テレビや雑誌で決して紹介されないウマイ店が世の中にはあります。それこそ、取材拒否の名店。お客としてはこういうお店にこそ足を踏み入れたいのですが……。
今回、グルメ担当の記者ナベコは幸運にも飲み仲間のツテでふだんは取材を断っている寿司屋に突撃することができました。「どうしてふだんは取材NGなの?」、「スマホで寿司の写真を撮るのはアリ?」など訊いてきましたよ。
取材拒否の名店『ゆたか寿司』に突撃してきた
そこは、地下鉄新中野駅を最寄り駅とし青梅街道沿いにのれんを構える『ゆたか寿司』。中野界隈で30年の歴史を持つ古株の寿司屋です。
暖簾をくぐると、こじんまりとしたカウンターに颯爽とした佇まいで構える大将が。
こんにちは、と挨拶すると。
「……らっしゃい(不愛想)」
(んーーーー!もしかて大将はいわゆるガンコ親父!?)
とっつきにくい雰囲気にいやーな予感を感じつつ、とりあえず話を伺う前に何品か頼むことにしました。実は記者、カウンターで注文する寿司屋さんは来たのは小学生のとき以来。こういうところでの作法がわからないので、何から注文したらいいのか……。そうだ、そういうときこそ大将に訊いてみよう!
そこで、オススメってなんですか? と話しかたところ
「オススメはありませんよ(ぶっきらぼう)」
(ひえーーーーーーーーーー)
私はさっそくやらかしてしまったようです。ひとつも寿司を食べないうちに大将の怒りを買ってしまうという芸当はなかなかできないはず。はたしてこれから取材続行は無事にできるのでしょうか!?
と、アタマの中をグルグルと不安が駆け巡っているうちに、大将から意外な言葉が。
「食べるのはお客さんが決めればいいでしょ。なんでも食べてくださいね」
あれ?さっきのは怒ったわけではなくて“自分で好きなのを選んでね”という優しい提案だったのでしょうか?とりあえず、通らしからぬかもしれませんが、好きなネタからいただきます。
お造りの盛り。特にタコが肉厚で弾力があり夢がふくらむようなおいしさがありました。 |
シャコは大ぶりで、歯ごたえがしゃっきり。噛めば噛むほど味わい深いです。 |
カンパチはとても新鮮に感じました。ネタが大ぶりで豪華なので、酢飯と味わいが合わさるハーモニーが至福です。 |
シャリの上にイクラがたっぷり! こぼれないように気をつけねばなりません。 |
豪華にウニも。溜息が出るおいしさでした。 |
いずれもシャリに対してネタが大きめで厚みがあり、満足いく食べ応えなのです。
あーーーおいしいーーー。幸せーーーー。
お客さんの注文が落ち着いてきたところで、強面の大将におそるおそる話を訊いてみました。
ガンコな大将にいろいろ質問してみた
――お寿司、おいしかったです。こんなにおいしいのに普段は取材を受けないと聞いたんですけど、本当ですか?
「ああ、この前も断りましたよ。最近もね、取材に来たいって何回か電話があったんですが、(ここで一緒に厨房に入っているおかみさんから“3回”と補足が入る)3回ね、テレビに出したいって言われましたが、ほか当たってくださいって言いましたよ」
――なんで断るんですか?お店の紹介になっていいじゃないですか。
ここで大将、鬼の首をとるように私を睨みつけ(ビクッ)
「いやいやいや。テレビに紹介されても、それを見たお客さんが来るのは少しの間だけでしょ。その間、常連のお客さんが来られなくなっちゃうでしょ。今来てくれているお客さんが大事ですから」
――新規のお客さんがあまり来ても…、という感じなんすかね?
この質問にはおかみさんが代わりに
「(おかみさん)新しく来て下さるお客さんがイヤというわけじゃないんですよ。ただね、新しく来られる方の中にあまり周囲に配慮ができない方がいると、いつものお客さんの迷惑になってしまうんじゃないかというのが心配なんですよ。もちろん客商売なので、お客さんに来ていただけることは本当にありがたいんです」
――配慮がない行為というと、たとえば、お客さんがスマホでお寿司の写真を撮るのは禁止ですか?
