音楽業界は吹き荒れる嵐の中で変化の真っ只中にある。この記事でも書いたように、国際レコード産業連盟の発表によれば、2014年は人類史上はじめてデジタル販売が物理フォーマット販売(=CD)を売り上げで抜き去った歴史的な年だった。特に、そのトレンドを目立って牽引しているのはサブスクリプション型、つまり聴き放題の音楽配信サービスだ。
そんな中で日本の音楽市場はというと、ミュージック・アンリミテッドが2015年3月で終了し、事業そのものはSpotifyと融合して『PlayStation Music』になるものの、日本ではいまだSpotifyがサービスインする気配はない。大丈夫か、日本の音楽業界?
そう思っていたところに、5月になって突如、サイバーエージェントとエイベックスが音楽聴き放題アプリ『AWA』をリリースした。
AWAは最初からiOS版、Android版を用意。PC/Mac版は後日追加の予定という。 |
最初は試しに使ってみるか、程度の気持ちで半ばお仕事的なノリでダウンロードしてみた。音楽アプリに限らず、「鳴り物入りで登場したものの、起動してみたらUXがいきなり残念」みたいな例は山積みだったから。それが数日使ってみて、どうやらポテンシャル高そうだと思い始めた。
●AWAはSpotifyを"相当しっかりと"研究している
個人的に、ミュージック・アンリミテッドはかなり気に入って使っていた。
アプリのデキは必ずしも良くはなかった。SpotifyやKKBOXのようなビッグデータ解析ベースの楽曲発見機能は弱かったし、気分ぴったりの曲がラジオ的に聞ける膨大なプレイリスト群もなかった。正確には、プレイリストはあったけれど、手動メンテだったようでリスト更新がユーザーの希望に追いついていなかった、という感想。
ともあれ、楽曲だけはとにかく多かった。2500万曲はダテじゃなかった。
だから高音質で聴きたかったこともあって月額会員で使い続けていた。MU終了後も、ライブラリを引き継ぐ形でSpotifyが上陸してくれれば、音楽体験としては1段階上にあがるはずだった(けど、そうはなってない)。
その点で考えると、AWAはSpotifyをよく研究していて、実装もまずまずだ。まず良さそうなのが、スマホファーストで開発されている点。
基本、縦横スワイプだけで楽曲を選んだり、みつけたり、聴き込んだりできるUIデザインはなかなか心地よい。
AWAの起動画面。トレンド表示からはじまる。今日のトップヒットやジャンル別ヒットは定番だけど、そのなかに"アニメ・ボーカロイドのトップヒット"があるのは日本のサービスならでは。 |
それから聴き放題サービスで重要な楽曲のレコメンド・推薦機能。音楽の選択は、
・”TRENDING(=トレンド)”
・"DISCOVERY(=音楽リコメンド)"
・"GENRE(=ジャンル別)"
・"MOOD(=ムード別)"
・"RADIO(=ノンストップMIX)"
の5つの選択方法があり、これはいずれもSpotifyのメイン機能に採用されているものだ。
オリジナリティがどうだとか、どこまでインスパイアされてるのかとか、この際どうでも良い。世界の大多数が認めたデファクトをまずなぞって、それをより良くしていけばいいのだ。だって日本にはまだSpotifyすら上陸してないんだから。
ジャンル選択画面。各ジャンルの中に入ると、ユーザーが作成したと思われるプレイリストが表示される。コミュニティっぽい機能を最初から取り入れてる点もSpotifyを研究してると感じるところ。 |
いわゆる、"この曲を聴いてる人はこんな曲も聴いてます"機能。ただ、学習が足りないのか、僕のところにはまだレコメンドがない。 |
ノンストップミックスで好みのアーティスト(や、近しい音楽)が聴けるラジオ機能。ドライブするときや、長時間の作業時にはぴったりの機能。 |
Spotifyが上陸しない理由として、業界筋から漏れ聞こえる情報では著作権交渉がうまくいっていないという話もある。とするとAWAの楽曲数は大丈夫?と心配していたけれど、洋楽のポップスやEDMを中心に、ジャンル別でラジオ的に聴いている僕には、数日レベルでは大きな不満は感じない。実際数万曲程度だったとしても数日で聴ききるのはまず無理な話ですから。
ジャンルを選ぶ、好みの曲じゃなければ次に送る、そして聴く。
これだけでSpotifyにかなり近い心地良い音楽体験ができている。
スマホアプリベースで設計されてるだけあってレスポンスは十分良いし、サインアップを不要にしているあたりも「スマホユーザーをよくわかってる」感じがする。
AWAは今の所3ヵ月間無料でプレミアム機能を利用でき、その後は無料プランに移行する仕組みをとる。90日以降、フル機能を使いたい場合は月額1080円、機能が制限された月額360円のプランも用意されるようだ。
こう書きながら、なんだか妙に音が良いなと思いつつ設定画面を掘り返してみると、それもそのはず、標準状態でWiFi接続時には320kbpsで再生するようになっていた。
画面左端から右へとスワイプすると表示されるメニュー画面。下の方にある"Settings"を選ぶと設定画面に入れる。 |
設定画面。標準状態では、スマホ回線使用時は96kbpsの設定。ただし、無線LAN接続時は自動で320kbps再生する設定になっている。これは親切。 |
サービスのベースであるUX設計でつまづくアプリは少なくないけれど、AWAはその部分は難なくクリアしている。あとは音楽の楽曲数と、膨大なライブラリから個人個人へのリコメンドをどううまく設計していくか。
2015年末までに500万曲配信、2016年末には1000万曲配信を目指すそうだから、いままさに各音楽レーベルと交渉の真っ最中。ただ、スタートは良好に切ったと思う。
『AWA』って名前はちょっと変わってるけど、まず使ってみて、アレコレ語ってみるだけの価値はある。僕はしばらく使い続けてみるつもり。
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