週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【前編】西田宗千佳×まつもとあつし対談~『レイヤー構造』で考察し直す動画視聴行動

日本ではYouTubeが地上波1チャンネル分の価値を持つ

日本のゴールデンタイムでも動画配信は無視できない

 さて、海外の事情はよくわかったということで、ここからは日本の事情を少し考えてみたいと思います。これについては、NHKの文化研究所が出しているデータを見ながら話すのがベストかなと。2021年の「メディア利用の生活時間調査」をまとめたインタラクティブなグラフが非常によくできています。

メディア利用の生活時間調査(NHK文化研究所)

 日曜のゴールデンタイム、19時台に20代の男性・女性がどんなメディアに接触しているかというのをグラフにしたものです。

 これ、実は時間を変えるとインタラクティブに変わるので、皆さんもご自身でいろいろ見ていただきたいなと思うんですけれども……ポイントは、日曜のゴールデンタイムという、テレビを一番見ている時間帯に、男性の場合はリアルタイムでの放送が10%、それに対して動画配信が4.2%あるということですね。

 さらには、同時にスマートフォンが利用されていて、スマートフォンでの動画の利用が11%と、実はテレビの視聴量を上回っている。じゃあ女性はというと、スマートフォンを使っている時間自体は短いんですけれども、テレビを見ていて、同時にやっぱり動画も見ているということが言えます。

 じゃあ高齢者はどうなんですかという話になると、さすがにテレビのリアルタイム視聴が増えるわけですよね。でも、動画視聴も1%いるんです。さらに、10代は当然のことながら、自分でいろんなデバイスを買って視聴できるわけではないのでテレビを利用している率が増えるんですけれども、今度は女性に動画が増えてくるんです。

 全体を見ても、生活シーンの中でテレビはやっぱり見られているんだけれども、動画の比率が、もうそろそろ否定できない割合、数%の割合で増えているということがわかると思います。そして、この割合ってだいたい、録画の割合にだいぶ近づいてきているんです。

 たとえば男性だったら録画を見ている割合が2.7%になっていますけれど、配信は1.8%で、もうそんなに差がないんですね。そのくらい、メディアとして当たり前のものになっているというのが、このデータからわかってきます。

YouTubeは地上波1チャンネル分に相当する

 次はMMD研究所が2021年9月に発表した調査です。彼らはテレビ、YouTube、映像配信それぞれの視聴時間をアンケート調査で出しています。地上波はやっぱり10代が減っていて、それなりに大きなえぐれになっているんですけれど、まだ全体としての情報リソースというのは地上波で得られているということがこのグラフからイメージできると思います。

 そして実は、YouTubeも非常に大きな比率で情報のファーストタッチソースとして使われているというのがこの調査からわかるんですね。

 話を戻しますと、若い世代においては、テレビとYouTubeのあいだで逆転現象が起きている、と。これは非常に面白い結果だなと感じています。

 さらに、YouTubeではなく有料の映像配信はどうかというと、地上波に比べると決して多いわけではない。ただ、それでも20代においては半分以上が利用しているので、決して無視できる状況にはない。先ほども言いました通り、テレビを使って映像配信を見る行為も定着しているので、トータルでかなりの価値になってきているのではないかなと。

 そこで図表のタイトルに「日本はYouTubeが地上波1チャンネルの価値に」と書いています。これは、テレビメーカー各社にヒアリングをしてみますと、そこから面白いことがわかってきていまして。

 テレビメーカーが集計している利用時間の比率によれば、おおよそ映像配信全体で1日に1.5~6時間くらい使われていまして、これはNHK1局くらいに相当するんです。さらには映像配信のほとんどがYouTubeであることが見えているそうなので、地上波1チャンネル分の視聴率をYouTubeが持っている、と考えても不思議ではないのではという結論に至るわけです。

 そうすると、これはあくまでザックリとした私の肌感も含めた比率イメージですけれども、日本のテレビというデバイスにおいて、まだやっぱり地上波が75%くらいの影響力を持っているのは間違いないんですけれども、おそらくYouTubeはすでにテレビ番組の録画よりは多い比率のユーザー数を獲得していて、さらには地上波1チャンネル分と同じくらい、場合によっては見られている。

 そして、その3分の1から半分くらいは映像配信の利用で、DVDレンタルをそろそろ越えつつある状況にあるのかなと考えることができます。

 また、ゲームなども比率としてそこそこあるんですけれども、これは先ほど言ったように減少傾向なので、おそらくこのまま映像配信が録画であるとかゲームであるとかを食うかたちで広がって、もしかするとYouTubeというものの影響力が地上波を浸食するかたちでさらに広がっていくんじゃないのか、という考え方ができるわけです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事