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市場拡大にあるNFT 特許から見る権利化のポイントとは

2021年09月07日 09時00分更新

参考:国内で権利化された特許の紹介

 以下、権利化されたNFTに関する国内の関連特許を紹介します。筆者による審査経過を踏まえた所感も交えて、それぞれが展開する発明の概要を確認してみてください。

①特許第6391128号

【出願人】株式会社Artrigger
 2017年からブロックチェーン技術をベースとした開発に従事しているフィンテック分野のベンチャー企業。クリエイティブ産業における管理技術や情報処理技術に特化し、ライセンスビジネス市場やコンテンツ市場へサービス展開を進めている。

【出願日】2017年9月27日
【登録日】2018年8月31日
【発明の概要】
 ブロックチェーン上に構築されたスマートコントラクトを用いて、デジタルアートの所有権を移転させる処理、および移転に伴う費用の支払処理を実行する取引管理システム。

 所有権の移転に伴い、費用の支払い先を設定し、費用の送金をトリガーにして、所有者の変更および取引履歴をブロックチェーンに記憶させる。

【権利化された請求項1】
複数の端末と通信ネットワークを介して通信可能なコンピュータに、前記通信ネットワーク下に構築されているブロックチェーンであって、作品の作成者を特定するための作成者情報、前記作品の取引規則を定める規則情報、前記作品の取引に用いられる仮想通貨に関する情報、及び前記作品の譲渡履歴を格納する複数のブロックを連結したブロックチェーンを取得する機能と、前記譲渡履歴から、前記作品の現所有者を特定する機能と、前記作品の譲受人を特定する機能と、前記作品の作成者から、前記作品の譲渡価格に前記取引規則に定められた割合を乗じた額である作成者受取額の支払いを受ける者又は管理団体の指定を受け付ける機能と、前記規則情報に含まれる条項であって前記作成者受取額を送金することを定める受益者利益送金条項における送金先を、前記作成者に指定された前記作成者受取額の支払いを受ける者又は管理団体に変更する機能と、前記取引規則にしたがった手順が実行されることによって前記作成者に指定された前記作成者受取額の支払いを受ける者又は管理団体に前記作成者受取額が送金されることを条件として、前記現所有者を特定するための情報を譲渡人を特定するための譲渡人情報に追加するとともに、前記譲受人を特定するための情報を譲受人情報として追加した新たな譲渡履歴を前記ブロックチェーンに追加する機能と、前記作品の所有権の譲渡履歴を追加したブロックチェーンを、前記ブロックチェーンの更新に参加している複数の端末に対して前記通信ネットワークを介してブロードキャストする機能と、を実現させ、前記追加する機能は、前記作成者受取額を前記譲受人に関連付けられた仮想通貨の残高から減じるとともに、前記作品の作成者が指定した者又は管理団体に関連付けられた仮想通貨の残高に前記作成者受取額を加算する手順が定められた前記取引規則が実行された場合、前記新たな譲渡履歴を前記ブロックチェーンに追加する、プログラム。

【審査経過を踏まえた所感】
 出願当初は太字部を含まない広い範囲での権利化を狙っていたが、ブロックチェーンによる所有権の管理に関する論文等の先行文献により進歩性が否定され、その後に費用の支払にまつわる具体的な処理を追加する減縮をしたうえで権利化されています。この審査経過を確認する限り、ブロックチェーンにより所有権と管理するというNFTの基本的な処理だけでは進歩性の確保は難しいと考えられます。

②特許第6404435号

【出願人】株式会社ディー・エヌ・エー
 モバイルゲーム開発・配信を主業としつつ、SNS運営や電子商取引サービスなどを行うインターネット関連企業。また、傘下にプロ野球の横浜DeNAベイスターズ、プロバスケットボールの川崎ブレイブサンダースを保有する。

【出願日】2017年10月24日
【登録日】2018年9月21日
【発明の概要】
 ゲームのアイテムについて所有権を明確にし、ユーザ感での取引を可能にするとともに、アイテムを保有するユーザ数に応じて、ネットワーク上又は実社会上におけるアイテムの効果を変更する処理を実行するアイテム取引システム。すなわち、アイテムの希少性等を考慮して、アイテムの価値が自動的に変動する。これにより、アイテムの取引が活性化される。

【権利化された請求項1】

 電子取引の対象となるアイテムを所有する第1 のユーザと、前記第1 のユーザとは異なる第2 のユーザとの間で前記アイテムの価格を決定する価格決定手段と、前記価格決定手段で決定された価格に対する対価を前記第2 のユーザから前記第1 のユーザに支払うことによって、前記アイテムの所有権を前記第1 のユーザから前記第2 のユーザに委譲させるアイテム委譲手段と、前記アイテム委譲手段において所有権が変更された履歴を取引履歴データベースとして記憶させるデータベース作成手段と、を備え、ネットワークを介して前記アイテムを取引するアイテム取引システムであって、前記取引履歴データベースとして記憶された前記アイテムと同種のアイテムを所有するユーザ数を参照して、前記ユーザ数に応じてネットワーク上又は実社会上における前記アイテムの効果を変更する価値変更手段を備えることを特徴とするアイテム取引システム

