週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

オンラインイベント「SEMICON Japan Virtual」レポート

ハードウェアスタートアップが「モノづくりあるある」を語る

2021年09月30日 11時00分更新

 ASCII STARTUPは202012月15日、ハードウェアやIoT関連の展示交流・セミナーイベント「IoT & H/W BIZ DAY」のセッション「プロトタイプと量産の壁から、中国工場との付き合い方までハードウェアスタートアップに訊くモノづくりあるある」をオンライン配信した。例年は、約40者のハードウェア、IoTスタートアップが集結するブース展示と、最新のハードウェアビジネスをテーマにしたセッションを開催しているが、今回はSEMIジャパンとの連携により、オンラインイベント「SEMICON JAPAN Virtual」内での実施となった。

 本セッションでは、モノづくりスタートアップの代表として、FutuRocket株式会社の代表取締役 美谷 広海氏、株式会社チェリーチェーン 代表取締役の浜田 紗綾子氏、部品供給側として、株式会社チップワンストップ カスタマーマーケティング部リーダー 池田健人氏を招き、パネルディスカッションを実施した。進行は、ASCII STARTUPのガチ鈴木が務めた。

FutuRocket株式会社 代表取締役 美谷 広海氏

 FutuRocketは、アナログ電話をスマートリモコン化するデバイス「hackfon」、空間の人数を自動集計できるスマートAIカメラ「ManaCam」などIoT製品を開発するスタートアップ。2018年には北九州市が主催したビジネスアイデアコンテスト「北九州でIoT」に採択され、TOTOのスポンサーで紙の残量を計測するスマートIoTトイレットペーパーホルダーを開発、実用化に向けて実証実験を重ねている。フランス製のミニデスクトップPC「Kubb」をソニーのクラウドファンディングサイト「First Flight」で支援募集するなど、海外スタートアップの日本進出の支援も手掛ける。

株式会社チェリーチェーン 代表取締役 浜田 紗綾子氏

 株式会社チェリーチェーンは、回路設計エンジニアの浜田氏が2016年にクラウドファンディングサイト「Makuake」でLEDの光の色が変わるプログラマブルジュエリーを発表、1200%を達成したのを機に2018年に設立したハードウェアスタートアップ。現在は、山梨県内の企業向けにIoTを用いたライン検査装置、教育用マイコン基板、LEDモジュールなどの受託開発を中心に、AI×農業の汎用的マシンの開発や5G基地局電源技術サポートの開発にも取り組んでいる。

株式会社チップワンストップ カスタマーマーケティング部リーダー 池田健人氏

 株式会社チップワンストップは、新横浜に本社を置く電子部品・半導体の通販サイトの運営会社。新横浜と香港に物流センターを自社所有し、世界最大の半導体商社アロー・エレクトロニクスのグループ会社としての強い部品調達力を誇る。国内在庫品は注文当日に出荷、海外在庫品も早く配送できるのが特長だ。通販サイト「チップワンストップ」の会員の4割はエンジニアで、設計・試作だけでなく、小口量産にも対応している。

 パネルディスカッションでは、「試作から量産に向けて知っておきたいこと」、「中国とのうまい付き合い方」、「同規格のパーツが見つからないときは?」「設計、規格、工場とのトラブルあるある」の4つのテーマについて議論した。

テーマ1:試作から量産に向けて知っておきたいこと

美谷氏(以下、敬称略):hackfonでは、プロトタイプに使っていた部品のメーカーが廃業して、いざ製品化する際に入手できなくなりました。幸い、中国のメーカーで類似のパーツを見つけることができましたが、こうしたトラブルはよく起こります。いまは試作の段階から工場やメーカーの方に助言をいただくようにしていますね。

浜田氏(以下、敬称略):基板の製造では、試作は自分ではんだ付けするのですが、量産は、はんだ付け経験のある県内の女性に依頼しています。しかし、経験者であっても最初の頃はなかなか満足のいく仕上がりではなくひとつひとつチェックして、やり直すことも少なくありませんでした。外注する場合は、慣れてもらうまでに1年くらいはみておいたほうがいいかも。

 部品の調達に関しては、メーカーに勤務していたときは、どんな小さな試作でも商社を通して信頼性の高いメーカー製品を使っていたのですが、独立後は中国から安価な部品を取り寄せて使うようになりました。すると、初期不良や商品違い、配送の遅れなどのトラブルが続出して苦労しました。急ぎのときや確実に手に入れたいのであれば、商社を通したほうがよかったのではないか、と反省しています。

池田氏(以下、敬称略):大きな会社には部品調達専門の部署がありますが、スタートアップは、経営から開発、部品の調達まですべてを自分でやらなくてはならず、データシートがない状態でパーツを探すのは時間もかかります。弊社では、部品調達を代行して、必要な部品とデータシートを付けてお見積り提案するサービスを提供しています。部品調達にかかる工数を減らすひとつの方法としてご活用いただければ。

