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Windows情報局ななふぉ出張所

『OneNote』は無料化とAPI公開でEvernoteに対抗できるか

2014年03月19日 17時00分更新

 マイクロソフトは3月17日(米国時間)、Mac版のOneNoteアプリ『OneNote for Mac』を無料で提供することを発表(関連記事)しました。さらにWindows版のOneNoteについても無料配布が始まり、APIやサードパーティとの連携機能も合わせて発表するなど、さまざまな試みが始まっています。

OneNote
↑『OneNote for Mac』。Mac App Storeから無料ダウンロードできる。

 なんといっても有料だったOneNoteが無料化されたことに注目が集まりがちですが、その発表内容を見ていくと、Evernoteを強く意識した内容になっていることが分かります。そこで今回は“対Evernote”という視点から、新しいOneNoteの可能性を探っていきたいと思います。

■ライバルEvernoteの強みは“プラットフォーム”であること

 マイクロソフトはOneNote for Macや無料版のWindowsアプリと合わせて、『OneNoteサービス』というAPIを公開(関連記事)しています。これにより、ほかのアプリやサービスから簡単にOneNoteへ情報を送り込むことができるようになりました。

 公式ブログはこのOneNoteサービスについて、「ユーザーのデジタル記録のハブとなり、他のアプリケーションやエクスペリエンスと接続して、任意のアプリケーションからOneNoteに簡単にコンテンツを送信することができるように」なるものと説明しています。これはまさに、Evernoteが目指してきた方向性と一致するものです。

 もちろん、Evernoteを始めとするノートアプリの最も重要な機能は、メモを保存することです。しかしEvernoteは、もはや単純なメモや画像を保存するアプリという枠を超え、蓄積したノートをデータベースとして活用し、他のアプリやサービスと連携するためのインターフェイスを備えている点が特徴です。

 たとえばEvernoteの開発者向けサイト(関連サイト)では、EvernoteをAPI経由で利用するための情報が充実しています。iOSやAndroidといったプラットフォーム単位の情報だけでなく、JavaやC#、PerlやPHPといったプログラミング言語ごとにEvernoteを利用するためのライブラリが提供されています。これはWeb APIをもとに自前で呼び出しを行なうのに比べて開発コストを下げることができます。何より、プログラマーとしてもここまでお膳立てをされれば、試しに何かつくってみたくなるというものです。

 また、EvernoteはAPI以外にもコマンドラインのツールやメールによるノートの追加といったインターフェイスを用意しており、これらはプログラミングを使わずに既存のシステムとEvernoteを連携させることができるため、プログラマー以外のIT技術者でも扱うことができます。

 このようにEvernoteの強みは、単なるノートアプリとして優れているだけではなく、ほかのアプリやサービスと連携する“プラットフォーム志向”にあり、サードパーティを巻き込みつつ拡大してきたエコシステムが重要だと筆者は考えています。

 このプラットフォームとしてのEvernoteに対抗する意気込みが感じられるのが、今回のOneNoteの発表です。

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↑Officeの公式ブログに掲載されたエコシステム全体図。各プラットフォーム向けのアプリだけでなく、APIやサードパーティ製品との連携が面白い


■ブックマークレットやメール送信でのノート作成に対応、APIも公開

 それでは、具体的なOneNoteサービスの中身を見ていきましょう。『OneNote Clipper』は、ウェブブラウザーから任意のウェブページをOneNoteにクリップできるブックマークレットです。ブラウザーのお気に入りに登録できるJavaScriptによるブックマークレットのため、Internet Explorerだけでなく、Google ChromeやFirefoxに対応している点が嬉しいところです。

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↑WebページをOneNoteにクリップ。サーバーサイドでのキャプチャのせいかブラウザーでの見た目のままではないものの、動作は軽快だ。

