週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

「ソフトとハードの融合領域におけるスタートアップと製造業の爆速連携事例」レポート

爆速でCES出展 ハードウェアスタートアップの成功秘話

2020年03月31日 06時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●ガチ鈴木/ASCII STARTUP 撮影●高橋智

 2020年3月19日、「JAPAN INNOVATION DAY 2020 by ASCII STARTUP」が開催された。新型コロナウィルスの影響で無観客となってしまったが、開催形態を映像アーカイブ配信に変えて実施されたので、その様子を紹介しよう。

 セッションA-3では、「ソフトとハードの融合領域におけるスタートアップと製造業の爆速連携事例」と題して、スタートアップのハードウェア製造を支援する事業者がAIスタートアップの課題などについてディスカッションを行なった。

 登壇したのは、AIスタートアップの株式会社ファーストアセント 服部 伴之代表取締役社長と、ハードウェアを手がける有限会社スワニー 橋爪 良博代表取締役社長、株式会社ノエックス 山田 祐輝代表取締役社長の2社。モデレーターは、一般社団法人環境共創イニシアチブの中間 康介氏が務めた。

 この3社は、経産省の「ものづくりスタートアップ支援政策」の中で出会った。平成29年度の補正予算事業から2年間、経産省の事業としてスタートアップファクトリー構築事業とものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業という2つの事業が動いている。スタートアップがものづくり、ハードウェアを開発する事業はハードルがとても高いので、支援するのが目的につくられた。平成31年(令和元年)度はファーストアセントを含む8社を支援し、量産化に向けた設計や試作に取り組んでいる。

何回失敗できるか、がものづくりスタートアップに重要なポイント

 本セッションでは、このファーストアセントの事例をベースにして、どんなプロダクトをどのように成功させたのかをディスカッションした。

服部氏(以下、敬称略):赤ちゃんの泣き声を検知して、どうして泣いたのかを解析するハードウェアデバイスを作り、CES 2020に出展しました。当社は、テクノロジーで子育てを変える、というミッションを掲げ、設立は2012年以来、ずっと子育て関連の開発をしてきています。

 もともと、いろんな物を作りたいという想いがあって、大学院を出たあとに東芝に入りました。当時は、コンセプトメイキングと特許を作って自分の手が離れてから、世の中に製品が出るまでに5年、10年かかっていました。今回、IoTデバイスを作ったのですが、今の時代だとなんてこんなにアジャイルな開発ができるのかと、かなり衝撃を受けました。

株式会社ファーストアセント 服部 伴之代表取締役社長

 今回のプロジェクトの発端は、妻がつけていた育児記録です。世の中のお母さんの8割くらいが記録していますが、思い出作りというよりも、今現在、赤ちゃんに今日何を施したかをメモするために付けています。私はこれを見て、アプリで見える化する方法があるのではないかと考え、「パパっと育児@赤ちゃん手帳」というアプリを作りました。累積で60万人くらいに使われていて、「第8回健康寿命をのばそう! アワード(母子保健分野)優秀賞」や「Baby Tech Award Japan 2019 健康管理部門 大賞」など賞を受賞しています。

 赤ちゃんの泣き声を解析するため2万人のモニターに赤ちゃんの泣き声と泣いた理由を登録いただいて「泣き声診断」機能を開発しました。ユーザーのフィードバックベースで正答率は80%以上です。すでに「パパっと育児」アプリには搭載していますが、その都度アプリを起動して泣き声を診断するのではなく、勝手に泣き声を解析し続けるものを作りたくて、枕元に設置するハードウェアが必要になりました。

 当社はずっとソフトウェアの会社でしたので、IoTデバイスを作るのは大変だろうなと思っていました。その時、ノエックスさんと一緒に介護事業者さんの介護の見守りセンサーを作っていました。ボタンを押すとヘルパーさんに通じて会話ができるというもので、中には基板とマイクとスピーカーが入っています。ある日、この中身のソフトウェアを書き換えれば、当社がやりたいことをできるなと気がつきました。

 それで、ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業を通じて、スワニーさんと出会って、「これはいけそうだ!」となりました。

中間氏(以下、敬称略):ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業で、2019年6月から設計しはじめて、翌年1月にはCES 2020に出品するという、考えられないスピードでした。この爆速を担ったお2人に背景を伺いたいと思います。

一般社団法人環境共創イニシアチブ 中間 康介氏

山田氏(以下、敬称略):エレクトロニクスをやっている我々もベンチャーなので、早くものができないと、製品ができないというのはわかっていました。お話をいただいたのが6月末で、8月にはもう動くデバイスができていました。これは、無理をしたのではなく、早くできる仕組みを持っているからできたことです。

株式会社ノエックス 山田 祐輝代表取締役社長

橋爪氏(以下、敬称略):スタートアップは予算も少なかったり、資金を集めるためにも早く形にしたいという希望があったりという状況があります。そこに、我々の爆速で進める仕組みがあるので、それが活きたと感じています。

 スワニーは長野県で製品設計をしている会社です。3D CADだけでなく、設計者が射出成形までやってしまう仕組みを構築しています。ポイントは、うちの特許技術である「デジタルモールド」です。設計者が片手間で3Dプリンター製の金型の製作から成形までやってしまうという世の中にない仕組みです。普通は型を作るのはひとつの形状ですが、「デジタルモールド」では3種類のパターンを同時に製作することもできます。金型を作るとなると、中国でも2週間、日本で3週間は必要になると思いますが、「デジタルモールド」なら朝から設計して夕方には成形品を持っていけるという爆速でカタチにできます。

