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iPad教育の危うさとは 教育ハックの光と影

anthony
※写真はイメージ


「iPhoneのゲームアプリを作ってもらったところ、机に向かえなかった子供たちが何時間でも没頭し、アプリづくりに熱中した」

 LITALICO(リタリコ)が運営するIT×ものづくり教室Qremo(クレモ)の島田悠司氏は20日、週刊アスキー主催のセミナー『大江戸スタートアップアカデミー 教育をハックする──教育×IT関係者で考える次世代IoTプロダクトをつくるテクノロジー教育の現場』でそう述べた。

 同社ではIT教室のほか、発達障害を抱え集中力が保てない子供たちのための幼児教室・学習塾(Leaf)を開いている。ITの世界には、子供たちの個性をさらに伸ばせるだけの学習機会があるのではないかというのだ。

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リタリコ 島田悠司氏


●盛り上がり見せる”iPad教育”

 現在、iPadを使ったゲームやお絵描きだけではなく、スマートフォンとつながるハードウェアを使ったIT教育が徐々に盛り上がりを見せはじめている。

 たとえばブロック玩具のレゴは、知育用ロボット『マインドストーム』を使った教育をアメリカで進めてきた。レゴ・エデュケーション販売代理店アフレルの渡辺登氏は「マインドストームを使うと学習効率が上がる」と話す。

「(マインドストームは)ArduinoやRaspberry Piといったマイコンと違い、センサーやモーターがすでに組み込まれている。その上、簡単に組み立てられるのが特徴だ」

 画面上で、ロボットの機能をあらわすアイコンを動かすだけでプログラミングができる。直接コードを打ち込まないため、子供や初心者も親しみやすい。マインドストームEV3は、今夏にもiPadに対応予定。より感覚的にプログラミングに触れ、学ぶことができるようになる。

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レゴ・エデュケーション販売代理店アフレル渡辺登氏


 学生たちの発想もiPhone、iPad時代に最適化されてきた。

 東京大学 産学連携本部の菅原岳人氏は、この数年で学生の種類が変わったと話す。デジタルネイティブを超え、スマートフォンやモバイルネットワーク、クラウドが世界にあるという前提でものごとを発想するようになっているというのだ。

「学生が出したアイデアに、ドローンでWi-Fi網を最適化するというものがあった。彼らにはWi-Fiネットワーク網が見えている。『攻殻機動隊』の世界だが、一部の学生の脳内はすでにそうなっている」(東京大学 菅原氏)

 ライブラリーのオープン化、プログラミングの簡略化とともに、開発の敷居はどんどん下がっていく。コードが分からなくても、最悪パソコンがなくても、世界をハック(改造)するアイデア1つで簡単にITビジネスを起こせる時代になりつつあるのだ。

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東京大学 産学連携本部 菅原岳人助教


●低レベル言語の教育機会をどうするか

 一方、そうした“iPad教育”が普及することで、ハードウェアに近いプログラム言語、いわゆる低レベル言語の教育機会が減ることを不安視する声もある。

「iPhoneをさわっているだけでは裏側が分からない。教えている3Dプリンターの出力でも、本来ならCADを使うべきものをiPadで代用している。子供たちの目からは裏側がどんどん見えなくなっている」(リタリコ島田氏)

「学ぶ機会が薄れる一方で、言語を知らなくても“デジタルに強い人”は増える。だが、サービスの精度を高めようとしたらどこかでアセンブラを見なければならなくなる。読み解ける人たちの方が力を持つことになるのではないか」(東大菅原氏)

「(裏側を)知っている人だけが高給を取るようになるのではないか。触れる機会があるというくらいは(ITの教育現場で)教えてもらいたい。モデル・要求定義ではないが、クラス図を書き、機械語がどうなっていて、CPUがどう動いているかという一連をイメージさせる機会は欲しい」(アフレル渡辺氏)

「まずは楽しさから入り、後ろ側も教えたい。今やっているのは簡単な電子工作だが、ゆくゆくは低レベル言語も知ってほしい」(リタリコ島田氏)


●エンジニアを大事にする教育環境を

 今後のIT教育を考えると「将来、低級言語ほど大学で学ぶようになる可能性がある」とさえ菅原氏は述べていた。

 プログラミング義務教育化が政府の成長戦略素案に盛り込まれたのは2013年6月のこと。今後の教育方針がどうなるかという話では、急成長して大きくなった国内ITベンチャーの社長にエンジニア出身者の印象が薄いという指摘もあった。

「マイクロソフトもグーグルも、大きくなった社長はみなエンジニア出身だ。エンジニア社長が発言力を持ち、エンジニアリングは重要だと言い、それが政策に反映される。一方、日本の場合、孫さんや三木谷さんのおかげでグローバリゼーションやアントレプレナーシップの重要性は強調されるが、エンジニアリングについては一段落ちる。発言者のバックグラウンドが関係しているのでは」(同)

 幼少期からビジネスマインドを育てあげる“課題解決型”“創造的な教育”も重要だが、ハードウェアの制約を理解したうえでイノベーションを考える“堅実な脳”の持ち主を育てることも大事ではないか、という点で意見は一致していた。

写真:Anthony DiLaura、編集部

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セミナーのレポート本編は後日掲載いたしますので、こちらもご期待ください。

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