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私→WRC

第49回

ラリージャパンでメカニックを体験したレースクイーンの赤城ありさがあの苦労を振り返る

2024年03月24日 12時00分更新

11月17日は体調不良で朝のサービスはお休みに

 結局、車検が終わった後の疲労感は体調不良レベルまで進行してしまったため、11月17日(金)DAY2朝のサービスはお休みさせていただきました。体調管理も仕事のうちです。猛省し、悔しい気持ちをバネにしてその後のサービスに取り組みました。

 今回のラリージャパンのサービスタイム(クルマを整備できる時間)はA~Fまであります。つまるところ、サービスパークでのメカニックのお仕事はラリーウィーク中6回あります。また、朝のサービスは15分、昼のサービスは40分、夜のサービスは45分と作業時間が決まっています。

 私は朝のサービスA(15分)は不在だったため、昼のサービスB(40分)から参加しました。ブレーキジャダー(ブレーキを踏むと振動が起こる現象)が起こったため、ブレーキチェックをして、車高も変更。天気が悪かったので、タイヤはハードからウェットに交換しました。

 このとき私にできることはなかったので、ほかのメカさんの邪魔にならないよう、車体清掃や窓拭きに注力しました。雑巾と紙ウエスを駆使して、ピカピカになるまで拭きあげます。特にスポンサーロゴ周辺やウィンドウ類は心を込めて磨きあげました(ASCII.jpのロゴも!)。

赤城ありさ

サービスBの様子

 クルーの皆さんを見送り、昼のサービスと夜のサービスの間はサービステント内を掃除したり、チームの皆さんの昼食の買い出しに出かけたりしました。買い出し担当の特権は、好きな昼食を買えることです。

 大貧民の赤城は、普段あまり手が出せない明治「R-1」(ちょっとお高めの乳酸菌飲料)や栄養ドリンク、カップ麺を、松井監督の顔色を窺いながらカゴにそっと入れていきます。もちろんみんなの分も入れましたよ!

 そしてサービステント内には立ち寄ってくださるスポンサーさまや関係者の皆さまのために、お茶やお菓子、軽食を常にストックしているため、そちらの補充も欠かせません。そのため、1日1回の買い出しがかなりの量になるので、3人がかりで手分けして運びます。これが結構な重労働でした。

 買ってきたものは、お店の陳列棚と見間違うくらいにサービスパークのホスピタリティテントに丁寧に陳列していきます。ラベルは正面! 種類ごとに分けて美しく並べるのです。ほかの現場(レースなど)ではここまで用意されているのを見たことがないので、長期戦となるラリー特有の文化なのでしょうか? ホスピタリティ精神に溢れているなと思いました。

赤城ありさ

一仕事終えて、楽しいランチタイム! ASCII.jpのスピーディー末岡さんと

エア抜き工具をエアゲージと間違う痛恨のミス!

 サービスCではブレーキエア抜きをしました。ここで赤城、とんでもない勘違いをしてしまします。和田チーフメカから「エア抜きするけど使う工具わかる?」と抜き打ちテストが入ります。「エア抜きですね! 任せてください!」と、私は工具箱からエアゲージを取り出してドヤ顔。キマッた!と思ったのですが、これがメカさんたちにめちゃくちゃ笑われてしまいました……。

 エア抜きとは、ブレーキ配管の気泡を除去して、ブレーキのタッチや効きを改善させる作業です。エアゲージはタイヤの空気圧を調整するもので、まったくの別物でした。さらにブレーキのエア抜きには、ブレーキフルードブリーダータンクを使用します。また1つ賢くなりました(涙)。

赤城ありさ

落ち込んでいる暇はない。ブレーキフルードブリーダーをスマホで調べる赤城

泥の塊を落とすのもコツがいる

 競技は悪天候によりSS4がキャンセルになり、車両の到着も渋滞によりかなり遅れました。帰ってきた車両は泥まみれ。雑巾で懸命にボディーを拭きますが、幾度となく泥を被ったせいか、泥がぼこぼこの塊になっていて全然取れません。

 するとひょこひょこ松井監督がやってきて、「そんなふうに擦ったら傷が付いちゃうでしょー!」と雑巾をバケツを奪われました。右手に雑巾、左手にバケツを持って、雑巾をじゃぶじゃぶ水に浸します。

 「こーやって雑巾を絞らずに拭くんだよ」と監督自らボディーを拭き始めました。なるほど、泥が水に溶けてどんどん落ちていきます。泥を落としたあとは、グランドシート(メカニックテントの下に敷いているシート)にたっぷり滴り落ちた泥水を拭き取ります。メカさんが車両の下に潜り込んで作業をするときに、泥水があってはならないという気遣いです。監督への尊敬度が、爆上がりしました。

