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生まれ変わった新型シビックからはホンダの未来が垣間見える

2021年10月10日 12時00分更新

ワインディングを軽快に駆け抜ける!
走りはシビックそのものだった!

シビック(写真のグレードはEX/CVT仕様)

CVT仕様にはシフトレバー近傍にドライブモードセレクトスイッチを配する

走行モードはECON、NOMAL、SPORTの3つ

 さて。試乗してみましょう。場所は郊外のワインディングロードなのですが、道は結構デコボコで「これ踏んだら飛ぶんじゃない?」と躊躇しそうなところ。まずはCVTから。モード切替はECON、NOMAL、SPORTの3モードで、まずはNOMALから。

 「このクルマ、めっちゃ気持ちいいんだけど」が最初の印象。視界の広さからくる解放感、見通しのよさに加えて、何よりスポーティーな足と安定感のある乗り味、そしてモリモリなパワーで、道の悪さなど関係なし。自制心がなければ、際限なくアクセルを踏みたくなる衝動にかられるではありませんか。というか、踏んでも怖くない。

 Hondaのバイクもそうなのですが、このメーカーのエンジニアは、本当にクルマが好きで、スポーティーな車種になると、よい意味で実際の速度と体感速度が合わないというか、まるで運転が上手くなったみたいな錯覚に陥ります。これはボディー剛性がシッカリするなどシャシーがよくて、ドライビングポジションが適切で、エンジンがブン回るから。これが一つでも崩れると、単なる怖いクルマになりがち。Hondaはクルマ好きの心をつかむのが上手いなぁと思います。

左右2本出しマフラーが、極上の音を奏でる

 当然ながら右足を抑えようと理性が働くのですが、それを許さないのが耳から聞こえ入る排気音。この音が実に素晴らしく、静かさと高揚感が絶妙。ターボ系特有の低域の太さはそのままに、高域成分を巧みに抑えこんだサウンドデザイン。そして低回転時は静かでありながら、回せばイイ音。これは普段使いのスポーティーカーとして理想的な仕上がりで、社外マフラーメーカー泣かせのデキ映えです。

 居心地のよい室内と、爽快な走りで、文句なく気持ちいいクルマ! HondaのDNAは気持ちよさだと思う不肖は「オレたちはHondaにコレを求めていたんよ」と手放し大喝采。このシビックは間違いなく今のHondaでなければ作りえない傑作車で、今のHondaを象徴する存在に間違いナシ! ホントに、このシビックいいわ!

SPORTモードにチェンジ

 NOMALモードで十分に満足しているのですが、SPORTモードにしないと担当編集から怒られるのでポチっと。アクセルマップは変わらず、シフトタイミングだけが変わるのですが「ホントにそれしか変えていないの?」と思うほど。エンジンは上までガンガンに回って、爽快さマシマシのHondaテイストマシマシ。CVTだからさぁ……というエクスキューズも少なく、ストレスフリーにクルマが加減速。パドルを使ってのセミATの走りがめっぽう楽しく、クルマ好きが作ったクルマ好きのためのクルマだと感心しきり。

 大きな声でいえませんが、他車Cセグメントは、この走りの気持ちよさを見習うべき! 最近物忘れがひどいので、メモを取りながら試乗するのですが、大抵は重箱の隅をつつくようなネタが羅列し、記事作成時に「このメモから何を書けばイイんだ?」という時があるのですが、このシビックに関しては「イイ! 最高! 爽快すぎる!」という言葉しかなく、逆に「このメモから何を書けばイイんだ?」とも。

CVTだけでなくMTも用意されているのがシビックらしさ

シビック(写真はEXグレード/MT仕様)

 CVTで大満足、お腹いっぱいなのに、MT仕様車が用意されていたので試乗させて頂くことにしました。こちらのモード切替はECONとNOMALのみで、アクセルのツキが変わるとのこと。NOMALから始めることにしましょう。

MT仕様のシフト周り

 MTに興味はあるけれど坂道発進が……、という方も多いかと思います。また都内生活者にとって、渋滞の度にクラッチだ何だは面倒で仕方ないところ。ですがシビックは電子サイドブレーキを搭載しており、オートブレーキホールドを使えば坂道発進もラクラクですし、トルクが低速から太く立ち上がるので、街乗りも苦ではなさそう。先代のTYPE Rに搭載されていた、自動的にエンジン回転数を合わせるレブマチックコントロールは搭載されていないようで、無茶なシフトダウンをすれば「ガクン」が待っていますが、それもまたMTの面白さでしょう。カジュアルに積極的にクルマを操るMTならではの楽しさを味わおうではありませんか。

