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災害対策の主体が分散してしまっている問題:

首都直下地震が来たらこれがヤバい。清水建設の社会実験で分かったこと

2023年03月31日 11時00分更新

「LINEを使わない人」にどうやって情報を届けるか

大村 そして12月15日にはここミチラボで、国交省、東京都、江東区、学識、地元住民、民間企業を入れた合計39名でディスカッションしました。

── 御社が想定したノードとリンクについて議論したと。どんな成果があったんでしょう?

大村 まず、民間側からすると本音ベースで国交省、東京都、江東区がひざづめで交通と防災をテーマにディスカッションする場は意外となかったんです。そこに地元の住人もいて、民間企業もいて。ある程度クローズな場ですから、一個人の意見でもいいから話してくださいと言えた。それ自体がいいセッションだったなと。

── なんと、そういう場がなかったと。めっちゃ意外ですね。

大村 今回の取りまとめを国交省、東京都、江東区、地元住民の方々に報告したところ、「継続してこういった社会実験や議論の場を企画してほしい」とお話をいただきました。

── 三すくみじゃないけど、誰がやるか分からないという中で、一石を投じるという意味があったということですかね。具体的にはどんな話が出たんですか?

大村 たとえば参加された豊洲のマンション自治会の会長からは、ケータイを使った情報収集・発信を行うような社会実験をすると、「LINEなんかそもそも無理」という方がそもそも参加しづらいという声があったと。ケータイとかLINEを使えない人を排除してしまうのではないか?という議論がありました。

── それは永遠のテーマだと思います。情報の有無が生死を分けることもあるから、すごく重要なテーマですよね。

児玉 「災害時のためにLINEを使ってください」と言っても、高齢者に限らず導入しない人が多いので、防災のためだけのツールというのは持続可能性がないというのがそのときの議論でした。地域クーポンなど日常的に自然と使いたいと思えるサービスに、災害時には重要な情報が入ってくるという設計が必要ではないかという話になりましたね。

國學院大學の専任講師・児玉千絵先生(オンラインで参加)

宮原 これは個人的な意見ですが、LINEを使えない人は逆に地域の人のネットワークを持っていることが多いかなと思うんです。今回のように地域の人たちが集って防災について意見交換したり、意識醸成をするようなイベントを継続的に開催することで、人のネットワークから情報をもらったりもできるのかなと。そういう人のネットワークづくりに貢献することも我々の役割かと思いました。

── なるほど。

宮原 自治会の会長さんが「今回防災展示に来ている人は防災意識がすごく高い人だ。いかに防災意識が弱い人にいかに発信していくかが重要だ」ということで悩んでいらっしゃって。イベントを継続的にやっていくこともひとつできることだし、そういうところに貢献できる活動をしていきたいなと。

── お祭りとかも本来はそういうものだったのかもしれないですよね。もとをたどれば百数十年前の災害だったりするじゃないですか。

児玉 補足として言うと、日本の政策として、防災は自治体がやることとなっているんです。そのとき自治体としては「全員救います」としか言えないんですよ。そのために議論が「防災訓練も100%参加しないとダメなんじゃないか」とか「参加しない人は見捨てるのか」といった極論にふられがちなんです。ただ現実的なことを考えると、全員が防災意識Maxで率先して日頃から防災訓練に参加していて、災害時も率先して避難するなんて不可能ですよね。日常的に忙しくて防災訓練に出られない人や世代がいますから。

 最近の研究では、どれくらい防災意識の高い人にどれだけ防災訓練コストをかけると、最終的に生存率が高くなるかという研究があって。こうしたイベントに出てくるような防災意識の高い人の意識を50%あげると、防災意識がそんなに高くない人の生存率も高まると。そこでこうしたイベントと、炊き出しと称さないキッチンカーイベントなどを民間が入って実施することで、バリエーションを持ってアプローチできるのではないかと。

大村 それに関連して、今年3月11日にアイドルマスターと連携した「豊洲ぼうさいFestiv@l 2023」というイベントが開かれまして、1万5000人が集まりました。江東区さんが地震車を出すなど企画はしっかりしているんですが、集まったのはアイドルマスターが好きな人。我々も「明日の危機」のリニューアル版を展示したんですが、2日合わせて300人の方がよく話を聞いてくれました。先ほど児玉先生が言っていたように、まったく興味がない人も、色んなイベントをからめることでまじめに聞いてくれるんだなと。

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