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赤道直下に住まう「GREEN FLOAT」:

「海に浮かぶ100万人都市」清水建設のとんでもない構想

2022年12月26日 11時00分更新

文● ASCII 漫画● ほさかなお
提供: 清水建設株式会社

直径210メートルのミニチュア版で実証へ

── 壮大な計画ができましたが、それを事業化しないといけないですよね。

吉田 そうですね。いつかこういう時代が来るだろうとは感じていますが、まだ幸いなことにGREEN FLOATが必要とされる時代にはなっていません。その前に、もっと小さな浮体が実現できる技術をきちんと身につけていこうということで、10分の1サイズの技術開発に移りました。それが2015年から始めたプロジェクト「GREEN FLOAT II」です。

── ミニチュア版GREEN FLOATですね。

吉田 大きさにして直径210メートル、高さ120メートル。清水建設本社と同じ、24階建てのビルだと思ってください。それをコンクリート浮体に建てることで高層ビルを海に浮かべようということで、実証実験をしています。先ほど直径3kmのものは揺れないと言いましたが、これだけ小さくなると揺れはじめるんですよね。

── もう船みたいなものだから。

吉田 貨物船のようなものです。なので、ここでは東京湾とか大阪湾とか、閉鎖的で大波が入ってこない都市部沿岸を対象としています。しかしそうした場所では当然津波が起きてきますので、津波試験をやっています。

── どうやって津波に耐えるんですか?

吉田 係留装置に杭を打っているんです。普段は満潮・干潮に追随するんですが、横から来た波に対しては外れないようになっています。それを確かめるのが津波試験です。家具が転倒しないだけの加速度でおさまっているかということで評価したのですが、結果としては10メートルの津波が来たという想定でも大丈夫でした。

津波実験の様子(提供:清水建設)

── 10メートルって相当な大津波ですよね。

吉田 それで問題ないということが分かったので、今度は台風ならどうかということで、いわゆる波浪実験をやりました。風速46メートルの伊勢湾台風のような超大型台風が東京湾を襲ったと仮定した実験をしても、構造上問題ないということが分かりました。

台風実験の様子(提供:清水建設)

── 清水建設さんの試験では実証できたと。

吉田 ただ、我々が言っているだけではダメだということで、日本海事協会という第三者評価機関に出し、2017年12月に設計基本承認をいただけるということになりました。これによって、東京湾であっても同じ条件であればこのモデルの設計を進めていいよというお墨付きをいただけることになりました。

── この小型GREEN FLOATはどういう用途で使われるんでしょう。

吉田 日本には海と山に囲まれた都市部が多いんです。そこで開発をしようとすると、今までは海を埋め立てるか、山を削るかというのが発想だったんですが……。

── 稲村ヶ崎みたいなイメージですね。

吉田 まあそういったところにビルをひとつ建てたいなと思ったとき、ちょっと沖に浮かべるならいいじゃないかと。ビルのときと同じデータをもとに小型の浮体もできるようになっていますので、万博のような博覧会をやりたいとか、パビリオンが欲しいといったとき、浮体を作って、いらなくなったら隣町に持っていけばいいだろうと。

── 海を埋め立てるのって大変なんですか?

吉田 大変ですよ。日本だとほぼ認可は取れないです。

── えっ、もう日本だと埋め立てられないんですか。

吉田 まず公共でないとできないですね。

── 江戸だって埋め立てでできたじゃないですか。

吉田 そうです。まあ、その結果がこれなので、良いこともあるし悪いこともあるということかと思います。そこに浮体という選択肢を提示することができるわけです。海を埋め立てるか、緑を削るかというところに第三の選択肢ができたと思ってもらえれば。

── なるほど。

吉田 この浮体はさらにいろんな応用を考えてまして、たとえば石油コンビナートがあるが、都市部が迫ってきたのでマンションにしたいと。これまでなら埋め立てていましたが、タンクを浮体式にすることによって、コンビナートの機能をすべて持っていけます。すると元の土地をマンションに替えられると。

── おお、空き地が生まれるわけですね。

吉田 浮体を使ったコンテナタウンもできます。ロッテルダム港や上海港などはコンテナ船の大型化に対応していますが、日本は取り残されています。それは日本の港湾が浅いからなんです。沖合いに出したいが埋め立てがままならないということなら、浮体に出せばいい。そういう活用方法もあるといったことを提案できるようになっています。

── ほぉ〜。

吉田 そして最後が建て替えです。赤坂プリンスホテルも解体されましたが、ビルはいらなくなるときがありますよね。浮体一体型だと、ビルは50年を待たずに解体されることがある一方、人工地盤の耐用年数はまだまだあるのでもったいないわけです。そのために、建て替え可能な浮体式の人工地盤というものを考えて特許まで出しています。

── これはひとつの土地ですね。

吉田 そうです。この人工地盤をひとつの街区だと考えると、4本くらいマンションが建ってしまうと。開発中に人気がなくなってしまって1本しか建てなくなったというとき、ただの浮体だとバランスが悪くなってしまいますが、反対側にバラストを入れてバランスが取れるようなシステムも持っています。ここに基礎を打って簡単に外せるようなアイデアも入っているので、浮体人工地盤そのものを傷つけず、上物だけを取り換えられるようになる。我々は常に「埋め立てに変わる浮体式人工地盤が必要になる」ということを口にしていましたが、これによってこれまでの浮体の欠点をくつがえす技術を開発している、というわけです。

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