MT仕様のシビック

 カジュアルに、と言いながら、走りが気持ちよすぎる上に、クイックでショートなシフトフィールもイイですから、気づけばガンガンモードに。実に大人げないことをしたと反省しきりです。「エンジンがイイ+排気音がイイ+シャシーがイイ=やっぱMTはイイ」という当たり前の話が最近少なくなった中、このシビックは「やっぱMTはイイ」と心底思える1台。CVTの方が便利だし、恐らく速く走れるけれど、買うならMT……というのが正直な気持ちで、4割近い方がMTを選ぶというのも理解できます。

Hondaグループの教習所「レインボーモータースクール和光」

 最近、新しく免許取得を目指す方の8割以上がAT限定免許なのだとか。それは販売するクルマの多くがAT車であり、今後EV車が主流になれば変速機のないクルマが主流になることからも当然の流れです。ですが2030年に東京都が純ガソリンエンジン搭載車の販売禁止を宣言している今、「最後にMT車に乗ってみたいなぁ」と思わせるクルマを作り上げたHondaの心意気はリスペクトです。このレジスタンス的精神こそがHondaスピリットで、新型シビックにMTを用意したあたりにHondaがこのクルマを象徴的存在と位置付けていることを、再び強く想わせるのです。

 MTに乗りながら感じたのは、TYPE Rが来年用意されているということの恐ろしさ。これだけイイクルマなのだから、TYPE Rはどんなクルマになるんだろうという楽しみを覚える反面、普段使いの事を考えると「これで十分じゃないか?」とも。お金と場所があれば、痛快なTYPE R、爽快な本機の両方を所有したい! そうなると、先代のTYPE Rに触れた経験から、ノーマルである本機ともう少し差別化してもいいかも。具体的にはTYPE Rは2リットルターボエンジン、ノーマルは1.5リットルの自然吸気にしたら面白そう。NAエンジンをガンガン回したら、この爽快な気持ちは更なる高みに……と思ったりして。

シビック(写真はMT仕様)

 正直、乗る前まで期待していなかった新型シビック。ですが乗ってみると完成度の高さはCセグトップと断言できるほど。「これはイイ!」という言葉しか出ない状態に、重ね重ねで申し訳なく思います。まるでグルメ番組で芸能人が「美味しい」というのに似ているのですが、ここまで美味しいクルマに仕上げられては、美味しいと言わない方が失礼というものでしょう。

 今回はワインディングでしたが、これを一般道で乗ったらどうなんだろう? 高速道路の長距離移動はどうなんだろう? と、一層興味が沸いて、何時間試乗しても足りないくらい。今度は街中の一般道をバッチリ走りたいと思います!

 新しいシビックのステアリングを握ってワインディングを走れば、誰もがきっと「クルマって楽しい!」と改めて思うハズ。そしてドライバーだけでなく、乗る人みんながハッピーになれる、驚きの完成領域。ここまで行くクルマは、そう多くありません。ですがイイモノだけにお値段は高くLXグレードで319万円、EXグレードで359万9800円……。

300万円超えのシビックはアリかナシか

 値段を見た瞬間、「シビックが300万円を超えるの?」と思われる方がいらっしゃることでしょう。ついでに言えば「シビックってこんなに大きくなったの?」とも。こうしたマインドを抱かせることが、シビック最大のウィークポイントなのです。これは50年近く同じモデル名で販売を続けてきたこと、特にクルマ好きの間で、特に5代目のEG型や6代目のEK型の印象が強すぎるゆえの有名税で仕方のないところ。とはいえ、EK型が生産完了して20年以上が経つにもかかわらず、今も「高くなった」「大きくなった」の話題が出てきてしまうのは何故でしょう。

2005年に登場した8代目シビック

 その理由の1つが、セグメントを変更したことに対するユーザーの認知不足といえるでしょう。Hondaは7代目のEU型までベーシックカーと位置付けて販売してきました。ですが8代目からシビックをミドルカーとし、居住性などに力を入れる方向へとシフトしていきます。その一方、Hondaとしてはシビックが担っていたベーシックカーのポジションとしてFITを用意。

FIT e:HEV Modulo X

 そのFITも今年で誕生20年が経つのですが、世間はいまだ昔のシビックがベーシックカーで、FITに役目を譲ったと認識されていないのでは? 不肖も長年FITを「ジャズ」「シティ」の後継車だと思っていました。さらに、FITにスポーティーモデルRSは用意されていましたが、ガチ勢が心をときめかせるTYPE Rのような仕様はありませんでした。

