デザイン重視のモデル!? いいえ、音質を追求した結果です
この連載では、これまでさまざまな国のスピーカーを取り上げてきたが、日本のスピーカーを紹介できなかった。国産のスピーカーにも優秀なものはたくさんあるが、この連載で対象としているペアで10万円前後(最高でも実売20万円未満)のモデルに限ると、コストパフォーマンスや音質などの面でどうしても海外製のモデルの方が優れたものが多くなってしまう。個人的にも少々残念に感じていたのだが、ようやく日本のスピーカーを紹介することができた。
今回紹介するのは、イクリプスの「TD307MK3」(定価:5万5000円/ペア)。卵型の独特な形状が特徴的なスピーカーで、ドライバーユニット一発のフルレンジスピーカーという点も特徴だ。可愛らしい卵型というと、インテリア性を重視したスピーカーと勘違いしてしまう人もいるかもしれないが、それは間違い。音質を追求した結果の理詰めのデザインなのだ。このモデルだけでなく、上級モデルも含めてイクリプスのスピーカーはすべて卵型のフルレンジ構成を採用している。
イクリプスは本格的なオーディオ用スピーカーのブランドとしては知る人ぞ知る存在だ。メーカーはデンソーテンで、カーオーディオ用のスピーカーやカーナビ機器、ドライブレコーダーなどを幅広くラインアップしている。企業向けには電子制御を豊富に採用している現代の自動車のための電子部品の開発や発売なども行う。源流となるのは1920創立の川西機械製作所。2020年で創立100周年を迎えた長い歴史を持つ企業だ。もともと無線機や真空管を扱っていたが、トヨタの初代クラウン用のオートラジオを納入したことをきっかけに、自動車産業で活躍するようになった。ここでの本題となるHiFi用スピーカーとしては、卵型のスピーカーのほかに、サブウーファーも発売している。
イクリプスのHiFi用スピーカーのコンセプトは「正確な音」。無色透明で元の音に色づけすることなく、また何も失わずに再現することを理想としている。そこで目指したのが正確なインパルス応答の追求だ。音楽信号は波形で表現できるが、この波形が空気中に伝播し、空気の振動(圧力変化)が耳に届くことが音になる。つまり、正確なインパルス応答を実現できれば、音楽を正確に再現できるというわけだ。
象徴的な例としては、フルレンジ構成へのこだわりがある。フルレンジ構成はネットワーク回路が不要なので、スピーカーケーブルからの信号が直接ドライバーユニットに接続される。余計な電気回路を経由しないので、インパルス応答の遅れが生じにくい。もちろん、フルレンジ構成では低域側の再生能力に限界があるが、だからこそサブウーファーもラインアップし、不足する低音はサブウーファーを使って補う構成を推奨している。
ユニークな卵型の形状もスピーカーから出た音の不要な反射を邪魔せず、スムーズに音が放出されるための形状だ。エンクロージャーとしても卵型は剛性が高く、平行面がほとんどしないので内部定在波も最小となる。エンクロージャー形状による音の反射や内部の定在波はドライバーユニットの動きに影響し、音への色づけが生じる。これらを最小限に抑えるための理想的な形が卵型の形状なのだ。
ドライバーユニットは、一般的なスピーカーが正面のバッフル面にフレームを介して取り付けられているのに対し、独自のディフュージョンステーによって、複数の支柱を介してエンクロージャーに取り付けられている。これにより、ドライバーユニットからエンクロージャーに伝わる振動を分散し、接続部分の振動吸収も行っている。さらに、ドライバーユニットの後端にはグランド・アンカーと呼ばれる錘が装着されている。これは、高速で前後運動する振動板を受け止める足場と言えるものだ。そのため、内部は思った以上に複雑な形状になっているし、それらのパーツは太い金属製となっている。コンパクトなサイズで重量も1本で約2kgと手軽に扱えるが、実際持ってみるとずっしりと重い感触がある。うっかり落としたりしないように慎重に扱おう。なお、こうした基本的な構造は、最上位モデルのTD712zMK2(12cmフルレンジ採用。88万円/ペア)に至るまで共通したものになっている。逆に言えば、ペアで5万円のお手頃なスピーカーが採用するような作りではない。
[TD307MK3の主なスペック] ●形式:6.5cmフルレンジ●インピーダンス:8Ω●再生周波数帯域:80Hz〜25kHz(-10dB)●出力音圧レベル:80dB/W/m●サイズ:幅135×高さ212×奥行き184mm●質量:約2kg
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