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東大IEDP・寺田徹准教授インタビュー

『自分はこう思うけど、なぜだろう?』を解き明かす面白さは格別!

2021年01月22日 11時00分更新

意外!? 大学に入るときは『都会っていいな』

―― 先ほどのお話でもありましたけれども、この道に進んだきっかけは何でしょう? また、「都市工学」と「自然環境の保全」は相反するような気もします。

寺田 高校に入って学区が広がると、街中の友達が増えて『都会っていいな』『東京に行きたいな』と思うわけです。もともと都市設計・建築設計に興味があったので、どちらもカバーしている筑波大学の社会工学類に入りました。

―― 意外にも入学時は都市志向だったのですね。

寺田 そうです。ただ、都市計画を勉強していくうちに、工学的な視点のみで街を作っていくことには限界があると直感しました。そうこうしているうちに4年生になって、研究室を選ぶ際に知ったのがランドスケープアーキテクチャ/景観設計と呼ばれる分野です。これは人間活動と自然環境の保全調和を考えるという、まさに現在の研究に通じる内容で、しかも学んでみたら肌に合って面白かったのです。

―― ランドスケープアーキテクチャというのは、学問分野としては新しいのですか?

寺田 いえ、じつは19世紀からある学問です。その端緒となったのは、ニューヨークのセントラルパークを設計したフレデリック・ロー・オルムステッドという人でして、この方はランドスケープアーキテクトという職能を作った人でもあります。

―― ランドスケープアーキテクト?

寺田 日本では造園家と訳され、庭づくりをする人だと誤解されますが、「自然と調和した環境を計画的に作る環境デザイナー」といった理解が正しいと思います。その考えを元にセントラルパークが建設されたのが1857年ですから、だいぶ昔から存在するのです。

 ところが、その学問が日本に輸入される際、「造園学」というかたちで入ってきた結果、国内では長い間、領域が狭い学問とみなされてきたのです。現在では、単なる庭作りの分野ではないと理解されており、最近は注目される分野の1つとなっています。

今後はランドスケープ分野も
就職で引っ張りだこに!?

―― 寺田先生が担当する自然環境/緑地環境デザインスタジオを志してくる学生さんは、やはり田舎育ちが多かったりするのでしょうか?

寺田 決してそんなことはないと思います(笑) ただ、都市で育った学生でも、自然環境にある程度興味がないとこのスタジオは履修しないと思います。

 履修生によく話を聞くと、建物やインフラに対して緑化を進めるよりも、その建物やインフラがある立地環境に興味がある人が多いようです。もともとはどういう自然環境だったのか、ということですね。ランドスケープアーキテクチャの職能のひとつは、もとの自然環境をできるだけ保全するためには、どんな建物やインフラを作ればよいのかを考えることです。

 ですので、自然環境だけなく、人工的な環境を含めて、広く環境そのものに興味がある学生がランドスケープ系のスタジオを受講していると思われます。

―― では、ランドスケープアーキテクチャなどを学ぶ醍醐味、そして学ぶことでどういった仕事に活かせるのでしょうか? このインタビューでは「研究者の道はこんなに面白い」というところにウェイトを置いていますが、修士から就職する人が多いことも確かですので、学んだことを活かせるような就職先があればご教示いただけますと幸いです。

寺田 就職を考えた場合、今後ランドスケープアーキテクチャは注目が集まる分野になると思います。

 私が所属している環境学研究系には、もう10年以上前から言われている、持続可能性/サステナビリティに関する教育プログラムがあります。緑地環境や自然環境は、このサステナビリティに近接している分野です。

 たとえばESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)をする際、グリーンインフラ(洪水を緩和するために緑地を積極的に都市に増やしていく考え)に積極的な企業にお金が集まるわけです。これはお金を集める力として「環境」という因子が強くなった証と言えます。

SDGsが叫ばれる昨今、ランドスケープを修めた人材の重要性も増すだろう(外務省「SDGsの概要及び達成に向けた日本の取組」より)

―― 仰るようにSDGsに対する意識はここ数年で一気に高くなりましたね。

寺田 ですから、緑地環境を勉強すれば、環境について積極的に取り組もうとしている企業に就職するには有利でしょう。これから緑地環境、ランドスケープを勉強してみようという学生が就職する頃には、さらにSDGsが重要な指標となる社会になっているでしょう。

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