 また、Evernoteなどノート系のアプリでは定番となっているEメールでのノート投稿にも対応。OneNoteと関連付けたメールアドレスから“me@onenote.com”にメールを送ることで、OneNoteにノートを追加できるというしくみです。これはメールボックスから任意のメールをOneNoteに転送するといった使い方のほかに、APIの代わりとして簡単なアプリ間連携をしたいときにも便利な機能といえます。

 さらにカメラで撮影した写真をそのままOneNoteに保存できるWindows Phone用アプリとして、『Office Lens』(関連サイト)も公開中です。

 APIなど開発者向けの情報は、OneNoteデベロッパーセンター(関連サイト)で、すでに日本語翻訳済み。サンプルコードはGitHub(関連サイト)でも提供され、開発者向け情報を扱うブログも開設(関連サイト)されています。ソースコードはWindowsストアアプリ、Windows Phoneアプリ、iOSアプリ、Androidアプリの4種類についてサンプルがあり、APIを使ったノートの投稿やウェブページのキャプチャー保存について例を示しています。

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↑GitHubで公開されているサンプルコード。再利用できるライブラリというよりは、呼び出し方を示したサンプルに近い。

 さらに、サードパーティとの提携も発表。RSSリーダー『Feedly』(関連サイト)や、ウェブサービス間の連携ツール『IFTTT』(関連サイト)で、OneNoteを利用できるようになります。紙との連携としては、エプソンやブラザー工業のスキャナーに対応。紙データを蓄積する目的でもOneNoteを利用できるようになっています。

 これらは、いずれもEvernoteのエコシステムをお手本に模倣したかのような印象を受けるものです。

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↑Feedlyには、RSSフィードをOneNoteに保存するためのアイコンが追加された。

 たしかに従来のOneNoteは、OneDriveやOffice製品のようにマイクロソフト内での連携には優れていたものの、サードパーティとの連携は弱かったといえます。しかし今回のOneNoteサービスにより、完全にEvernoteを追撃する体勢に入ったといって良いでしょう。

■OneNoteは先行するEvernoteに追いつけるか

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 EvernoteやOneNoteは、単にノートを取るアプリとしても十分に便利なものです。それに加えて“エコシステム”を活用できれば、さらに強力なプラットフォームに変身するでしょう。

 たとえば筆者が使っているEvernoteには、メモだけでなく、コマンドラインのツールやスマートフォンのカメラからもデータを送り込んでいますし、オンラインのデータソースからRSSフィードやツイートを取得し、保存する仕組みを自動化しています。

 さらに、OneNote特有のメリットとしては、アプリの自由度の高さが挙げられます。Evernoteのアプリはリッチテキストを上から下へと書き進めていくワードプロセッサー的なインターフェースにとどまっているのに対し、OneNoteはテキストや画像の配置の自由度が大幅に高いのが特徴です。また、無料で使える容量についても、Evernoteは月間の送信量が60MBであるのに対し、OneNoteはOneDriveが持っている7GBの容量をそのまま利用できる点が異なります。

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↑リッチテキストエディタといった体裁のEvernoteに対し、OneNoteはどこにでもテキストや画像を配置できる自由度の高さが魅力。

 その一方で、現時点での知名度や便利さという点では、Evernoteが一歩上回っている印象も受けます。無料化をきっかけにOneNoteを使おうとしても、これまでEvernoteに蓄積してきた何年分ものノートを移行することは容易ではありません。かつてのEvernoteはアプリの完成度に疑問を感じた時期もありますが、現在ではおしなべて安定しており、Windows版のOneNoteの魅力的な機能である手書きについても、EvernoteのAndroid版で新たに対応するなど機能強化が続いています。しかしOneNoteではAndroidアプリで日本語が”中華フォント”表示になるなど、Windows版以外の完成度には不安が残るところです。

 OneNoteがもう少し早くプラットフォーム化を打ち出していれば、Evernoteにここまで先行を許すことはなかったのではないかと思います。しかし今後、新しくクラウドベースのノートアプリを使ってみたい新規ユーザーにとっては、魅力的な選択肢が増えたことは間違いありません。

■関連サイト
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山口健太さんのオフィシャルサイト
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