カンファレンスに参加した有識者や出展企業がイベントの魅力を語る
スノーデン氏、ファーウェイ重役が登壇したWeb Summit 2019報告会
第1部「Web Summitとは?」
第1部のトークセッションでは、ウェブサミット日本事務局代表の満木 夏子氏より「Web Summit 2019」の概要が紹介された。
Web Summitは、2009年にアイルランドで発足し、2016年以降はポルトガルのリスボンに会場を移して開催されている。初開催から10年目にして、参加者7万人以上、スタートアップ2000社以上が出展する世界最大級のテクノロジーカンファレンスだ。政府関係のブース出展も多く、自国スタートアップの宣伝、外資誘致の場となっている。
Web Summitの特徴のひとつは、自社開発のイベント専用アプリを参加者に提供していることだ。会場に入場するにはアプリの登録が必要で、参加者同士の交流、セッションや展示のレコメンド、各国言語への翻訳などの機能を備えている。出展者やスタッフ、セッションの著名な登壇者に至るまで、全参加者と直接メッセージをやりとりできるのは、Web Summitならでは。
もうひとつの特徴がWeb Summit名物のナイトサミット。リスボンの街のレストランやバーと提携し、会期中は毎晩ネットワーキングパーティーが開催されるという。
Web Summitは審査制で、専門の審査チームによって選ばれた企業だけが出展できるシステム。2019年の出展企業は2000社に対して、数万件の応募があったそうだ。
スタートアップは、アーリーステージ(投資額1億円以下)の「ALPHA」、ミドルステージ(投資額3億円以下)の「BETA」、ネクストユニコーンを目指すステージ「GROWTH」の3つのステージで区分けして募集。各ステージの枠内で成長のポテンシャル、Web Summitとの相性、プロダクトとチームの構成、ピッチの質などを審査し、出展企業が選出されるそうだ。
世界から注目されているWeb Summitだが、全参加者7万人に対して、今年の日本からの参加者は200人とまだ少ない。今年は企業スポンサーとして富士通が初出展し、スタートアップの出展数も過去最多と、着実に知名度は高まっている。スタートアップにとっては、Web Summitの出展は、世界進出への登竜門と言えるだろう。
写真で振り返るWeb Summit 2019
後半のパネルディスカッションは「写真で振り返るWeb Summit 2019」と題し、現地の盛り上がり、セッション、ピッチ、展示ブースでの印象的な場面を振り返った。
登壇者は、ウェブサミット日本事務局の満木 夏子氏、日本貿易振興機構(JETRO)イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課の新田 沙織氏、富士通株式会社 グローバルマーケティング本部の安西 潔氏、株式会社karakuri Co- founder & CPOの大塚 仁道氏、ASCII STARTUPの鈴木 亮久。
鈴木:「事前に聞いてはいましたが、ものすごい混雑ですね」
満木氏(以下、敬称略):「夕方6時からオープニングですが、お昼過ぎには受付をしないと、セッション会場に入れないほどです」
鈴木:「街と企業の協力体制がものすごく敷かれていたのは感心しました。地下鉄の駅はもちろん、車両内の案内表示にまでシールが貼られていて、乗り換えに迷うことなくたどり着けます」
安西氏(以下、敬称略):「亡命先のロシアからリアルタイムで中継するのも先端的ですし、スノーデン氏が話されたこともウェブサミットを象徴する内容でした」
鈴木:「セキュリティーとデータの取り扱いですね。ヨーロッパはGDPRで個人情報保護が強化されていってますが、規制強化に対してスノーデン氏はデータを取り扱う側の使い方に問題だがあると主張していたのは印象でした」
安西:「ファーウェイ・テクノロジーズのCEOの講演は、英語はさほどうまくないのに、堂々としていて、メッセージはしっかりと伝わっていた。そして、日本企業も十分いけると感じました」
鈴木:「内容的には、2者とも政治的なメッセージはまったくなくて、サービスを重視した内容でしたよね」
