週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

誰のために雨は降る 感情を揺さぶる音楽ゲームノベル「Symphonic Rain」:Steam

2017年09月08日 18時00分更新

 雨は古くから読み物における人物の心象風景や思いを代弁してきた。雨は何時か止む、雨が止んだとき快晴の青空が広がっているとも。後ろ向きだけではない演出効果としても広く使われてきた。

 第58回は、そんな雨と感情が紡ぎ出す物語を紹介しよう。

 

世界観に深みを増す音楽ゲームを持ち込んだ会心のビジュアルノベル

本作品はキーボードとマウスのみの操作となる。言語も日本語字幕と音声で最後までプレイ可能だ。

 本作は過去に紹介した「Life is Strange」「Long live the queen」と同じく“ビジュアルノベル”や“アドベンチャー”と言われるジャンルの作品である。また、本作品は過去に発売されたデベロッパーである工画堂スタジオの「エンジェリックコンサート」、「エンジェリックセレナーデ」に続く三作目になる。だが、設定や世界観は共通しているが、独立した作品となっているため未プレイでも支障はない。

 また、三作品は共通して、魔力を媒体として演奏する仮想の楽器である『フォルテール』による音楽ゲームパートと、音楽をテーマにしたストーリーパートが存在している。ストーリーの紹介の前に、音楽ゲームパートの話から始めよう。本作の音楽ゲームは過去シリーズ作品共通のシステムになっており、キーボードを使用してプレイすることになる。

右から流れてくる譜面を判定ラインに合わせてキーボードを押す非常にシンプルで分かりやすいシステム(クリックで拡大)。

 劇中は音楽ゲームの結果で話の内容が可変するため、いい結果を出せるようにある程度は練習の必要がある。画像中にもあるように(難易度NORMALまでは)キーボードのホームポジションセンター部分だけ(ASDF JKL+)の譜面となっているので、ホームポジションに慣れた人なら多少練習すれば苦はないだろう。

失敗と成功でこのように変化するため、目指す結末のために練習あるのみである。

 だが、どうしても音楽ゲームが苦手な場合でも救済処置はある。オプションで難易度を下げるか、オートプレイにしてしまうかの二択である。難易度を変化させれば前述のように演奏範囲の変化とゲージの減少量が変化する。そして、オートプレイにした場合はスコアが0で固定されてしまうが、演奏が確実に成功するようになる。後者はどうしてもクリアできない場合の最終手段と考えてもらえればいいだろう。

起動画面からFreePlayを選べば、劇中でプレイした楽曲はいつでも演奏できるため。フレンドとハイスコアも競えることもできる。

歌唱パートナーに誰かを選ぶのか、それとも彼女を選ぶのか。

 音楽をテーマにした作品というのは前述で軽く触れたが、本項ではそのストーリーを紹介しよう。

 一年を通じて雨が降り続ける“音楽の街”ピオーヴァ。著名な音楽家を多数輩出するピオーヴァ音楽学院(現実でいう高校に当たる)が存在している。その学院のフォルテール科に通う卒業間近の三年生である『クリス』がプレイヤーの分身となる。

クリスには遠距離恋愛中の『アリエッタ』という恋人がいる。

 彼女の手紙から始まるストーリーは離れたクリスを心配する他愛のないものである。それもそのはずで、彼は楽観主義者というわけではないのだが、事なかれ主義に近いような性格である。卒業発表として、歌唱パートナーと共にフォルテールを演奏しなければならないのだが、その歌唱パートナーが決まっていない。この、卒業までの三ヵ月の間にパートナーを見つけることと、卒業後にどうするかを考えるのがストーリーの主軸となる。

 ただ、前述のような人を選ぶ性格と、他人とのコミュニケーションを自ら取りに行くようなタイプではないため、行動や選択次第では最後の最後まで誰かを自発的に選ぶこともなく終わってしまう場合もある。そのために プレイヤーは彼の行動をプレイヤーであるあなたがどうしたいのかを文章に重ねながら彼をコントロールしていく必要がある。

