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デジタルエコノミー、トラスト、人材育成の3本柱で市場をリード

デジタル資本主義に向かう日本での役割は? アドビが事業戦略を披露

2022年07月01日 11時00分更新

コンテンツのデジタルトラストを推進 小中高向けのライセンスは前年比約60%の伸び

 2つめの「デジタルトラストの実現」では、デジタル作品の盗用やディープフェイクなどの社会問題に対抗するために、コンテンツ認証イニシアチブに参画していることや、PDFによるデジタル文書のセキュリティ強化に取り組んでいること、Adobe Experience Cloudを活用して、安全で透明性のあるデータ活用と、パーソナライズされた顧客体験の提供を行なっていることなどに触れた。

 神谷氏は、「コンテンツ認証イニシアチブには、750社以上の企業や団体が参加し、業界全体として対応していくことになる。また、日本の個人情報保護法にも対応しながら、パーソナライズされた顧客体験の実現に貢献していく」と述べた。

 3つめの「デジタル人材の育成」に関しては、各種の教育プログラムを実行していることを紹介。小中高校向けのライセンスは、前年比で約60%増の伸びとなっていることや、大学や専門学校向けのライセンスでは前年比で約15%増の伸びをみせていること、教育分野向けにAdobe Education Forumを開催していることなどを紹介。

教育分野向けのビジネスも好調

 具体的には関西学院千里国際高等部とデータサイエンスのカリキュラムを共同開発し、これを横展開していくほか、東京都教育委員会では、都立高校へのAdobe Expressの採用に続き、Adobe Creative Cloudを採用。さらに、先ごろ発足し、すでに1万人の登録者に達している日本リスキリングコンソーシアムにも参画し、教育カリキュラムを提供していく計画などを示した。

 「新しい価値を創造する人材が必要とされており、そこには、アイデアを引き出して形にできるスキルと、データを解釈し、課題を発見する能力が求められている。アドビでは、これを、クリエイティブデジタルリテラシーと呼んでいる。アドビのテクノロジーを活かして、日本の社会を支えるデジタル人材の育成に貢献できる」とした。

 また、「相談できるアドビ」を強化。カスタマージャーニーの戦略立案から、システム要件、システム設計、実装、運用、顧客体験の改善に至るまで、データとクリエイティブの2つの観点から、一気通貫で支援できる仕組みとなっていることを示した。

相談できるアドビ

 一方、日本におけるビジョンとして、2021年に「心、おどる、デジタル」を打ち出したことについても触れ、「このビジョンには、デジタルは、人の生活を豊かにするものであり、アドビのツールを使ってもらうことで、心躍るデジタル体験を実感できるという意味を込めている。そのためには、魅力的なデジタルコンテンツを提供すること、データを適切な人に届けることが大切である。アドビはコンテンツを作成する領域と、データを分析し、届けるプラットフォームの両方を有している唯一の企業である。Adobe Creative Cloud、Adobe Document Cloud、Adobe Experience Cloudの3つのクラウドサービスを融合して、最高のデジタル体験を提供していく」と述べた。

 なお、2022年3月には、日本法人の設立30周年を迎えたこと、2022年12月には米本社の設立から40周年を迎えること、2022年6月から、東京オフィスを2年半ぶりにフルオープンし、社内をリモートワークに適した環境にリニューアルしたことも紹介した(関連記事:これからもデジタルで心をおどらせる 神谷社長に聞く次のアドビ)。

日本法人も30周年を迎え、オフィスもリニューアル

 さらに、2021年度の全世界での売上収益が前年比23%増の157億9000万ドルに達したほか、最新となる2022年度第2四半期の売上収益が前年同期比15%増の43億9000万ドルとなり、引き続き成長を遂げていることを報告。「アドビがビジネスを行なう市場はさらに拡大していく。より大きなデジタルの波が訪れることになり、そこに向けて、アドビは最高のテクノロジーを開発していくことになる」と述べた。

「日本は規制が多く、デジタル化では主要国の後塵を拝している」

 会見では、アドビのInternational Advisory Boardを務める竹中平蔵氏が登壇。「デジタルエコノミー、デジタルトラスト、デジタル人材の3つの課題を解決するには、政府だけでなく、テクノロジーを持った民間企業の役割が重要になっている。その点でアドビに期待している」と述べた。

 竹中氏は、デジタルエコノミーについては、「日本は規制が多く、デジタル化では主要国の後塵を拝している。むしろ、これからである」と指摘。「これからの世界は、デジタル資本主義の競争になるだろう。これは、国民生活にも直結した問題でもあり、賃金を上げるためには生産性を高める必要があり、そのためにはデジタルの活用が不可欠となる。地球環境の課題解決にも、デジタルエコノミーの加速が大切である」とした。

 デジタルトラストに関しては、「データを含むデジタル全体のトラストが、世界中の課題になっている。誰一人取り残されないデジタル化を実現するには、すべての人がデジタルに対して信頼を持ち、利便性を実感してもらうことが必要である。デジタルトラストを高めることは、デジタルエコノミーを実現する上でも重要な要素になる」と述べた。

 そして、デジタル人材においては、「堺屋太一氏は、経済白書のなかで、日本が20世紀を通じて、世界に冠たる経済発展を遂げた理由に、社会のシステムを柔軟に変えてきたこと、自然資源がないが、人材という資源があったことを挙げている」とし、「だが、デジタル時代においては、デジタル人材が不足している。政府は今後3年間に4000億円の予算を投じることになる。ここでも企業の役割が重要になる」などと述べた。

 その上で、「日本は、今後デジタル資本主義の競争のなかに入っていくことになる。デジタル資本主義は、新たな資本主義になるだろう。デジタルエコノミーを実現するには、規制を緩和し、デジタル化を進め、デジタル化のための投資を行なう必要がある。その背後にはデジタルトラストがなくてはならないし、それを支えるデジタル人材が必要である。政府と企業が一体となり、日本経済を発展させ、一人ひとりの生活水準を上げていくことが必要である」と語った。

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