全労連が2018年に公開した実質賃金の推移と国際比較

 さらにEK型やEG型が販売されていた1990年代後半~2000年代前半と比べて、一般的な会社員の賃金は上がっていない(むしろ下がっている)にも関わらず、同じ車名の価格が上がってしまいました。価格の上昇は、大型化による材料費の上昇や消費税率アップはもちろんのこと、安全対策や先進装備を充実させたから。昔のクルマなら大怪我するような事故でも、今のクルマなら鞭打ち程度で済むのですからありがたい話なのですが、世間にはそういうところはあまり評価してもらえず、「シビックはベーシックカー」という認識と相まって「高くなった」「大きくなった」という声が出てきてしまうのです。このように「Hondaの想いと一般イメージの乖離」が、シビックにとって大きな枷なのです。

マツダのCセグメント、MAZDA3

 ならば今回のシビックを別名にしたら売れるのでしょうか? 残念ながら、そうは思えないのです。というのもCセグメント・ハッチバックとして高額だから。マツダ3は222万1389円からラインアップしていますし、カローラスポーツも220万2000円。これらの車種も上位グレードになれば300万円近い金額になるのですが、それでもシビックの方が高価であることに変わりありません。

ルノー/メガーヌ・インテンス(310万円)

 これが世界に目を向けても同様で、VWゴルフとMINI 5Doorが291万円~、ルノーメガーヌ、アウディA3が310万円~。装備やエンジン出力が違うので一概に比較できる話ではないのですが、クルマに詳しくない方から見れば「Honda車と輸入車が同じ金額?」と感じてしまうのです。

シビック(写真はCVT仕様)

 これらの輸入車とシビックを乗り比べれば、多くの方はシビックに軍配を上げるでしょう。Hondaがボッタくっているわけではありません。ですが現在クルマを買う人の多くは事前に記事や広告を見て知識を得るか、メーカーの信用買いがほとんど。大抵は2回ほどディーラーに訪問し、試乗することなく契約に至るのが一般的なのが現状で、試乗をして比較することがないゆえに「モノが良くても売れづらい」時代となってしまいました。さらにSNS映えに代表される「他人からどう見られているか」という「承認欲求」の時代性と相まり、自分の審美眼よりも、他人からの評価が重要視され、同じ金額を支払うなら有名ブランドに手が伸びるのです。

 このシビックにまつわる状況を打破するには、どうすればいいのでしょう。考えられる方法は2つ。ひとつはクルマの価格を下げる方向です。ですがトヨタや日産のように、多くの自動車メーカーと業務提携を結びコストダウンができる状況にはないHondaにとって、低価格化は更なるコストカットと工場閉鎖といったリストラを繰り返す、非常につらい道のりが待っていることでしょう。リストラを繰り返した先に待つのは、人材流出による陳腐化と企業規模の縮小していったことは、過去多くの企業が実施してきたこと。歴史を繰り返すのは愚かな行為です。

 もうひとつは、輸入車と同等のプライスで自動車を販売するために、これらのブランドと対等のポジションに立つことです。つまりマツダやレクサス、アウディが実施したようなCI(コーポレートアイデンティティ)を再定義し、ユーザーに対し「Hondaブランドを持つ歓びやスペシャリティの提供」に力を入れるのです。これは単に大型グリルを取り付け、内装を革張りにすることではありません。その昔、SONYやHonda製品を持つことがカジュアルでカッコイイと思える時代がありましたが、そのような優越感、人々が抱いていたHondaへの憧れを今一度、取り戻して欲しいのです。

 開発責任者に話を伺うと今回のシビックは、現在25歳から35歳の方々をメインターゲットとしているとのこと。「最近の25歳がクルマに350万円も払うのか?」という短絡的な話ではなく、「クルマは長期的に販売するもの。今は購入が難しくても、5年後とかに購入を検討する憧れの存在でありたい」という願いが込められているとのこと。

 クルマそのものは、それを体現していると断言できます。あとは「Do you have a Honda?」と尋ねられた時、ドヤ顔で「YES!」と言える若いオーナーが増えるために、オーナーがシビックの写真をSNSに投稿するとファボとリツイートの通知が止まらないくらいになるように、Hondaに関わるすべての人が、今一度Hondaブランドを愛し、イメージ向上をはたす努力が必要だと感じました。

 クルマの内容から大幅に逸れましたが、Hondaの未来を想ってしまうほど、Hondaの象徴である11代目シビックは出色の1台。そして「今後出てくるHonda車は期待できる」と断言したくなるほど、実に素晴らしいクルマなのです。

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