【審査経過を踏まえた所感】

 請求項1については、拒絶理由を受けることなく権利化されています。ゲームのアイテムの希少性の観点から、所有するユーザ数に応じて価値を変更するという構成が寄与したものと考えられます。NFTで管理するデータの内容に応じたユニークな処理で権利を狙えば権利化しやすいものと捉えることができます。

③特許第6538996号

【出願人】株式会社Photonon
 資産の共利用プラットフォームとして、モノ・サービスの交換プロセスと情報処理技術による価値評価システムの開発を行う。

【出願日】2018年5月23日
【登録日】2019年6月14日
【発明の概要】
 有体物又は無体物である物品をユーザ間で交換するシステムにブロックチェーンを採用した情報処理装置。特に、価格調整機能を有し、物品等の対象どうしの同時交換を交換先対象所有者の承認なく複数回継続することが可能となっている。

 予め設定された交換連鎖の中止条件に抵触しない限り、自動的に物品の交換が継続して行われ、ユーザが設定した中止条件に合致した際(例えば、所望する物品を取得した際)に、自動的な物品の交換処理が停止する。

【権利化された請求項1】
 対象の対象IDと、前記対象を所有するユーザのユーザIDと、前記対象の第1価格と、前記対象の第2価格と、前記対象の交換条件と、を対応付けて記憶する記憶部と、前記第1価格を決定する価格設定端末と、前記交換条件に応じて好適交換対象を選択する好適交換対象選択部と、前記好適交換対象選択部により選択された交換先の対象の前記第2価格と、交換元の対象の前記第1価格を比較する価格比較部と、交換元の対象を所有するユーザの支払額を決定する支払額算出部と、前記支払額を交換元の対象を所有するユーザのユーザ端末に通知を行う第1の送信部と、交換元の対象を所有するユーザからの支払情報を確認する支払確認端末と、前記支払情報に応じて、前記交換条件に対応する前記記憶された対象IDを交換後の対象の対象IDに設定する設定部と、を備える情報処理装置

【審査経過を踏まえた所感】

 請求項1に対しては、拒絶理由を受けずに権利化されている。購入による移転ではなく、物品同士の交換に利用するという独自の観点が進歩性に寄与したものと考えられます。

④特許第6640320号

【出願人】日置玲於奈
 株式会社ToyCash CEO(最高経営責任者)。京都大学工学部在学中にインターナショナル・スクールに勤務後、セキュリティや分散技術のコンテストに出場。NFT(ノンファンジブル・トークン)による権利証明を応用した新たなサービスを提案している。

【出願日】2018年12月28日
【登録日】2020年1月7日
【発明の概要】
 デジタルコンテンツの所有権を管理するシステムにおいて、管理者端末およびライセンシー端末のそれぞれにおいて、デジタルコンテンツを紐づいた非代替性トークンと対応づけられた移転元のオーナー識別子を、移転先のオーナー識別子に変更する処理を行うトークン管理システム。

 管理者端末だけではなく、ライセンシー(譲受者)端末でもオーナー識別子を変更する処理を行える。ブロックチェーン上に取引履歴を記録することで、改竄体制と透明性を具備することができる。

【権利化された請求項1】
 トークン管理システムであって、分散型台帳において、プロダクト識別子と対応付けられた非代替トークンを、生成する生成手段と、 前記分散型台帳において、前記非代替トークンと、オーナー識別子としての第1の公開鍵およびライセンシング処理するための第2の公開鍵とを、対応付ける管理手段と、前記分散型台帳において、移転元の第1の秘密鍵に基づき、前記非代替トークンと対応付けられる移転元のオーナー識別子としての第1の公開鍵を移転先のオーナー識別子としての第1の公開鍵に変更するトランザクション処理を、行う移転手段(132)と、を有するアドミニストレーター端末と、前記分散型台帳において、移転元の第1の秘密鍵に基づき、前記非代替トークンと対応付けられる移転元のオーナー識別子としての第1の公開鍵を移転先のオーナー識別子としての第1の公開鍵に変更するトランザクション処理を、行う移転手段(134)を有するライセンシー端末と、を有すること、を特徴とするトークン管理システム。

【審査経過を踏まえた所感】

 明確性違反の指摘をされた後に、処理の具体的な内容を補正して権利化されています。Dapps側の処理だけではなく、ブロックチェーンでの処理についても詳細を明細書に記載しておくことで、明確性違反の備えになると考えられます。

⑤特許第6572493号

【出願人】CryptoGames株式会社
 NFTを活用したブロックチェーン×エンタメ領域で事業を展開している。自社IPのブロックチェーンゲーム「クリプトスペルズ」の提供、無料でNFTが発行できる「NFTStudio」の提供、事業者向けのNFTショップのOEM事業等を行っている。

【出願日】2019年1月24日
【登録日】2019年8月23日
【発明の概要】
 ゲームのキャラクタに対して、希少性等の観点から属するグループを定義して、グループに含まれるキャラクタについてランダムに選択して販売するセット販売処理と、取引開始日時の経過後に、所有者間における取引を行う取引制御処理と、を実行するシステム。

