ここ数年、開催ごとに足を運んでいる『東京国際ブックフェア』、そして同時開催の『電子出版EXPO』。全国の名だたる出版社が出展する日本最大の本のお祭りであり、電子書籍業界の動向もわかるとあっては行くしかない! と、毎年鼻息も荒く、東京ビッグサイトに行っては、新しい技術に驚き、大量のパンフレットや資料、そしてうっかり購入しまくった本を抱えて帰ってくるのです。
今年もいざ!と出かけようとしたものの、なんだかあまりブックフェアや電子出版EXPO関連の話題が聞こえてこない。なかには「半分ゲームショーだった」なんてネットのつぶやきもあり、「どういうこと?」とおそるおそる行ってみると……。
そこはバーチャルリアリティーだった
入るなり、目に飛び込んできたのは『VR』の文字。というか右も左も、みんな頭にOculus Riftをつけている!?戸惑う私の前に、ひとりの黒装束の忍者が現われたのです。
↑しのびや.comの『未来手裏剣道場 HANZO』。体験ではやらなかったけれど、火遁とかすいとんの術までできるらしい! |
「やってみます?」
笑顔で差し出されたOculus Riftを装着し、手裏剣型コントローラーを持って、私の戦いは始まりました。
どうやら城らしいところで、敵の忍者を手にしている手裏剣を投げつけてやっつけるVRゲームらしい。でも、手裏剣は8枚しか投げられないんだって。そうしたら、ポーズをするとリロードするらしい。ポーズって何?コレしないと手裏剣投げられないわけ?
早くもOculus Riftをかぶったことを後悔し始めましたが、いまさら「ポーズが恥ずかしくてできません☆」なんて言えるわけもなく、頭の上で手を上げてポーズする。「もっと上げて!」と、Oculus越しに黒忍者からの容赦ない突っ込みが入ります。
投げる投げる。「はい、ポーズ」。手裏剣シュシュシュ。「ポーズポーズ」。なんとかラスボスらしき大きめの忍者を倒し高得点ゲット。
「はい、お見事。上忍でした」
黒忍者が判定を告げてくれるも、逃げるようにその場を後にしたのでした。いや、楽しかったんですけどね。
↑クリプトン・フューチャー・メディアにはやっぱりミクさんが。 |
↑この機械をタッチすると、ミクの表情が変わる! |
↑パワーグローブではありません。『Cyber Glove IGS』です。 |
↑60fpsのデータキャプチャーが可能で、発売は今夏。 |
↑『MOVERIO』を装着した、エプソンのブースのお姉さん。試着体験コーナーも大人気でした。 |
実はこれ、同時開催のイベント『コンテンツ 東京 2015』のひとつ、『第1回 先端コンテンツ技術展』の会場がすぐ隣だったんですね。道理でVRだらけなわけです。その後、1年ぶんぐらいのOculus Riftを堪能したところで、突然始まる電子出版ゾーン。そうそう、これを見に来たんですよ。でも、昨年まで大きなブースを出していたBookLive!や楽天Koboなどの展示もなく、やや寂しい感じ。とはいえ、出展しているブースはみんな元気で、さまざまな発見がありました!
出版社や雑誌ごとの統一表記を校正支援!
まず目に留まったのはNECのブース。以前はハードウェア『Life Touch』などを出展していた記憶があったけれど、今年は珍しくソリューションでの出展でした。
『Smart Source Editor』は、ライターが原稿を打ち込むとその出版社の表記チェックしてくれるという、校正支援システムを搭載した原稿作成・編集のソフト。これはライター・編集者としてはかなり重宝しますね……。さらに、小学1年生から中学生、高校生以上と、学年に合わせて、使える漢字も提示してくれるとか。参考書や教科書などをつくる際に重宝しそうです。
このソフトは、NECと講談社が共同開発したもので、今後は他社へ販売していくそう。KADOKAWAにも導入されるらしいので、このシステムを使って原稿を書く日も近いかもしれません。
↑原稿作成・編集ソフト『Smart Source Editor』。原稿整形、校正支援、自動ルビ付け機能を搭載。 |
↑小学生分は学年ごとに設定が可能。習っていいないぶんの漢字がハイライトで表示される。 |
楽天が巨大な電子図書館を設立
そして、人が大勢集まっていたのがメディアドゥのブース。とくに話題となっていたのは、電子図書館のシステムです。メディアドゥでは世界50ヵ国で3万館以上の電子図書館に携わっているという実績をもつ大御所OverDriveと2014年に提携。しかし、2015年3月にOverDriveが楽天に買収されるというニュースが伝えられ、今後の動きが気になっていたところでした。
『これからの電子図書館の展開』と題されたステージには、OverDriveのプレジデント兼CEO Steve Potash氏、楽天の常務執行役員である相木孝仁氏、そしてメディアドゥ社長の藤田恭嗣氏と、キーマンがズラリそろいました。
まず、メディアドゥの藤田氏から今後は三社でタッグを組み、日本での電子図書館事業に乗り出すことが発表されました。電子図書館というと、儲からないようなイメージがありますが、「実はここに巨大なビジネスチャンスが潜んでいる」とSteve氏が熱弁。とくに、これまで日本のコンテンツを海外で販売するには、ベストセラーなどでないとやりづらいものがあったけれど、OverDriveが全世界に持っている販売チャンネルを使って容易に販売できるようになるといいます。
