7月29日(水)に迫ったWindows 10の無償アップグレード開始まで、残すところあと約2週間。まもなく最終のRTM版が、PCメーカー向けに提供される見込みとなっています。
一方で、2015年のPC市場は昨年の反動もあり、低調な推移と続けています。果たして、Windows 10の登場でPC業界が再び盛り上がる可能性はあるのか、直前予想をしてみたいと思います。
低迷するPC市場に立ちはだかる無償アップグレード
米調査会社IDCによる2015年のPC市場は、2015年第1四半期が前年比6.7%減、第2四半期は同じく11.8%減と、低調に推移しています(いずれも世界市場での出荷台数)。昨年の同時期にはXPのサポート終了に伴う買い替えが盛り上がったのに対し、今年はWindows 10登場を見越した買い控えも含め、落ち込みがみられます。
Windows 10の登場による盛り上がりが期待されるところですが、そこにブレーキをかける可能性があるのが、7月29日から順次始まる無償アップグレードです。最初の1年間は無償という”ブースト”をかけ、マイクロソフトは3年で10億人のユーザーを獲得するという高い目標を掲げています。
7月29日より、Insider Previewの参加者を中心に、順次Windows 10への無償アップグレードが提供される。 |
近年で最も成功したといえるWindows 7は、登場から3年で40~50%程度のシェアを獲得しています。これと比較すると、マイクロソフトはWindows 10に対して7と同じか、それ以上の勢いを期待していることが分かります。
これに少し不安を覚えているのがPCメーカーです。今夏にもWindows 10搭載のPCはいくつか登場するものの、主要な新製品は年末商戦に向けた10~11月まで待つ必要がありそうです。そのため、既存PCのユーザーが次々と10にアップグレードし、そのサポートの電話が鳴り止まない一方で、10世代の新型PCは伸び悩む――そんな悲観的なシナリオは、避けたいものです。
Windows 10の本当のメリットは何?
逆に、Windows 10への移行ペースはもっとゆるやかなものになるのではないか、という見方もあるでしょう。
iOSやAndroidでは、OSのアップデートは基本的には歓迎されています。アップデートが提供されないキャリア版のAndroid端末では、不満の声が上がるほどです。これはOSが新しくなることで、動作が軽くなったり電池持ちが良くなるかもしれない、といった期待があるからでしょう。
一方、Windowsはすでに完成度が高く、使い方も決まっています。たしかに8.1や10では、より高速で安全になり、最新のハードウェア規格に対応するなど、確実な進化も期待できます。しかしそれ以上に、8では使い勝手が変わることに不満が高まりました。
この教訓を生かし、Windows 10は7と同じ使い勝手に戻したことをマイクロソフトはしきりにアピールしています。これは7ユーザーを安心させる反面、10に上げることで得られる具体的なメリットが何なのか、という点を曖昧にしている印象があります。
Windows 10には慣れ親しんだデスクトップとスタートメニューがある、とマイクロソフトは強調する。 |
たとえばマイクロソフトは、「あらゆるデバイスでWindows 10とユニバーサルアプリが動作し、共通のユーザー体験を提供する」というメッセージを出しています。ただ、それはあくまで基調講演などで一般向けに見せる“デモ”の世界であり、売り物になるプロダクトやユーザー体験を作る上では、それぞれのデバイスに向けた作り込みや最適化は避けられません。
また、我々はWindows 10が動作する“あらゆるデバイス”を、それほど多く持っていません。PCやタブレットに比べて、XboxやWindows Phoneを持っている人はだいぶ少ないのが現実です。HoloLensやSurface Hubに至っては、ほとんど未知の存在です。むしろ、いま家庭にあるデバイスはiPhoneやAndroid、ちょっと古いフィーチャーフォンではないでしょうか。
Windows 10が動作するという“あらゆるデバイス”だが、多くの人が持っているのはPCとタブレットくらいではないだろうか。 |
果たしてWindows 10を入れることで、2-in-1でもタッチ対応でもRealSenseカメラ搭載でもない、平均的なPCでどういうメリットが得られるのか、という点が気になるところです。
個人向けはMac、法人向けはWindows 7モデルの動向に注目か
最近、“PCに触れる若者が減ったことで、動画編集や作曲(DTM)に新規参入する人が減っている”という声を耳にする機会が増えています。
たしかにスマホやタブレットでも、短いブログを書いたり、写真にエフェクトをかけてSNSで公開するなど“コンテンツ”を作る環境は整備されつつあります。しかしパワーのあるPCほど凝ったことはできないことも事実です。
ただ、PCメーカーの中でアップルは出荷台数を伸ばしており、IDCの調査でも16.1%と大幅に伸びています。その売り場のすぐ隣には、タブレットで最も売れているiPadという強力なライバルが並んでいることを考えれば、異例の事態といえます。
その要因のひとつとして、スマホユーザーの増加に伴い、自分でもアプリを作ってみたいと考えるユーザーが増えていることが挙げられます。MacではiPhoneとAndroidのアプリを両方作れる上に、Web開発のツールも揃っています。以前に比べると“億万長者”になれる機会は減っているものの、月に数万円程度を稼げる可能性がそれなりにあるのが魅力です。
筆者が学生の頃、アプリ開発といえばWindowsとVisual Basicだったが、いまではMacが最もスタンダードな選択肢になりつつある。 |
また、Macユーザーの中には「仕事がWindowsなので、家では触りたくない」という人も多い印象です。逆に言えば、Windowsはまだまだ企業インフラにとって最重要の存在であり続けています。Windows 10では新ブラウザーとしてMicrosoft Edgeが搭載されるものの、IE11も残されており、IEに依存したWebベースの業務システムもそのまま利用できるでしょう。
注目は、企業やビジネスユーザーに人気の高い”Windows 7モデル”が今後どうなるのか、という点です。すでにPCメーカーはWindows 10 ProからWindows 7 Professionalへのダウングレード対応を表明しているところもあり、基本的には現行の”8.1から7”と同じ仕組みが継続されるものとみられます。
登場直後のWindows 10を採用する企業は少ないと思われるものの、今後の運用を考えればWindows 7の延長サポートが2020年に期限を迎える点も気になるところ。ギリギリまで7を使い続けるのか、安定感の出てきた8.1に移行するのか、それとも一足飛びに10を採用するか、という選択肢に悩むことになりそうです。
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