 私も大手メーカーにいたことがあるのですが、金型を失敗すると大変で取り返しがつきません。そうすると、設計者も挑戦ができなくなり、昔からある形状をちょっと変えるといったことになってしまいます。型を失敗できるとなると、がんがん挑戦できるわけです。

有限会社スワニー 橋爪 良博代表取締役社長

山田:基板を全部作ろうとするとものすごい時間がかかりますが、IoTに必要なものってCPUやメモリ、LAN、Wi-Fiとだいたい決まっています。当社がベース基板やLinuxのファームウェアを開発して持っているので、お客さまが新しいことをしたい場合にも1ヵ月とか2ヵ月とかでぱっとできます。

 たとえば、LTEみたいに電波に関係するものは、作るのが大変です。これをイチから作ろうとすると、すぐ1000万円とか2000万円をお客さまに要求しなければいけなくなります。この高い基板を先に開発しているので、お客さまは100万円とか200万円といった安い金額でぱっと製品を作ることができます。また、我々が開発ツールも用意するので、(スタートアップには)得意なところに集中していただいて、製品ができるのが特徴です。

中間:小ロットを希望するスタートアップさんが、最低3000台からと断られる話をよく聞きます。

橋爪:少なければ5台とかありますが、それでもやります。面白そうだったら、えいってやっちゃうんです。それが一番のポイントなんじゃないかな、と思います(笑)

山田:橋爪さんに面白そうなものがありますけど、やります? と言われて、やりましょう、と(笑)

中間:製造業のおふたりに、スタートアップと付き合うときに、大変な話を聞かせてください。

橋爪:うちの場合は、初期のアイデアから問い合わせが来ます。想いは熱いのですが、法的な部分も含めて、仕様がはっきりしていないと大変です。

 うまくいかない例で多いのが、大手出身のコンサルさんが入っている時です。想いとは別の、昔ながらのものづくりの仕様書を引いてしまうと、なかなかうまくいかず、失敗して怒られます。

 今回の服部さんは、歩く仕様書みたいにはっきりしていたので、すっきりといきました。筐体を設計して、3Dプリンターでぱっと試作して送るまで、1週間以内です。

服部:細かいところで問題は出るのですが、最初に社内で見たときに、これでもうCES出せちゃうねというものだったので安心してお願いできました。

 ベンチャーでものづくりをするというのはチャレンジングなことです。それに対して、大企業出身の方がきちんと線を引くのはあまり合ってないと思うのです。最初、3Dプリンターで試作品を作っていただいた時も、CESに出すまでの間に何回失敗できるかと逆算しました。

 そもそもチャレンジングなことをしているので、作る側にとってもチャレンジです。そこで、どこまで保証するのと言い出すと、いいものはできないと思います。今回、途中何回か失敗できるんだ、というのが衝撃でした。

橋爪:普通なら1回しかできないことが3回できると言うことは、それだけ最後までこだわれるようになります。そのこだわる時間を、仕組みの中で作っているということです。

 「カタチになったので送ります」と言っても、「何がですか?」と早すぎて信じてくれないんです。逆に早すぎて怒られたこともあります。

服部:どういったクオリティでできたと言っているのか、というのが最初はちょっと不安でした(笑)

橋爪:挑戦しろ、と言う会社に限って、失敗したら大騒ぎで、誰も助けてくれません。挑戦と言うなら、小さい失敗を繰り返せるようにすべきだと思います。こういった速度は当たり前になってきます。スタートアップの方が来ると、我々が大手のコンサルさんよりもぎゅぎゅっと縮めたガントチャートを引いてしまいます。

中間:ハードの開発が早くなったら、ソフトの開発も早くなると思いますが、そこはどういう役割分担やプロセスを踏まれましたか?

山田:製品として動かすところのソフトはうちのエンジニアが作っています。(ファーストアセントさんには)一番得意なAIのところに集中していただき、マージしました。

橋爪:一般的に音関係だと、自分は筐体屋だからそこから先は知らないよとか、設計が悪いよ、となるのですが、我々はいっしょにやります。結局、これを作る、という想いがあるから、何屋さんとかは言っていられません。全体責任です。

中間:最後に、ひと言メッセージをお願いします。

橋爪:スタートアップの皆さん悩まれていると思いますが、まずは駆け込んでください。1日で、いろいろジャッジして、ここまでできます、これはできませんということを言える仕組みができています。我々は、受託という想いではやっていません。一緒に作り上げる、共創と考えています。世界中に発信できるいいものを作っていければと思います。

山田:相談をしていただければ、解は言えます。僕ら自身もベンチャーなので、ベンチャーの気持ちはわかります。想いを持って駆け込んでいただければ、一緒に解決していきたいと思っています。

服部:こういったパートナーを見つけられてハッピーだったと思います。何回失敗できるだろうという考えでやらないと、本当にいいものができません。これでいいからまず動かそう、というスタンスでやるといいものづくりができると思います。

 中間氏のフリに3人とも笑いを交えて大盛り上がり。とにかく3社の仲がいいのが伝わってきた。この親密さも、爆速でハードとソフトを開発できた理由の一つに感じた。スタートアップがハードウェアに手を出すのはリスキーという風潮もある中、赤ちゃんのためにチャレンジしたファーストアセント 服部氏と、熱い想いでそれを支援するスワニー 橋爪氏とノエックス 山田氏。今後のハードウェアスタートアップ必見の連携事例だった。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう