アップルの圧倒的量産力が可能にした「iPhone 15 Pro」USB-C採用の背景は
USB-C採用、MFi認証もなしの背景
もうひとつのトピックはもちろん「USB Type-C(アップル的に言えばUSB-C)」の採用だ。
ご存知のように、EUでルール化された関係から、スマートフォンで業界標準であるUSB Type-C以外を充電に使うのは難しくなった。Lightningを使い続けてきたアップルも、いよいよ変化に対応せざるを得なくなってきた、というところかと思う。
Lightningが生まれたのは2012年のこと。実に11年も使い続けられたことになる。
USB Type-Cの登場は2014年。普及には少々時間を必要としたものの、いまや文字通りの「スタンダード」になった。筆者が現在取材のために宿泊しているホテルのベッドサイドからも、まるでコンセントのようにUSB Type-Cが付けられていたくらいだ。
アップルがなぜここまでUSB Type-Cの採用を引き延ばしたのか、正確な理由はもちろんわからない。ただ、ひとつの本音として「複雑な規格を採用したくない」という気持ちはあったのだろうと思う。
USB Type-Cは電源としても転送規格としても複雑で、「ちゃんと理解し、ケーブルを吟味して使う」ことが望ましい。一方でLightningはアップルが「Made for iPhone(MFi)」という認証プログラムで守ることで、「正規ライセンス品を選べばトラブルは少ない」という利点はあった。
ただ一方、それはケーブルの選択肢を減らすことにもなるし、ユーザーが複数のケーブルを使い続けなくてはいけない理由ともなっていた。
iPhoneに搭載されてきたLightningはUSB 2ベースの技術であり、転送速度が480Mbpsまで、という問題もあった。だがアップルは「iPhoneでの転送速度ニーズはそこまで大きくない」と考えていた節がある。Proモデルで高画質撮影=大容量なデータニーズを訴求するのは矛盾する流れだったのだが、どうにもバランスが取れていなかったと感じる。
ある部分強いられたところはあるものの、ようやくアップルは「バランスをとりなおす」タイミングに来た。
USB Type-Cコネクターを採用するものの、iPhone 15シリーズとiPhone 15 Proシリーズではベースが異なる。前者はUSB 2ベースで480Mbpsまで、後者はUSB 3ベースで10Gbpsまでと、高速転送が可能になる。
A17 ProにはUSB 3を処理するコアが入っており、A16までは「USB 2ベースのLightning」を処理するコアだった。SoCの再設計はある意味良いタイミングだったのだろう。
ただし、付属するのはどちらの製品でも同じUSB 2.0対応のUSB Type-Cケーブル。Proシリーズで高速転送を活用するなら、別途「USB 3対応のケーブル」を用意する必要がある。
「Proはケーブルを変えればいいのに」とも思うが、実際のところケーブルの単価はけっこう変わる。Pro購入者の全員が高速転送を求めるわけではないから……と考えての判断だろう。わからなくはない。
ただしここで「バランスをとりなおす」のは、業界標準に乗りMFiのような「自社向け認証」をケーブルでは使わない、という判断を含む。
MacはUSB Type-Cを全面採用しているが、ケーブルにはMFiに相当する認証はない。それと同じ考え方だと思うとシンプルだ。
業界標準を使っていて、USB 3対応で高品質なケーブルは市場にたくさんある。「だったら自由に選んでもらえばいい」ということで、MFiも用意しないし同梱ケーブルも充電を軸に据えたコスパの良いケーブルで……。アップルの判断はそんなところではなかろうか。
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