Honda初の電気自動車「Honda e」。動力性能の高さをはじめとして話題に事欠かない車種ですが、Honda eには使い勝手の面でも目新しい技術が幾つも搭載されています。そこでHonda eの開発を担当した、本田技研工業 オートモービルセンター 第10技術開発室 技術企画ブロック 研究員の安藝未来氏に、その目的と内容について聞きました。
安藝さんはもともとBluetoothと車両を接続するなど、クルマの機能面について携わってきた方。今回初めての電装系のプロジェクトリーダーに就任し、Honda eに携わっているという。「今回のプロジェクトに入って度肝を抜かれたのは、ボディー出身のLPLから『クルマを中心に考えるな』と言われたことでした。人が生活していくなかで、色々なデバイスが関わっています。それをどのようにつなげることで、その人がもっと豊かに過ごせるのかということを考えることから始めました」という。これはHonda eが電気自動車ゆえ都市に適したクルマ、つまり日常的に使うクルマだからこそ、クルマをもっと身近なものに、という考えからきています。
まず安藝さんは、IoTやコネクティビティに関する講演会に積極的に参加し、それを自分の中で再解釈することから開発をスタートしたといいます。その中でコネクティビティーそのものに意味はなく、サービスそのものに意味があると考えたのだとか。そしてクルマから離れた場所ではスマートフォンを介した車両制御、車内ではワイドスクリーン「Honda CONNECT ディスプレー」と「Hondaパーソナルアシスタント」を使ったハンズオフ操作という、2軸で開発を進めたそうです。
「コネクティビティーやIoTに関する要素技術はもともと社内にあったり、始まっていたりしていました。私が行なったのは、それを集めて調理する、というイメージですね」と安藝さん。
それでは、Honda eに搭載された使い勝手の面における新技術を紹介していきたいと思います。
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スマホとの連携が従来のクルマと違う
まず、スマートフォンとの連携について。Honda eは、専用アプリを用いて車外から車両のエアコン操作や充電リッドの開口などができます。充電リッドはともかく、エアコン操作は特に目新しい技術ではありません。ですが、驚きはその反応速度。大抵は2分ほどかかったりして、クルマの近くで操作した場合「これならクルマの中で操作した方が早い」いうことも。ですが、Honda eはすぐに起動します。「これらの操作の多くは、インターネット回線を使いサーバーを介して行なわれています。なのでクルマとの距離が近い場合、時間がかかるのです。ですがHonda eの場合、遠距離ではインターネット回線を、近距離ではBluetoothと通信を使い分けています」とのこと。
スマホ連携はそれに留まりません。BピラーにはNFCが組み込まれており、専用アプリをインストールしたスマートフォンでタップすると開錠できます。さらに車内のNFCマークにスマートフォンをかざすと、車両を起動することも。
「私たちが今、一番身近に触れているのはスマートフォンです。今までもアプリで開錠したりエアコンをつけたりといった動作はできていました。ですが、なぜエンジンをかけるという行為は別動作なのか? それをシームレスにできるのはスマホではないか、ということから思い立ちました」と安藝氏は語る。
スマホによるデジタルキーのよいところは、家族所有の車両の場合、鍵を持った主人が出張に行っても、奥様やご子息がクルマを急に使いたくなった場合、IDとパスワードを教えればクルマを使うことができるということ。日本ではまだ認可されていないものの、安藝さんはさらに新しいビジネスモデルになると考えていらっしゃるようです。
「これは後になって気づいたのですが、鍵の物理的制約から解放されることは、より自由度の高いシェアリングサービスが提供できる可能性を秘めているということです。カーシェアやレンタカーを利用する際、営業所に行って鍵を受け取る必要がありました。ですがデジタルキーなら、期間だけの認証をすればよいのですから、ユーザーの利便性は高まると思います」。カーシェアやレンタカーがラクに使えるようになれば、クルマをもっと身近なものに、という考えにも合っています。
安藝さんによると、現時点ではオーナーに対する鍵の付与に限られているのですが、車両側のポテンシャルはもっと高いレベルにあるとのこと。さらに日本では複数端末での利用には対応していないのですが、欧州では複数のデジタルキーで車が起動できるようにしているといいます。「このような違いがあるのは、現在Hondaが提供している車両管理アプリ、日本なら「Honda Total CarCareプレミアム」、欧州なら「My Honda+」のサービスの違いのほか、地域に依るところが大きいです。日本は1車両1パスワードという考え方が一般的ですので、その仕様にしています」とのことでした。
クルマを起動させるだけ、と言うのはカンタンですが、サーバーの構築をはじめ難しい部分は多かった様子。「スマートフォンでの施錠は既存技術でもありましたが、車両の起動という部分は新規開発になりました。既存のシステムに組み込むのですから、一気に求められる技術要素が上がります。ですがこのおかげで、コネクティビティーのレベルが上がったように思います。コネクティビティーというと、我々もアプリやエンタメ的要素を思い浮かべがちです。ですが、車両の始動という根幹部分を真面目に取り組んだのは、今後のコネクティビティーにおいて、ひとつのクルマにとっては小さな一歩かもしれないですが、Hondaにとっては大きな一歩だと思います」と安藝さんは自信を見せました。
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