赤城ありさ

泥まみれの車両を拭くと新品の雑巾も一瞬で真っ黒に

短いサービスでもやることが多い

 サービスCは作業量が多かったです。エンジンオイル、リアデフオイル、トランスファーオイル、ミッションオイルをすべて交換。ドライバーの村田選手からの要望があり、残り15分でフロントブレーキパッドをさらに効きの強いものに交換もしました。タイヤは監督が新たに用意したドライのソフトタイヤに交換しました。

 私は今回も左側を担当し、ウマ(Rigid Rack。一時的に車両を上げておくツール)を入れたり、ハブガタを見てタイヤの前後を外しました。ちょっとずつ周りも見れるようになってきて、作業も楽しくなってきました。

赤城ありさ

ハブガタの確認の様子

 そんなサービス後の豊田スタジアムのSSでは、ソフトタイヤがバッチリ合って、好タイム。とても良い気分でDAY2を終えました。

11月18日はギャラリーも多くて緊張度合いMAX

 11月18日(土)DAY3は朝4時30分にホテルロビー集合でサービスパークに向かいます。

朝イチのサービスDは15分。深夜に降雨があったため、タイトな時間の中、車高やアライメントを変更しました。さらにタイヤを前後ウェットに交換、スペアにドライ用ハードタイヤを2本積み込んで、との指示が。

 ついに私の出番がやってきました。タイヤ交換の左側を任され、電動インパクトレンチでタイヤを外す作業に入ります。赤城メカ、満を持して挑みます!

 しかし、初手でインパクトが空転し、ホイールナットがうまく緩められません。練習した時よりもガチガチに固い! たくさんのギャラリーが見ている中で、頭が真っ白になります。「大丈夫! 落ち着いて!」と、メカさんに声をかけられ、はっとします。

 電動インパクトレンチをがっちりと握り直し、再度トライして何とかすべてを外し終えました。ウェットタイヤを交換し取り付け、トルクレンチで増し締めして、作業終了です。悔しさと恥ずかしさで、胸がいっぱいになりました。

赤城ありさ

タイヤ交換に苦戦する赤城

 後日、このことを和田チーフメカに話すと、ホイールナットの固さは練習の時と変わらないと言うから驚きました。

 「あの場の空気に飲まれて、力を発揮できなかっただけだよ。ギャラリーも見てる、時間の制約もある。ラリーメカを初めてやるってのは、そういうものだから」

 腑に落ちるとともに、次は絶対うまくやりたい! という気持ちになりました。

サービスパーク以外で整備をすることもある

 ラリーサービスは、サービスパーク以外でも車両の整備をすることがあります。代表的な例としてリモートサービス(移動区間にある簡単な整備エリア)などが挙げられますが、今回ラリージャパンでは初めて「タイヤフィッティングゾーン」というエリアが導入されました。

 リモートサービスとは異なり、使用できる工具がウマとジャッキ、ラリーに車載された工具のみと制限されています。さらに、整備が許される時間は15分のみ。また、タイヤフィッティングゾーン内で作業ができるのも、クルー自身2名とメカニックの2名に絞られます。

 この日のタイヤフィッティングゾーンは岡崎総合公園のリグループ後に設けられました。ちなみ村田選手/梅本選手と同じクラスで、DAY2にトップを走っていた勝田範彦選手は前日DAY2夜のスーパーSSでリタイヤ。次にクラス首位となった新井敏弘選手もデイリタイアとなり、なんと着実に走り続けた村田選手/梅本選手はSS10終了の時点でクラス首位に浮上しました。

 タイヤフィッティングゾーン前のリグループエリアに入ってきたGRヤリスにむけて、「おめでとう!」「いや、まだ早いぞ!」という会話が飛び交います。そんな和気あいあいとした雰囲気の中、クルーはチームが用意した食事をとります。

赤城ありさ

ランチを梅本まどか選手に届け、ひと時の談笑を楽しむ

 気がつけばもうリグループアウト→タイヤフィッティングゾーンです。慣れない多くの国内チームは、勝手が分からずてんてこまい。駐車場を柵で囲ったスペースがタイヤフィッティングゾーンとなったのですが、車両を停める場所があらかじめ定められておらず、来場者順で慌ただしく整備が始まります。

 持ち込める工具も限られているため、私たちのGRヤリスはフロントタイヤの交換だけして、さくっと作業は終了しました。私は柵の外から見守るだけでしたが、車両に損傷も見当たらず一安心しました。

赤城ありさ

車両整備を終え、問題なしと安堵する

 ちなみにワークス勢は15分のタイヤフィッティングゾーンで、タイヤ交換だけでなくオイル交換、さらに足周りのセッティング変更などもしていました。ワークスドライバーたちも自らテキパキ作業。ワークスドライバーはメカとしても優秀なのです。ワークスマシンは車載工具やスペアパーツも厳選されているんだなぁと感心しました。

 午後のループは特にトラブルもなくDAY3が終了しました。ただ、DAY1にデイリタイアしたTOYOTA GAZOO Racingの眞貝選手がすごいタイムで追い上げてきているので、ちょっと心配です。

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