ソフトバンクは6月18日、Pepperの一般向け販売開始を発表しました。6月分として生産した最初の1000台は、発売後わずか1分で完売するなど、さっそく盛り上がりを見せています。
2014年の発表から1年が経ち、一般販売にあたってPepperの成長ぶりが披露された。 |
発表会は、Pepperのデモやイメージ動画の披露、タレントを交えたトークセッションも充実しつつ、最後の質疑応答が1時間以上にも及ぶなど、かなり長丁場のイベントになりました。
トークセッションでは、家庭に届けられたPepperを箱から開封するシーンも披露された。 |
質疑応答は実に1時間以上。孫正義氏がいかにPepperに入れ込んでいるか、ひしひしと伝わってくる発表会になった。 |
果たしてPepperが家族の一員として迎え入れられる時代は来るのか、改めて考察してみたいと思います。
Pepperの身体能力は人間に及ばない
一般に、人間型のロボットにおいて注目されるのはハードウェアです。ホンダの二足歩行型ロボット『ASIMO』のように、人間と同じように歩くことができるかどうかがポイントです。もし階段の昇り降りがスムーズにできるほどの身体性能があれば、行動範囲は大きく広がることになります。
これに対してPepperは、二足歩行ロボットではありません。発表会では滑らかな動きのダンスを披露するシーンはあったものの、基本は掃除機ロボット『ルンバ』のように、平坦な場所を動き回るのみ。スペック上は1.5cmほどの段差は超えられるとしつつも、日本の狭い家屋にはちょっと不向きな設計といえます。
滑らかな上半身の動きでダンスを披露したものの、本体下部のホイールによる走行が基本となるため、段差は苦手。もちろん飛び跳ねたりすることもできない。 |
また、5本指を自由に動かすことができる手についても、それほど器用とはいえません。ティッシュ配りのデモでは、そもそもティッシュをうまくつかむことができず、スタッフの介助を必要としていました。
ティッシュを取りこぼすことも多く、スタッフの手助けは必須。本格的な”労働力”としては期待できないだろう。 |
充電台に向かって、”バック”で乗ることができるようになった。この充電台は基本プランと保険パックに同時加入することでもらえるとのこと。 |
この点について孫氏も、「冷蔵庫からビールを取ってこさせる、といった使い方は想定していない」と語るように、現時点でのPepperには生産性を求めないとしています。以前にソフトバンクが訴えた労働力不足を解消する手段には、まだ届いていません。
Pepperの実体はクラウドにある?
むしろPepperの本体は、ハードではなく、ソフトの部分にあるようにも思えてきます。Pepperは応答速度を上げるため、よく使う受け答え用のデータは本体内にキャッシュを持ちつつも、大部分の記憶はクラウド上に保持しています。
そのクラウド内では、他のPepperと接続することにより、学習した会話や行動のパターンを共有し、急速に成長できることを特徴としています。
聞こえてきた言葉やセンサーからの入力データ、明るさや天気などの情報を総合して、”感情”をシミュレーション。そのバックエンドには全世界のPepperをつなぐクラウドがある。 |
仮にPepper本体が故障したり、新モデルが発売されて買い換える場合でも、クラウドのアカウントを引き継ぐことで、新しい体に同じ”人格”を宿すことができるようです。
そもそも、現在のPepperは日本の狭い家屋には大きすぎるように思います。卓上サイズのミニPepperなら、旅行に連れて行くこともできるはず。あるいは物理的なロボットではなく、スマホアプリであっても事足りるのではないでしょうか。
Pepperが家族の一員になる日は来るのだろうか
とはいえ、Pepperの実体はクラウドにあると結論付けることには、慎重でありたいとも思っています。それは、Pepperが家族の一員として受け入れられる可能性があるからです。
発表会では、子供の成長を長期間に渡ってPepperが見守る、というシナリオが紹介されました。時を経て大人に成長し、やがてその子が結婚するとき、それまでの20年をPepperが撮影した写真や動画で振り返るというのです。
発表会では家庭にPepperが届けられる場面が紹介された。果たしてPepperは家族の一員として認められるだろうか? |
現在、クラウドサービスの中には、写真や動画のメタデータを分析し、顔認識などと組み合わせるものも出てきています。これを利用すれば、名場面集のようなものを作り出すことは技術的には難しくないでしょう。違いがあるとすれば、そこにPepperが家族の一員として介在するかどうか、という点です。
このレベルに到達したPepperは、もはやクラウドにつながったロボットではなく、人格を持った人間と呼ぶべき存在になるでしょう。この点について孫氏は、「Pepperの調子が悪くなっても、愛着があるからメンテナンスして使い続けたい、という要望もあるだろう」と語っています。これは2014年にサポートが終了したソニーの『AIBO』にも通じるところがあります。
現実的にPepperは毎年の維持費が高く、どれくらい耐用年数があるのか、20年という長期間に渡ってPepperと生活することはできるのか、未知数の部分は多いといえます。しかしPepperが単なるロボットを超えて、多くの家庭で家族として迎え入れられる可能性を考えると、そこには我々の知らない未来が待っているのではないか、と思わずにはいられません。
■関連サイト
ソフトバンク pepper
山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ
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