満木氏:「スノーデン氏のスピーチの最後にGoogleやファーウェイへを批判的発言をしますが、このあとファーウェイのCEOが登壇し自社の見解とサービスについて述べるという公平な意見交換の場となっています。」
鈴木:「僕が注目したのは、Banjo Robinsonというイギリスのベンチャー企業。Banjoという猫が世界中を旅しているという設定で、世界中の子どもたちと月に1回手紙でやりとりするサブスクリプションのサービスをしています」
大塚氏(以下、敬称略):「僕はむしろピッチに出たかったのですが、2000社のうち登壇できるのは100社。60秒のピッチ動画を撮って送ったのですが、残念ながら選考で落ちてしまいました」
満木:「全体で2000社。日替わりなので、スタートアップ視察に来ている方は、毎日ブースを回ってほしいですね」
鈴木:「日本企業を中心にセッションを組んで、ブースを回っていたので、ほかのセッションを見られなかったけれど、それでも大変だと感じました」
満木:「スタートアップブースはさほど大きくないので、すぐに行列ができます。オススメは朝1番に回ること。お昼過ぎは混みます」
大塚:「午前中は比較的、ゆったりしている感じがしました。9時から開場ですが、10時頃からようやく人が増えてくる感じです」
鈴木:「富士通さんは、日本企業初の協賛ブースを出展されましたよね」
安西:「3日間日替わりで24社が展示を行ないました。応募条件が設立5年以内のスタートアップで、そこからさらに審査があります。スポンサーだから大目に見てもらえるかと思っていたのですが、それでも厳しかったです」
新田:「昨年ジェトロから参加したときには、ほとんどが落とされてしまったので、今回は事前に交渉し、ジェトロチームに限り10年までOKにしてもらいました。それでも選考で落とされてしまいましたが」
満木:「数万件の応募があり、その中から2000社を選ぶので、落ちている企業のほうが多いんですよ」
鈴木:「ナイトサミットは人が多すぎて飲み食いできそうにない雰囲気でしたが、皆さんは参加されましたか?」
大塚:「あちこちに美味しいお店があり、たまたま隣に座った人がブラジルのインベスターの方で会話がはずんだりしました」
安西:「ナイトイベントは、けっこう大事です。ここでしか会えない人に会えます。午前中は会場に人が少ないのは、ナイトイベントで遅くまで話しているせいでしょうね。プライベートなパーティーにうまく潜り込めると、濃いネットワークに繋がれて、現地でしか得られない貴重な情報を手に入れられることがあります」
満木:「地元のバーやレストランなので、会期中だけ営業時間を延長してくださっています。リスボンの新しい観光エリアをナイトサミット会場に選ぶなど、観光PRの場としてもうまく活用されていますね」
ジェトロのジャパンパビリオンにJ-Startup5社を含む15社が出展
第2部では、ジェトロの新田氏、富士通の安西氏、スタートアップのALPHA枠に自社で応募・出展したKarakuriの大塚氏から、それぞれの出展の目的と成果が報告された。
ジェトロの新田氏は、ジャパンパビリオンの成果を発表。
ジェトロのジャパンパビリオンには、J-Startupを中心とした15社のスタートアップが出展した。J-Startupは、経産省が推進するスタートアップ育成支援プログラムで今年は150社が採択され、国内の支援はNEDOが担当し、海外展開についてはジェトロがサポートしている。
J-Startupからは宇宙企業のispaceとastroscale、人口流れ星のALE、ヘルステックのFiNC Technologies、昆虫テクノロジーのMUSUCAの5社が参加。また今回のWeb Summitには、アクセラレーター/VCのPlug and Play JapanやOrangeが協賛しており、それぞれデモデイで優勝した、スマートフットウェアを開発するno new folk studio、ARスポーツ事業を展開するmeleapなどが参加した。
日本企業の参加目的は、欧州マーケットでのフィードバック収集、市場調査、ローンチ予定のプロダクトのPRやネットワークづくり、海外CVCからの資金調達、インターナショナルなPRやブランディングなどが挙げられる。
