかけて農家の人と一緒になってつくりあげてきました。簡単なロボットや簡単な仕組みで解決できることって農業の現場にいっぱいあると思っています。人手で解決するためにパートを雇うと時給1000円くらいのコストになりますが、同じコストで機械化ができれば人を探す手間はいらなくなるし、ITから見ても面白いマーケットになります。

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