「禁止もなにも別に構わないですよ。勝手に撮ってもらってネット?だかに使ってもらうぶんには。ほらこれ、前にお客さんがうちのことをブログちゅーんですかね、それに書いてくれてね」
大将、棚からくすんだ色の紙を取りだす。それは、とあるブログに書かれた『ゆたか寿司』の記事を印刷したもの。大将はそれをこれみよがしに誇らしげな顔で見せてくれた。
(あ、写真を撮ってSNSやブログに上げるのNGというわけじゃないんだ)
――じゃあ、スマホで写真撮るような若いお客さんはちょっととか、そういうのはないんですね。
「もちろんそうですよ。特に若い女性のお客さんは大歓迎ですよ。でもあんまり胸元が空いた服だと目のやり場に困っちゃうから、気を付けてほしいって書いてもらえますか」
大将、山本リンダの『困っちゃうな』を口ずさむ。
(えーーーーー。大将、強面だけど実はおちゃめ!?)
山本リンダの『こまっちゃうナ』を口ずさんじゃうちょっとおちゃめな大将と、優しくてしっかりしているおかみさんの掛け合いが絶妙。 |
寿司屋さんが本当に食べてもらいたいネタを訊いてみた
打ち解けた雰囲気になってきたところで、オススメのネタについて訊いてみました。はじめに訊いたときは「ない」と突っぱねられてしまいましたが……。
寿司屋さんが本当にお客さんに食べてもらいたいネタはなんだ? |
――オススメのネタを訊いたとき、“ない”とおっしゃいましたが
「そう、お客さんは自分が食べたいのを食べるのがいちばん。うちではいつもそう答えているんですよ」
――ではでは、大将が個人的に好きなネタはなんですか?
「それはやっぱり手間がかかったネタですよ。コハダとか、タコとか、アナゴとか、干ぴょうとか、蒸し海老とか。仕入れるだけのネタもあるけど、こういうのはうちで手間かけて下ごしらえしているから、そのぶんおいしいと思っているんですよ。
特に、蒸し海老は手間がかかってますよ。殻を剥いて、お酢につけて。うちは甘酢をつかってますけど、お店によってお酢も違うんでそこならではの味が出るんですよね」
やわやわに煮て甘じょっぱいタレをつけたアナゴ。優しい味で何個も食べたくなりました。 |
コハダは絶品。歯ごたえがあり旨味があり、ほかでは感じたことがないようなイキのよい味わいでした。 |
定番の干ぴょう巻。手間をかけてこしらえたという干ぴょうの味がとってもウマい。これぞホッとする味と改めて実感。 |
ここにきてシャリが尽きてしまったので、蒸しエビはネタだけでいただいた。厚みがあり味わい深く、本当にウマい。 |
大将いわく、コハダや干ぴょう巻など、寿司ネタの中で言うと地味だけど、実はそういうものこそ寿司屋さんが心を込めて手間暇をかけて仕込んでいるということでした。良いお寿司屋さんに行ったらなら必ず注文したいものですね。
今回の取材では「ウマい」という言葉ばかり連発してしまいましたが、やはり30年もお客さんに愛されて続けている寿司屋にはそれなりの理由があるんです。寿司の下に敷く葉は葉蘭の葉であるとか、ささやかなこだわりも気持ちよく感じました。値段はひとしきり食べて5000円強。けして安いわけではないですが、このネタでこの価格ならパフォーマンスは悪くないです。
取材を終えて、立ち去ろうしたときに一抹の懸念をひと言。
――あのー。この記事が『週アスPLUS』に乗って反響があったら、新しいお客さんがたくさん来ると思うんですけど大丈夫ですよね?
「まぁ大丈夫ですよ! お客さんにたくさん来てもらってもそんなに広い店内じゃないから、いっぱいになった場合は入れないですからね」
なんかのんびりした理由で掲載を許可してくださった大将。この記事をたくさんの人に読んでもらいたいと思う一方、こういう良いお店って客としてはこっそりひとり占めしたくなるもんだなと常連さんの気分になった記者でありました。
『ゆたか寿司』
東京都中野区本町6‐20‐9
営業時間:17時~23時
定休日:毎週月曜日(祝日の場合、営業する場合もアリ)
■関連サイト
ぐるなび - ゆたか寿司(中野/寿司屋)
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