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東大IEDP・寺田徹准教授インタビュー

『自分はこう思うけど、なぜだろう?』を解き明かす面白さは格別!

2021年01月22日 11時00分更新

緑地環境研究にもIoTが活用される時代に

―― 昨今、IoT技術を使った新しい社会としてSociety 5.0などが提唱されていますが、先生のご専門に関してIT技術を活かす試みがあれば教えてください。

寺田 研究ベースの話で言うと、樹木のような自然物にセンサーを付けて、自然環境のモニタリングに使う可能性があると考えています。

 たとえば私は里山の研究で、里山の樹木が1年にどれぐらい成長するかを計測しています。現在は、実際に行って樹木の幹まわりや樹高を測ったりするわけですが、樹木にIoTセンサーを付けておいて、成長していく様子をリアルタイムで確認できれば、どこからでも研究可能なわけですよね。

 通常、こうした研究の測定間隔は、頻繁にやっても数年に1回ですが、樹木にセンサーを付ければ細かく時間ごとのデータをとれます。例えば季節によって成長の仕方が違うのですが、現在の測定方法のままでは時間解像度が荒いのです。IoTを使った研究のモデルケースができれば、あとはデータロガー規格を統一することで、同じやり方で世界中の森林がモニタリングできるようになります。

 そうなれば、世界中の森林研究者が協力し合って、「今地球上の樹木がどれぐらいの二酸化炭素を吸収しているか?」をリアルタイムで共有できるかもしれません。

フィールドワークは重要だが、頻繁に出向くことができない対象にはIoTによるアプローチが有効かもしれない(写真は「自然環境デザインスタジオ2018年度成果物」より)

生産緑地を非常時の栄養供給源として捉える

―― 都市の中に生産緑地ってありますよね。あれも研究テーマになり得るのでしょうか?

寺田 じつは緑地分野の研究では、生産緑地に関する論文がすごく増えてます。たとえば「農業体験や市民農園で野菜作りしている方が、一般の人たちと比べてどれだけ健康レベルが改善されているのか?」といったテーマがあります。

―― それはまた新しい視点ですね。

寺田 それというのも、法律が変わったことで「積極的に生産緑地を残していこう」という機運が高まっているので、生産緑地にどれだけの価値があるのかエビデンスを積み上げている最中なのです。そうした根拠は、自治体や国が次の政策を打つために使われます。

 生産緑地に関して私たちが研究していたテーマは災害と都市農地の関係です。東京都練馬区のケースにしたのですが、「首都圏直下型の大地震が起きて、物流が10日間程度止まったときに、域内の農地から直接農作物を避難先に持っていって良質な栄養源を得る」というシナリオを考え、現存している練馬区の農地がどれだけの栄養を供給できるか調べました。

 この研究はサステイナビリティ学を専門とする博士課程の学生の研究ですが、私たちランドスケープ分野の教員と、栄養学に詳しい公衆衛生学分野の教員が学融合的に参加し、さまざまな分野の統計資料などを組み合わせてシミュレーションしました。

―― 練馬区の農地で、練馬区の人口を何日分支えられる、といった結果は出たのでしょうか?

寺田 はい。今回は10日分の栄養供給を考えていますが、全人口に対しては年平均で3~4%程度、避難が想定される方のうち、子供と高齢者に絞ると、20%程度の供給が可能です。ただ季節によってだいぶ差がありそうですね。やはり6月~7月、11月~12月といった夏野菜、冬野菜の収穫期とそれ以外ではずいぶん差が出てしまいます。

―― 凄いですね。都市の農地を、都市に住む人の非常用食料庫みたいに考えるわけですよね。

寺田 日常ではコミュニティ形成や健康育成にメリットがあり、非常時には栄養供給源になります。計画的な提案としては、日常時だけでなく、非常時においても公益性が高いので、生産緑地をきちんと維持しましょう、ということになりますね。

東京都練馬区で生産される野菜による栄養自給率。出典:Sioen, G. B., Sekiyama, M., Terada, T., & Yokohari, M. (2017). Post-Disaster Food and Nutrition from Urban Agriculture: A Self-Sufficiency Analysis of Nerima Ward, Tokyo. International Journal of Environmental Research and Public Health, 14(7), 748.

練馬区の生産緑地(撮影 寺田徹)

練馬区が全国に先駆けてその仕組みを作り上げた農業体験農園(撮影 寺田徹)

感性の先に疑問を持つ人に来て欲しい

―― 最後に、これから大学院を目指す高校生や大学生へのメッセージをお願いします。

寺田 緑地や自然が好きな人は、感覚的にその良さをわかっていると思います。田舎に行くと落ち着く、街中でも公園にいるとなぜか落ち着く、樹木が色づくのを見ると居心地がよいなど、自分の感覚としてはそうだと思いますが、ではなぜ人間はそんなふうに感じるのでしょう?

 ランドスケープ分野の研究は、『私は田舎がよいと思ってるけど、他の人はどうなんだろう』とか、『なんでここに農地が残ってるんだろう。すごくいいと思うけど……なぜ街中で農業が営まれているんだろう』とか、自分の感性で感じたことの先にいろんな疑問が出てくることではじまるものだと思っています。

 そんな「感性の先に疑問を持ってしまう人」は、大学院の研究ですごく面白い経験ができるでしょう。「他人に対して客観的に、自分が直感的に思ったことをデータにして伝えていく作業」も重要ですが、最初の入り口は直感的な分野ですから、強い直感力とその先の疑問を持つ人にぜひ来て欲しいと思いますね。

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