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100以上の医療機関との共同研究による圧倒的なデータ基盤

医師を超えたAIで胃がん見逃しゼロを目指すAIメディカルサービス

 株式会社AIメディカルサービスは、内視鏡画像診断支援AIを開発する2017年創業のスタートアップ。開発を進めるAIの画像認識精度はすでに人間の医師の正解率を超えており、そのようなAIを活用すれば、医療現場の負荷を軽減し、がんや病変の早期検出が実現できそうだ。

ベテラン医でも、小さな病変を見つけるのは難しい

 同社CEOの多田 智裕氏は、臨床医としてこれまで2万例を超える内視鏡検査を実施してきた経験を持つ。だが10年以上の経験を持つベテラン専門医であっても、小さな病変を見つけるのは難しく、がんや病変の2割以上は見逃されているという。

 見逃しを防ぐために複数の医師によるダブルチェックが日々行なわれているが、1日あたり約3000枚もの大量の読影をこなす担当医への負担は大きい。

 他方で、口から肛門までの消化管がん患者は世界的にも増加傾向にあり、医療機関からの内視鏡診断へ期待が高まっている。胃がんは早期の発見が難しく、ステージが進むほど医療費がかさむため、初期段階で発見・治療できれば、医療費削減にもつながる。

 AIの利用で内視鏡からの診断確度が高まれば、無駄な生研検査をしなくて済み、患者への負担が減らせるのもメリットとして期待される。

代表取締役CEO 多田智裕氏

100以上の医療機関から収集した数万件もの教師データが強み

 現在開発中の第1弾製品である「胃がん鑑別AI」は、内視鏡の画像をAIが解析し、胃がんの可能性が何パーセントかを判定するソフトウェアだ。

 現在は、「医療機器ソフトウェア」としての承認申請へ向けて臨床研究を実施している段階で、近い将来の発売を目指している。

 実証実験では、すでに専門医と同等もしくはそれ以上の精度という結果が得られているとのこと。内視鏡は、オリンパス、富士フイルム、HOYAの3社が世界シェアの7割を占めており、同社のAIは、国内主要メーカーの内視鏡に対応する予定。

開発中の「胃がん識別AI」の画面イメージ。左が内視鏡画像、右側にAIによる解析部分の画像と鑑別結果が表示される

 この精度の高さは、東大病院、慶應義塾大学病院、がん研有明病院、大阪国際がんセンターをはじめとする国内100以上の医療機関から収集した数万件もの良質な教師データのおかげだ。

 医療分野でのAIスタートアップにとって最も難しいのが教師データの収集であり、共同研究先を見つけるのも容易くはない。だが同社の場合、医師であるCEOの多田氏が30を超える論文を発表しており、学術領域での圧倒的な実績から、トップレベルの内視鏡専門医や医療機関とのネットワークをもっていることが強み。医師や医療機関側から次々と研究依頼がくるため、自ずと共同研究先が増え、データやノウハウが蓄積される、という好循環となっているそうだ。

 内視鏡データは、患者の個人情報のため、各医療施設と個々に契約を結び、各施設に内視鏡画像を録画する機器を提供、録画データを匿名加工処理してから収集する形をとっている、とのこと。

実証実験では専門医を超える高精度を実現

 内視鏡AIの開発は、NECやエルピクセル株式会社、サイバネットシステム株式会社など、大手からスタートアップまで数社が取り組んでいるが、いずれも大腸ポリープなど下部消化管を対象としている。その理由は、大腸ポリープの形状は比較的検出しやすく、技術的に開発が容易なため。

 しかし同社は、あえて難易度の高い胃がんなど上部消化管のAIからスタートし、次に小腸や大腸のAIへと拡げる戦略だ。

「胃がんは発見するのが難しいからこそ、ニーズが高い。先に競合のいない難しいほうから押さえておけば、『胃がんが見つけられるAIなら、大腸がんも見つけられるだろう』という期待値も得られます」(広報・岸 倫太郎氏)

 製品のリリースはもう少し先になるが、内視鏡AIの認知拡大、理解度向上に向けて、来春には内視鏡専門医向けの会員ウェブサイトを開設する予定だ。

 同社は、内視鏡AI技術に関する基本特許を成立済みのものも含めて複数出願済みで、将来は海外市場も視野に入れている。内視鏡検査は非常に難しく、医師の技術にも左右されるうえ、海外には内視鏡専門医が少なく、ノウハウも不足しており、検査精度は日本に比べて低い。そのような点もあり、内視鏡AIは、海外の医療機関への内視鏡導入の助けとなりそうだ。

 100を超える医療関連機関や施設と組む共同研究は、なかなか国でも取り組めないような一大プロジェクトと言える。AIのサポートを経て、世界での内視鏡検査自体の障壁が減り、さらにテクノロジー×医療が発展していくことを期待したい。

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