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広がるシェア傘 1日70円の傘レンタル「アイカサ」拡大要因を聞く

 「カーシェアリング」「オフィスシェアリング」「民泊」など、日本でも空いているモノや空間などを貸し出す「シェアリングサービス」が少しずつ普及してきている。2018年12月には、1日70円で「傘」を貸し出す傘のシェアリングサービス「アイカサ」が始まった。

 このサービスを運営しているのは、2018年6月に創業したスタートアップである株式会社Nature Innovation Group。JR東日本グループから出資を受けるなど、ビジネスを拡大させている。自社の成功を「参入したタイミングが良かった」と分析する代表取締役の丸川 照司氏に、どのような考えからアイカサ提供に至ったのか、アイカサ拡大のための努力、今後の見通しなどについてお話を伺った。果たしてアイカサが受け入れられたのは、「タイミングが良かった」だけのことなのか?

株式会社Nature Innovation Groupの代表取締役を務める丸川 照司氏。右手に持っているのは「アイカサ」で貸し出している専用の傘

オリジナルアプリは要らない、LINEで済めばユーザーにとっても楽

 丸川氏は「街で突然雨に降られると、多くの人がコンビニエンスストアで安物のビニール傘を買うと思います。これは『傘がほしい』わけではなく、『濡れたくない』から買っているわけです。そこでユーザーが傘を買うことなく、濡れない体験を買えるサービスがあれば受け入れてもらえるのではと考えました」とアイカサを思い付いたきっかけを語る。ほしくもないビニール傘をわざわざ買うことなく傘を利用できるサービスを提供し、使った後はユーザーの身近な場所に返却できる環境を作れれば、傘のシェアリングがビジネスになると考えたのだ。

 アイカサは2018年3月にサービスの事前提供を開始し、同年12月に登録会員1000人・渋谷50スポット・流通傘1000本でサービスをローンチした。2019年2月にはローソンと実証実験を実施し、5月に福岡市でLINEグループと協業、上野での全面展開と拡大。

 さらに鉄道では西武新宿線29駅全駅に設置したことを皮切りに、小田急線26駅、12月にはJR東京駅主要全出口に設置など、順調にサービス利用場所を拡大している。東京と福岡以外でも、横浜・岡山・大宮・水戸でアイカサが開始され、2018年12月のサービスローンチより約1年で、登録会員73,802人・全国800スポット・流通傘8000本を突破している。2020年2月には、関西展開の第一弾として神戸市・阪神電鉄・アイカサの三者連携協定を締結したほか、地下鉄初の路線全駅展開で福岡市地下鉄空港線全13駅に導入が決定している。

 利用するには、スマホアプリのLINEで会員登録を済ませ、画面に現れる地図で傘を借りたい場所を選び、傘を予約する。その場所にたどり着いたら、傘に付いているQRコードをLINEで読み、傘の柄に付いている3桁のダイヤルロックを指定の番号に合わせれば良い。返却するときは、借りた場所に戻る必要はなく、街中にあるアイカサのどの傘箱にでも返せる。その際には傘箱にあるQRコードをLINEで読み、傘をきれいに折りたたんで傘箱に入れる。1日70円からの利用料金となっている。

アイカサの利用手順。スマホアプリのLINEを利用する(出典:Nature Innovation Group)

 このようなサービスを提供する際、独自アプリにこだわる企業が多い。しかし丸川氏はLINEを選んだ。その理由を「傘はできるだけ手軽に利用できる方がいい。コンビニで傘を買うときと同じくらいの手間で使ってもらえるように。専用アプリを開発して、ユーザーにわざわざダウンロードしてもらうのは面倒で、これはないなと思いました」と説明する。

提供する傘は独自開発、納得できる品質を達成するために工場を探す

 アプリはオリジナルにはこだわらなかったが、サービスで貸し出す傘にはこだわった。「中国の工場で、オリジナルを作ってもらっている。サービスが始まって1年が経ちましたが、サービス開始当初から使っている傘でも、事前の予想より汚れは少ない。これなら、3~4年は使い続けられるはず」だと、丸川氏は語る。

 独自に開発したという傘を見ると、骨組みに金属ではなく、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック:Glass Fiber Reinforced Plastic)を採用しており、簡単には折れないしっかりしたものとなっている。コンビニで買えるビニール傘よりもはるかに立派で、しっかりした作りだ。中国の数カ所の工場と交渉し、納得いく品質のものを作ってもらえる発注先を選んだそうだ。

独自に開発した「アイカサ」専用の傘。骨組みにしなやかなGFRPを採用しており、簡単には折れない作りになっている

 アプリはオリジナルではなくLINEで良いと割り切りながら、提供する傘は納得いくものができるまで工場を探す。事業に対して強くこだわる部分はもちろんあるが、余計なこだわりは不要と割り切り、メリハリをつけて事業に取り組んでいることが分かる。

海洋のプラスチック汚染のニュースがきっかけで、アイカサを前向きに捉える人も増えた

 そもそも、「傘の貸し出しサービス」は新しいアイデアではない。現在のように「シェアリング」という呼び方になる前から存在していたし、シェアリングサービスとしても中国には先例があった。悪い言い方をすれば「手垢の付いたアイデア」だ。

 決して新しいとは言えないサービスであるアイカサが、日本で急速に普及している要因はどこにあるのだろうか。丸川氏はこの点について「タイミングが良かった。あとは諦めずに続けたことでしょうか」と振り返る。

 確かにタイミングは良かった。中国では傘だけでなく、自転車などさまざまなシェアリングサービスの提供が始まり、ニュースで話題になるなどシェアリングビジネスに注目が集まっていた。

 さらに2018年は、プラスチックゴミが世界中の海洋を汚染しているというニュースが流れ、多くの人の注目を集めた。「ニュースではプラスチックストローに注目が集まり、ストローの使用を止める飲食店も現れた。しかし、ビニール傘で使っているプラスチックの量は、ストローの比ではない。ビニール傘1本でストロー400本分のプラスチックを使っている。しかも、突風や台風にあおられて壊れてしまい、使えなくなったビニール傘が路上に当たり前のように捨てられていることも珍しくない。今後は、ビニール傘に対して逆風が吹くかもしれません」(丸川氏)

 安易にビニール傘を購入し、使い捨てることに抵抗を感じる人が増える可能性は高いだろう。丸川氏によると、プラスチック汚染が問題となった後、アイカサを前向きに捉える人が増えたという。

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