テーマ2:中国とのうまい付き合い方

美谷:以前、ある中国の工場に金属製オリジナルキーホルダーの製造を依頼したのですが、単価が250円で最小ロット100個、計2万5000円で作ってくれたんです。デザイン費込みで、見学に行くたびにご飯をごちそうしてくれたので、完全に赤字だと思うのですが(笑)。中国の会社は、リアルに会いに行くと、すごく親切にしてくれます。大事なのは、ただ工場を視察するだけじゃなく、何かしらのお付き合いをすること。サンプルを買うなど、小さなことでもいいので、必ず何かしら実際の取引をすることが大切だと思います。

鈴木:実際に支払う金額は、数万円でもいいんですね。

浜田:私も中国からパーツを購入していますが、やりとりはチャットでの問い合わせが基本です。非常にスピーディーで、いつでも気さくに対応してくれるのがありがたいですね。オンラインのやり取りだけであっても、コミュニケーションを密に取ることは大事ですね。残念ながらミスは多いけれど、私たちスタートアップも未熟なので、お互いに許す精神があれば付き合いやすいのではないでしょうか。あと、具体的な注意としては、船便は到着予定があてにならず、3週間の予定が数カ月になることがままあるので、なるべく使わないほうがいいと思います。

鈴木:製品のミスはそんなに多いのですか?

浜田:かなり多いですね。まったく違うモノだったり、商品自体が届かないこともあります。

美谷:すごく安く作ってくれますが、こちらが期待していたものとのズレが生じることもよくあります。それもある種の味だと思って、こちら側がある程度の余裕を持って付き合うのがいいかもしれません。

池田:中国企業との付き合い方に苦労されている方は多いようです。最近は、二の足を踏まないために、先に弊社に相談していただくことが増えてきていますね。

鈴木:大手企業であれば注文したものが確実に届くから、すぐに製造ラインが動かせる。部品調達のトラブルはスタートアップならではの悩みですね。届いた部品が想定と違っていたら、どのように対処しているのですか?

浜田:以前に中国から部品を注文したところ、ピンの並びが違うものが届いたことがあります。しかし、中国でしか手に入らない部品だったので、仕入れ直すと間に合わない。仕方がないので基板自体を作りなおしたことがあります。その反省から、どうしても必要なパーツに関しては、同じものを3カ所から購入するようにしています。

美谷:もともと安く買っているので、多少違うものが混じっていても、学習コストとして割り切っていますね。同じ型番でも仕様が変わることがけっこうあるので、臨機応変に対応できるようにしておくことがスタートアップ側には必要でしょう。

テーマ3:同規格のパーツが見つからないときは?

浜田:私の場合は、同規格のパーツが見つからなければ、回路を設計し直して対応しています。また、できるだけ汎用性の高いパーツを使えるように設計しています。

美谷:私は回路設計ができないので、専門のエンジニアに依頼して基板のほうを変更してもらうことがあります。パーツのコネクタ形状が違ったときには、適合するコネクタに付け替えたこともあります。今はせいぜい100個程度と少量なので対応できていますが、将来的に1000個や1万個になれば、ほかの方法を考えなくてはいけませんね。

池田:特定の規格のパーツを探しているお客様からのお問い合わせは非常に多いです。弊社ではグループ会社の米Silicon Expertが世界中のメーカーから収集した電子部品情報データベースを提供しています(参考:https://www.chip1stop.com/sp/solution/siliconexpert)。個人が闇雲にネット検索するよりも信頼性の高い類似パーツが早く見つけられると思います。

テーマ4:設計、規格、工場とのトラブルあるある

美谷:弊社はまだ大規模な量産はしていないので、大きなトラブルには直面していないのですが、小さく取り組めているのは逆に良かったと思っています。100個程度なら不具合があっても最悪自分で修整できますし。最初から大きな数ではなく、失敗を許容できる小ロットから始めるのもアリだと思います。

浜田:大手のメーカーなら製品を市場に出す前に、故障試験などを繰り返し実施するのですが、私たちにはそこまでやる体力も時間もないので、とりあえずできあがったものをすぐに世に出してしまうことが多々あります。なので、お客さんと一緒に育てていきたい旨をあらかじめお伝えして、出荷後のフィードバックを得ながらアップデートしていくイメージですね。例えば、教育用のIoT基板は電源を乾電池から供給するためパワーが弱く、屋外に持ち出して使うと動かなくなることがわかりました。実際に現場で使ってみないとわからないことが多く、いかにあらゆるケースを想定して設計に落とし込めるかが今後の課題ですね。

池田:昨今は大きな自然災害で海外の工場が被害を受け、部品の価格が急騰する、といったトラブルが起こっています。こうした場合は、安易にネットの情報に飛びつかず、まずは信頼できる代理店や商社に相談し、現状を把握しながら、価格帯の折り合いが付けるように交渉するか、別のメーカーから調達できるように手配してもらうことをお勧めします。弊社サイトにも相談窓口を設けているので、困ったことがあれば、お気軽に問い合わせてください。

■お知らせ

ASCII STARTUPは2021年11月19日(金)、IoT、ハードウェア事業者に向けた、オンラインカンファレンス「IoT H/W BIZ DAY 2021 by ASCII STARTUP」を開催します。視聴は無料で、申し込み先着300名様に特典の送付を予定しています。下記チケットサイトよりお申込みください。
■■イベントレジストでお申し込みはこちら■■
■■Peatixでのお申し込みはこちら■■

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事