セガのレジェンドとNVIDIAのCEOが秋葉原に集結!!
NVIDIAのジェンスン・フアン氏が秋葉原でセガに賛辞 これは巨大テック企業のトップによる社交辞令ではなく、セガのゲームに脳を焼かれたゲーマーの叫びだ
2026年07月16日 14時00分更新

NVIDIAを「謎の半導体企業」と表現する人は流石にもういないだろう。少し前はPCグラフィックス、今はAI業界を牽引するビッグテック企業である。そんなNVIDIAも創業期に技術選択に失敗して死にかけており、その窮地を救ったのがセガだ。アーケードゲーム界に数々の名作ゲームを送り出し、「メガドライブ」(1988年)「セガサターン」(1994年)「ドリームキャスト」(1998年)といった家庭用ゲーム機を出したセガである。
2026年7月16日はNVIDIAの共同経営者ジェンスン・フアン氏が来日し、日本政府や企業とさまざまな協力関係を結んだ歴史的な1日だったが、同時にNVIDIAとセガのレジェンド達が秋葉原GiGOに集結した日でもあった。東京では熱中症警戒アラートも出る中、ジェンスン・フアン氏はいつも以上に暑苦しい(失礼)革ジャン姿で登場したが、語った内容はそれ以上に熱いメッセージだった。
右から「革ジャン」(業界内での愛称)こと、NVIDIAの共同経営者ジェンスン・フアン氏、セガの内海州史(うつみしゅうじ)社長、入交昭一郎(いりまじりしょういちろう)元社長、そして現YS NETのCEOである鈴木裕(すずきゆう)氏。ほぼジェンスン・フアン氏がひたすらしゃべり倒したイベントだが、想像以上に熱かった
あの頃、NVIDIAは間違っていた
話は1993年ごろ、NVIDIA草創期にさかのぼる。当時ゲームセンターでは「バーチャレーシング」や「バーチャファイター」といった3Dグラフィックを使用したセガ製ゲームが稼働していたが、ジェンスン・フアン氏は(仕事もせず)これらのゲームに熱狂していた。ポリゴンベースの3Dグラフィックを使用したゲームはナムコ「ウイニングラン」などが先行事例としてあるが、ジェンスン・フアン氏はセガのゲームに夢中だったようだ。
ジェンスン・フアン氏(以降、JHH氏):1994年、私はセガの鈴木さんと入交さんに会うために日本に来ました。NVIDIAは創業したばかりで3Dグラフィックのチップを開発していました。
JHH氏:しかし、当時はPCでは3Dゲームを作っている人は誰もいません。1994年の時点ではアーケードゲームが唯一の3Dゲームだったからです(筆者注:ポリゴンで世界を表現した「Quake」は1996年リリース)。そして、「本物の」3Dゲームは鈴木さんのAM2研が開発した「デイトナUSA」や「バーチャファイター」でした(筆者注: 3Dグラフィックを使用したゲームではナムコも当時の先端を走っていた。セガ愛を込めた上での発言だろう)。
JHH氏:(デイトナUSAなどの)こうしたゲームのグラフィックスの美しさや滑らかさは、本当の3Dでないかと疑うほどのものでした。完全に3D(ポリゴン)で構成され、テクスチャーマッピングも施されているからです。そこで私たちは日本へ行き、「NVIDIAを支援してほしい」とお願いしました。
JHH氏:その頃のNVIDIAは新しい3Dグラフィックの技術(後述)を開発中でした。高フレームレートを低コストで実現するものです。これで家庭用ゲーム機を作るための支援をお願いしました。その家庭用ゲーム機とはセガサターンの後継機で、のちにドリームキャストと呼ばれるものです。
ジェンスン・フアン氏の話は(イベントの性格上)若干端折られている。1994年にジェンスン・フアン氏がセガを訪れたが、その翌年の1995年春にNVIDIA初のマルチメディアアクセラレーターチップ「NV1」をリリースし、同年秋にはDiamond MultimediaよりNV1搭載カード「Diamond Edge 3D」が発売される。NV1はグラフィック描画のみならず、サウンドの再生やゲームパッドの接続も可能にする多機能な製品だった。当時はまだDirectXは世に出ていなかったので、各社独自のAPIで動かしていた。NVIDIAも独自路線を進んでいた。
NV1で採用している技術のうち、当時のNVIDIAが重視していた技術は「Curved Surface」というものだ。同じ曲線を描くのに多数の三角形(Triangle)で近似しつつ描画するのではなく、少数の制御点で直接描くという技術である。円を三角形の集合で粗く描けば輪郭がガクガクしてしまうが、Curved Surfaceで表現すれば数学的に滑らかな円が少ない制御点で描ける。このエレガントさにNVIDIAは賭けたが、これが失敗だった。
NV1が採用していたCurved Surface(左)と、業界標準となるTriangle(右)で円を描いた時の違い。Curved Surfaceは少ないデータでも滑らかな曲線が描けるが、Triangleは近似に過ぎないため、分割数が少ないと多角形に見えてしまう
理由はCurved Surfaceの実装はTriangleより複雑、かつ交叉判定や変形させる場合の計算が難しく、さらに3Dをモデリングするツールも限られるという点にあった。見た目が多少ガクガクしていても処理が実装しやすく、開発もラクなTriangleが選ばれたのだ。当時のゲーム解像度は横320ドットからせいぜい640ドット程度だった時代であったため、多少ガクガクしようと今ほど目立たないということもあるだろう。そして、MicrosoftがDirect3DでTriangleを選択したことで、Curved Surfaceの運命は決まった。
さらに、NVIDIAはテクスチャーマッピング技法の選択も誤った。セガサターンやNV1は業界標準となる「Inverse Texture Mapping」ではなく「Forward Texture Mapping」を選択している。スクリーン空間を横に走査してテクスチャー空間(テクセル)における対応点を探す(Inverse)か、テクスチャー空間を横に走査して画面に対応する点にテクスチャーの断片を置いていく(Forward)かの違いだが、後者は実装が比較的シンプルでメモリー帯域の細い時代では効率的だ。しかし、拡大率や角度によってはテクスチャーのない「穴」ができる。対して、前者は実装が複雑(テクセルはランダムアクセスに近くなる)だが画質で有利になる。
Forward Texture MappingとInverse Texture Mappingの違いを簡単に図にしてみた。テクスチャーを横に走査し(ポリゴンが傾いていれば)斜めに描画するのが前者、表示するポリゴンを画面に対し横に走査し斜めにテクスチャーを読むのが後者である。処理はForward Texture Mappingのほうがラクだが、テクスチャーと画面表示のドット比率が違うとテクスチャーに穴が発生するという欠点がある。一方で、Inverse Texture Mappingは画面奥になるほどテクスチャーの同じような領域を何回もスキャンするので効率はあまり良くないが、そのぶん画質は良い
Forward Texture Mappingの弱点である穴の発生については、NV1やセガサターンは対策していた。だが、これでも半透明の処理が破綻しやすいという別の欠点が残っていた。DirectXを含めた業界が実装コストは高くても欠点の少ない(=脳筋処理)Inverse Texture Mappingを選んだ理由がここにある。
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