出展企業からのフィードバックとしては、「スタートアップが信用を得る意味で、このようなグローバルに発信力のあるイベントでステージ登壇の機会が得られたのは大きい」「投資家/パートナーシップの両面で有益な話をする機会を持てた」、「ただ出展するだけではダメで、積極的に働きかける必要があったのが反省点」といったコメントが得られたそうだ。
富士通ブース内にスタートアップ24社が出展
富士通の安西氏からは、今回初出展した目的、大企業が出展することによって得られるメリットが紹介された。
富士通のブースでは、日替わりでスタートアップ8社ずつが出展した。出展の目的は、2019年度から開始した欧州版のアクセラレーションプログラムの認知を広めること。欧州版は、富士通の顧客×富士通×スタートアップの3社間で新規事業を創出することを目指しており、3社の協業をイメージしてもらうため、ブース内で富士通顧客向けの共創ワークショップを実施したという。
Web Summitに大企業が出展するメリットとしては、CESやSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)などに比べて費用対効果が高いこと。また前日にはCorporate Innovation Summitという、大手企業の経営者層が集まる場に参加して親睦を深められる。
北米に比べると、ヨーロッパのスタートアップのバリエーションは低い傾向があり、投資家や出資を含めた協業を検討するCVCには魅力的だ。協業先のスタートアップだけでなく、登壇者、エコシステムを回す人たちとのつながりを持てることも大きな収穫だ。
富士通アクセラレータプログラムには、約25の事業部門や関係会社が参加している。2019年から同プログラムを欧州はじめ、海外に展開している。Web Summitに関しては、来年も出展を計画中とのこと。
アプリ活用による攻めのアプローチが商談につながる
Karakuriは、オンラインパブリッシャー向けデータマーケティングプラットフォーム「Insight Search Engine」を開発しているスタートアップ。Web Summitの出展は、海外のテストマーケティングとインベスターの獲得が目的だ。2019年2月に自社で申し込み、Web Summitの事務局とのSkype経由でのやりとりを経て、申し込みから3、4週間後に合格通知が届いた。
出展までの準備としては、ピッチ用のスライドと、ピッチコンテストに応募するためのプレゼン動画、ブースで流す動画の作成、投資家用の英語のQ&Aなどを用意。また、Web Summitアプリで来場する投資家をリストアップして事前に調査してアプローチしていった。アプリを使えば、各投資家が興味のあるカテゴリーがわかり、業界のトレンドも見えてくる。今年はフィンテックやAI、環境系がトレンドだったという。
しかし、現実にはすぐに投資家との商談につながるわけではない。KarakuriはALPHA枠で参加したが、投資家は、BETAかGROWTHを投資対象と考えており、シード期のスタートアップは考えていない、と言われることが多かったそうだ。
Web Summit側からの投資家とのマッチングもあるが、オファーがあったのは2件ほど。 「ただ出展するだけでは成果は得られない。積極的にアプローチをする必要があります」と大塚氏。アプリを活用して、500名ほどにメッセージを送り、インベスター7件、アクセラレーター5件、見込み客13件との商談につなげることができ、帰国後も商談のやりとりを続けている。
会場の来場者からの反応も良かったようで、海外でもサービスが通用することが確信でき、海外展開への次の課題が見えたのが大きな成果だったようだ。
Web Summitは世界最大級のスタートアップイベントとして、世界中のトップ企業が注目している。スタートアップはもちろん、有望なスタートアップやパートナーを探している大企業や投資家にとっても現地で得られるネットワークの価値は大きい。欧州進出を目指すなら、ぜひ来年以降の参加を検討してはいかがだろうか。
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