 取引を行うキャラクタの価値に一定の基準を設けることで、偶発的な要素を含ませて射幸心を刺激しながら、取引の健全性を担保している。

【権利化された請求項1】

 コンピュータを、予め定められた日時に基づいて、取引対象の販売可否を判断する判断手段と、前記判断手段が販売可能と判断した場合、取引対象が属するグループの種類、当該グループに含まれる取引対象の数量及び販売価格を指定することでセットを定義したセット販売情報に基づき、グループ毎に当該グループに属する取引対象をランダムに選択して販売するセット販売手段と、前記予め定められた日時以降に取引対象の所有者間における当該取引対象の取引を受け付けるよう制御する取引制御手段として機能させるための情報取引プログラム。

【審査経過を踏まえた所感】

 拒絶理由を受けることなく権利化されています。取引対象のコンテンツ(ゲームのキャラクラ)に対してグループを定義して、グループに属する取引対象をランダムに選択してセット販売するという処理が進歩性に寄与したものと考えられます。

⑥特許第6656628号

【出願人】CryptoGames株式会社
【出願日】2019年4月3日
【登録日】2020年2月7日
【発明の概要】
 デジタルアートの移転に関する取引において、譲受人が不特定のもの出会った場合に、取引の制限(資金決済法による制限)を受けずに取引ができるように、取引の対象となるユーザにおける、非代替性トークンの発行者との取引履歴を確認し、取引履歴がある場合に、取引を実行するシステム。

 取引履歴の有無を確認することで、仮想通貨交換業が可能な取引業者に限定されずに、自由度の高い取引を行うことができる。

【権利化された請求項1】

 コンピュータを、トークンの発行者が利用者に当該トークンを発行し、遅くとも二次流通において当該トークンが取引されるまでに当該利用者を識別するための識別情報を前記発行者によって当該トークンに記載する発行手段と、二次流通において前記トークンが取引される際、当該トークン又は前記発行者が発行した他のトークンの取引履歴の内容を確認し、譲渡人である利用者及び譲受人である利用者の識別情報が、当該トークン又は前記発行者が発行した他のトークンに前記発行者によって記載されているか確認し、当該譲渡人である利用者及び当該譲受人である利用者の識別情報がいずれも記載されている場合にのみ、取引が成立するように当該トークンを処理するよう動作する当該トークンの執行情報を、遅くとも二次流通において前記トークンが取引されるまでに、設定する設定手段として機能させるための情報取引プログラム。

【審査経過を踏まえた所感】

 進歩性違反に関する拒絶理由に対して、「取引履歴を確認し、取引実績のある利用者間でのみ、発行したトークンの取引が成立するようにスマートコントラクトを設定する」という技術的事項を補足的に限定して権利化されています。この内容は出願当初の課題と合致しており、補正の内容は、引用文献との差異を強調するために行われた内容であって、出願当初の権利範囲から、殆ど減縮されていないものと認められます。

⑦特許第6710401号

【出願人】Bacoor dApps株式会社
 イーサリアムの研究、ブロックチェーンおよびスマートコントラクトを用いたアプリケーションの開発を行う企業。

 2019年1月、『HB Wallet』が、『Blockchain Insight 2019』にて最も価値のあるウォレット(most valuable wallets)の海外暗号資産ウォレット部門にて2位にランクインした。

【出願日】2019年12月5日
【登録日】2020年5月29日
【発明の概要】
 NFTを取引の対象物の管理に利用するシステム

 有体物であるトレーティングカードを例として、新たなカードの所有者は、ユーザ端末によりトレーティングカードに付された二次元コードから読み取られたURLを用いて管理サーバにアクセスし、二次元コードに含まれるNFTの識別子に対して所有権者としての登録を行うためのスマートコントラクトの呼び出しを行うシステム。対象物は有体物であっても無体物であってもよい。譲受人の操作により、所有権者の登録が行われる。

【権利化された請求項1】(下線部は審査における補正箇所)

 対象物を管理する方法であって、前記対象物に付与されたデータであってブロックチェーンにおいて取引可能なノンファンジブルトークンの識別子を含む前記データを用いたネットワークアクセスを、管理サーバが受け付け、前記識別子を含む前記データを用いた前記ネットワークアクセスを受け付けた前記管理サーバが、前記データに含まれる前記識別子によって識別される前記ノンファンジブルトークンに対する操作を実行させるために、前記ブロックチェーンにおいて実行されるスマートコントラクトを呼び出す、ことを含む方法。

【審査経過を踏まえた所感】

 二次元コードを用いた電子チケットの管理システムを引用されて進歩性違反が指摘されたが、ブロックチェーン上のスマートコントラクトが実行する処理であることを主張することで、進歩性を解消して登録されています。こちらも補足的な補正で権利化されており、大幅な権利範囲の減縮は行なわれていないものと認められます。

著者紹介:IPTech特許業務法人

2018年設立。IT系/スタートアップに特化した新しい特許事務所。(執筆:金井健祥)

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