↑「電子図書館の市場はこれまでの公共図書館だけでなく、学校や企業も新たなマーケットとして広がっている」と語る、OverDriveのSteve Potash氏。 |
そして、楽天の相木氏が国内初となる企業向け電子図書館の『楽天図書館(仮称)』設立を発表。この図書館は、楽天の1万人の社員が教育や学習に利用できるそう。今後はこのような形の電子図書館が続々と登場しそうです。
アメリカでは公共の図書館における電子図書館システムの普及率は、約95%。空港にはスマホの充電器とともに、電子図書館の貸し出しマシンが設置されていたり、渋滞中の道路で「時間をもてあましていたら電子書籍を借りて読みましょう」といったアナウンスが流れ、その場でコンテンツを借りられたりと、“いつでもどこでも”という電子出版のメリットが最大限に活用されています。電子書籍市場の規模はアメリカと日本では大きな違いこそあるものの、この電子図書館が日本に普及すれば、今まで電子書籍に触れたことのない層にも浸透し、新たな電子書籍の市場が広がっていくかもしれません。
↑楽天では、災害地などを中心に行なっている車両型移動図書館の『楽天いどうとしょかん』でも、電子書籍を提供していくとしている。 |
超豪華仕様の電子版『グイン・サーガ全集』
大日本印刷のブースでは、書店と電子書籍ストアを連動させた“ハイブリッド総合書店”『honto』をはじめ、デジタルえほんやソリューションなどのサービスが展示されていました。
その中でも目をひいたのが、電子書籍をあらかじめインストールした専用電子書籍端末の『honto pocket』です。アガサ・クリスティーやエラリー・クイーン、古典文学などの傑作集といった決められたコンテンツが入っており、好きなコンテンツの入った端末を購入できるという仕組みです。
そして7月末に販売されるのが……。
そうです、『グイン・サーガ』です。作者である栗本薫氏が亡くなってしまったため未完とはなったものの、その世界観とストーリーには未だ根強いファンも多いファンタジーの名作。すべて文庫本版でそろえたとしても、自宅のスペースを圧迫すること間違いなしですが、『honto pocket』なら全巻ぶんこのコンパクトサイズに収められるのです。
↑こちらがhonto pocket。サイズは112.5(W)×21(D)×144(H)ミリ、重さは130グラム。600×800ドットの5インチ電子ペーパー搭載で、単3形乾電池2本で動作します。 |
↑『グイン・サーガ』を全巻集めたらこんな量に。これがhonto pocketサイズに入っていると思うと感激です。 |
これだけスゴイことですが、さらにこの『グイン・サーガ全集 プレミアムパッケージ』には、イラストレーターの加藤直之氏がわざわざ書き下ろしたという豪華イラストの複製原画、さらにさらに端末本体の裏部分には、直筆のイラストが入っているのです!
すさまじいプレミア感のため、販売数は限定20個。価格は10万円台後半になるとのことです。手に入れられるだけでもラッキーといえるでしょう。といいますか、もったいなくて使えない気がしますよ!?
↑honto pocketの背面に描かれた加藤氏の直筆イラスト。神々しいまでのオーラが端末からあふれ出ています!! |
↑こちらには、グインとパルの双子たちが描かれています。 |
↑書き下ろしイラストの複製原画。大日本印刷の印刷技術を駆使し、原画と見間違うばかりのクオリティーでした。 |
各出版社の割引販売も見逃せない!
ブックフェアの目玉といえば、やはり各出版社による本の販売。いつもは定価の高価な本も、ほとんどが割引で買えるとあって、お財布の紐はゆるみっぱなしです。毎年楽しみにしている児童書のコーナーでは、絵本や図鑑、ドリルまでそろい、多くの人でにぎわっていました。また、ブックカバーをはじめ、本に関する雑貨なども展示・販売されています。
残念ながら『コンテンツ 東京 2015』は7月3日までと会期が短いのですが、『東京国際ブックフェア』と『電子書籍EXPO』は4日まで開催されています。会場では作家による講演やワークショップ、サイン会なども開催されるので、本好きの人はぜひぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
↑講談社のブースでは雑誌『なかよし』60周年を記念し、貴重な懐かしのふろくや、複製原画を展示。 |
↑ブックフェア名物の、児童書や絵本が集まった販売所『こどもアイランド』。 |
↑図書館の貸し出し記録のようなデザインで、自分の読書履歴を残せる『読書記録しおり ワタシ文庫』。 |
↑ボイジャーブースでは、作家の藤井太洋氏と、日本独立作家同盟の鷹野凌氏が『日本独立作家同盟の活動』をテーマに講演を行なった。 |
【開催概要】
●第22回 東京国際ブックフェア
●第19回 国際電子出版EXPO
会場:東京ビッグサイト
会期:7月1日~4日
●コンテンツ 東京 2015
会場:東京ビッグサイト
会期:7月1日~3日
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