幕間では、どこへ行くかを決めることでイベントが発生する。

 日々の生活の幕間では、クリスの行動をプレイヤーが指定することで特定のイベントが発生する。パートナー探しに伴うイベントがメインとなるが、練習室へいけば音楽パートの練習も可能だ。ただし、移動した後は他の場所へ移動できないので状況に合わせて選んでいこう。

 イベント以外にも、彼を劇中でフォローしてくれるのは恋人の『アリエッタ』と担当講師の『コーデル』だけではない。その恋人の双子の妹でもある『トルティエッタ(トルタ)』と同学年の唯一の友人『アーシノ』、謎の同居人(?)である『フォー二』の三人だ。

自称音楽の妖精フォー二、クリス以外には彼女の存在も声も認知されないが、ある意味やる気になれないクリスを最後まで引っ張ってくれる。

 本作品は音楽をテーマにしているとは前述したが、もうひとつ『優しさ』という隠れたテーマがある。

 劇中では歌唱パートナーを選ぶことで、クリスの行く末も見る景色も変わっていく。それもそのはずで、本作品は恋愛アドベンチャーとしての面がメインである。クリスは離れた恋人を意識するあまり他者と意図的に距離を離そうとするのだが、歌唱パートナー候補となる三人は全て女性である。その意味が何をもたらすのかは自身の目で確認していただきたいが、優しさとは時に自身を含めて誰かを傷つけてしまうのだと嫌でも知ることになるだろう。心に沸いた感情や言葉、疑問はそれを認知すれば否定できなくなる存在感を示してしまう。その認知は大きなトゲとなってプレイヤーの心に残り続ける。

劇中の選択肢は、まさにその結果を選ぶ必要がある。

 劇中の雨は悲しさなのか、涙を隠すために降るのか、Da Capoのように疑問は最初へと戻っていく。

音楽とは音を楽しむと書く

 本作品の音楽は、音楽ゲームを銘打つだけあり完成度は非常に高い。キャラクターの心情や、ストーリーに沿ったBGMや楽曲は、最後までプレイヤーの感情を大きく揺さぶる。全楽曲と作詞担当であった『岡崎律子氏』の闘病中に作られた遺作とも言える本作品は、現在では漫画家として有名な『しろ氏』の線の優しい絵と相まって強烈なまでのアンサンブルを生み出している。劇中でも感情が音楽を左右すると言われるように、あなたが本作品をプレイした後に心の中にどのような感情を感じるかはわからない。だが、最後まで雨のように降り続ける、感情を揺さぶる素晴らしいシナリオと、そのアンサンブルに巻き込まれた時に感じる熱い物を必ず、あなたは感じるであろう。

 劇中の雨のように、雨や音が示すのは決して『悲しさ』だけではない。そんな劇中のとあるキャラクターの思いを込め、今回は音楽用語で終わりの意味を持った言葉を持って閉めるとしよう――fineと。

Symphonic Rainの推奨動作環境は?

 CPUは2Ghz以上、メモリーが2GBと詳しいスペックの記述がないため、現在販売されているパソコンのスペックとWindowsが快適に動く環境下であれば問題は無いかと思われる。だが、個人的にはゲーム内サウンドを聞ける環境が必須であると明記したい。スピーカーでもヘッドフォンでも良いが、自分が音楽に没頭できる環境下でプレイすることを強く推奨する。

『Symphonic Rain』
●KOGADO STUDIO
●4400円(2017年6月15日リリース) ※価格は記事掲載時点のものです
対応OS Windows 7以降
ジャンル ビジュアルノベル、音楽、アドベンチャー、雰囲気
©2016 KOGADO STUDIO,INC.

■著者:rate-dat
・Steamのプロフィールページ:Steam コミュニティ :: ratedat
・Twitter:@rate_dat

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事