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航続距離283kmと割り切った電気自動車「ホンダe」が目指すものとは?

2020年10月25日 12時00分更新

割り切った電気自動車
それが「Honda e」

 10月30日にHondaから新型EV「Honda e」が発売される。価格は451~495万円となるが、すでに第一期の発売分は売り切れになっているという。年間の販売目標はわずかに1000台という少なさがではあるが、それでも注目度は高いと言えるだろう。そんな「Honda e」の公道試乗の機会を得た。そこで感じたことや考えたことをレポートしよう。

 「Honda e」は、欧州のCAFE規制をきっかけに生まれたEVだ。CAFE規制とは、メーカーが販売する車全体のCO2排出量を規制しようというもので、その対策として欧州の各自動車メーカーは、それぞれCO2排出量ゼロのEVを用意しようということになっている。フォルクスワーゲンならばID.3、プジョーはe-208、オペルのコルサeといった具合だ。それらのEVのほとんどは、バッテリーをなるべく多く搭載し、普通のガソリン・エンジン車と同等に使えることを訴えている。

 ところが、「Honda e」はその逆張りをした。バッテリー量を減らし、長い航続距離を諦めて「都市部のコミューター」に徹したのだ。搭載する電池は35.5kWh、航続距離は最大で283km(WLTCモード)という数値はライバルたちよりも劣る。たとえば日産リーフの航続距離は458km(WLTCモード)だ。しかし、それ以外ではとことん頑張った。

 プラットフォームは専用品を開発し、4輪独立懸架の後輪駆動とした。前後重量配分は50:50だ。モーターは最高出力113kW(154馬力)・最大トルク315Nmを誇る。車格でいえば1クラス上の強力なものだ。また、ドライバーの前には助手席まで伸びる巨大なモニターが設置される。メータースクリーンと2つの12.3インチモニターで、その左右にはさらにデジタル化されたサイドミラーのモニターまで。室内の幅をめいっぱいモニターが伸びているのだ。もちろんコネクテッド機能の採用にも意欲的で、AIスピーカーのように会話式で対応する「HONDAパーソナルアシスタント」も搭載されている。さらに自動ブレーキなどの先進運転支援システムも最新のモノ。つまり、ライバルが重視する“航続距離”を割り切り、それ以外に全力を投入するという内容であったのだ。

一般道を走っても楽しい
しかしミラーに慣れないと違和感が……

 公道試乗では、その頑張りが非常によくわかった。巨大なモニターとデジタルミラーの存在感は、ここ最近の新型試乗では抜きんでている。サイドミラーのモニターが、ミラーよりも内側にあるため、車幅感覚がつかみにくいのが気になった点。ただし、目線移動が少なくなるのはメリットだろう。

 また、重心が低いこととシャシーのデキの良さには感心させられた。微小なハンドル操作にもしっかりと反応するし、それでいて直進性も悪くない。ナーバスに感じることはなく、後輪駆動車らしい気持ち良さがある。さらにパワーは十分以上。飛ばす気になれば、相当に速い。スポーツカー的な走りも可能なのだ。

 デザインの良さも魅力だろう。「This is HONDA」と言えるエクステリアは、可愛らしく、多くの人に好感を持ってもらえるはず。インテリアは上品でキレイ。日本のモダンな家具のようだ。走りのレベルは非常に高いと言えるだろう。

Hondaが航続距離にこだわらなかった理由
「マスでなくニッチを狙う」

 では、なぜHondaは、このように“航続距離”というライバルが重要視するものを切り捨てた、割り切ったクルマを作ったのであろうか。ライバルと同じように、航続距離が長いEVをガソリン車ベースで開発することもできたはずだ。たとえば「フィットEV」のようなモデルだ。しかしHondaは、違う道を選んだ。その理由は現実のビジネスを考えたのだろう。

 まず、欧州におけるHondaの存在感は、日本で考えるほど大きくない。そのため、ライバルと同じようなモデルを作っても、同じように売ることが難しいのだ。プロダクトの問題ではなく、販売力の問題と言っていいだろう。ちなみに、アメリカではセダンの「クラリティ」が電動化モデルとして発売されているため、フィットEVのようなモデルは不要だ。さらに日本では、EVの販売は苦戦必至であることは、日産リーフを見れば明らか。

 そこでHondaが採択した戦略が「マスではなく、ニッチを狙う」というもの。つまり、数多く売れなくとも、ブランド力を上げてくれる魅力的な製品を狙ったのだ。それは販売目標にも表れている。日本での年間の販売目標は、たったの1000台。欧州でも1万台程度だ。大衆車ではなく、ピュアスポーツカーのような数字といえる。

 そうした狙いがあるため、「Honda e」は航続距離以外の部分では、非常に意欲的で魅力的なモデルになった。ブランドのイメージを高めるスポーツカー的な役割であり、試乗してみれば実際に納得のデキだったのだ。そして結果として、欧州も日本でも販売は目標をクリア。見事に役割をはたしたと言えるだろう。

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筆者紹介:鈴木ケンイチ

 

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。


 
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