週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

最高到達点248m! どうやって飛んだの?『ぷっちょ』ロケット打ち上げの現地詳細レポート

2015年03月09日 20時30分更新

 3月7日、UHA味覚糖のソフトキャンディー『ぷっちょ』を燃料にしたハイブリッドロケットの打ち上げ実験に成功した。その模様を現地、和歌山からレポートする。

ぷっちょロケット
左から和歌山大学 宇宙教育研究所の秋山演亮所長、アストロぷっちょくんを手にしたUHA味覚糖の山田泰正社長、秋田大学 秋田宇宙開発研究所の和田豊所長。

 打ち上げに使われるロケットは、全長1.8メートル、重量は約8キログラム。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の本体の内側にアルミのレールで補強を入れた構造になっている。樹脂製の尾翼は4枚。

 ぷっちょを燃料とするロケットエンジンは、ジュラルミンの筒の内側に、火をつけやすくするための低融点の樹脂を入れた燃焼室と、酸化剤の亜酸化窒素のタンクで構成されている。燃焼室の内側には、包み紙を剥いたそのまま状態でぷっちょが20粒詰められれている状態だ。

ぷっちょロケット
燃料となるぷっちょは、6種類の味がUHA味覚糖から提供された。外からみる限り、ソーダ味、コーラ味、マスカット味は確実に入っている(と思われる)。
ぷっちょロケット
燃料充填前の燃焼室。燃えやすくするため、ジュラルミンの筒の内側に樹脂も貼り付けられている。

 発射の際には、外部タンクから、酸化剤タンク内に亜酸化窒素(笑気ガスとも言われる、医療用等に使われる安全なガス)が充填される。十分に充填されると、細いチューブからガスが白く立ちのぼってくる。発射担当者はその酸化剤充填を視認してから、10数秒~1分後に点火。オーディオケーブルを使った火花(スパーク)で、燃焼室のぷっちょに火が届きぷっちょが燃え始めると、その間に酸化剤のガスが流れ込む。それが激しい燃焼となってガスを噴射し、ロケットが上昇するという流れだ。

ぷっちょロケット
全長約3メートルの発射台。
ぷっちょロケット
打ち上げ前のキャンディーロケット1号機。エンジンは取り付け済み。
ぷっちょロケット
高度や加速度を計測する“ちょっとすごいロガー”を搭載している。

 ロケット本体には、機体降下の際に開くメインパラシュート、パラシュートを取り付けた“アストロぷっちょ“くん人形と、リコーの全天周カメラが先端に搭載されている。尾翼にもソニーのアクションカムが取り付けられており、上からの360度映像と下向き映像の記録を同時に行なっている。

ぷっちょロケット
ペイロード室に乗った“アストロぷっちょくん”。
ぷっちょロケット
パラシュートを開傘して降りてくる。
ぷっちょロケット
打ち上げ状況は先端のTHETAで撮影。
ぷっちょロケット
発射台を準備。いよいよ打ち上げが始まる! 点火は、UHA味覚糖の山田泰正社長が担当した。
ぷっちょロケット
点火の瞬間、ピンクの煙でキャンディーらしさを表現しつつお祝い。
ぷっちょロケット
飛んだ!!!! 見学に来ていた子供たちからも大歓声がわきあがる。
ぷっちょロケット
上昇速度はかなり早い。固体/液体ロケットでいえば、固体ロケットに近いスピード。

 設計段階でのぷっちょロケットは、約300メートル程度まで上昇すると想定されていたが、2回行なわれた打ち上げ実験のうち、最高到達点は1回目の248メートルだった(2回目は計測不能)。飛行時間7秒間のうち、ぷっちょは100メートル上昇するくらいまでの約3秒間は燃えていたであろうと、和田所長は計算している。

 ロケットにはGPSや気圧高度計、地磁気計、加速度センサーやジャイロを搭載した“ちょっとすごいロガー”を搭載しているため、気圧高度計などのデータを解析し、今後正確な上昇高度が発表される予定だ。

 発射から7秒が経過すると、サーボモータによる開閉式のペイロード室のふたが開き、パラシュートとアストロぷっちょくんを放出するしくみだが、アストロぷっちょくんは機体から離れがたいようで、ペイロード室に入ったまま、いっしょに降りてきた。

ぷっちょロケット
パラシュートも無事に開いて、ゆっくり降りてきた。
ぷっちょロケット
特に大きなキズもなく戻ってきて回収された1号機。

 ちなみに和田所長がキャンディーを燃料にロケットエンジン開発を始めたのは、2年前のこと。

 海外にも糖を燃焼させる“シュガーロケット”という試みはあるが、砂糖と酸化剤を始めから混ぜて推進剤をつくる方式のため、ぷっちょロケットの方式にとっては、あまり参考にならなかったという。また、硬いアメは燃焼が始まった途端に衝撃で割れたり崩れるため、燃料として想定できない。そこで和田所長は、ソフトキャンディーやキャラメルに酸素ガスを吹き付けながら燃焼させる実験を行ない、よく燃えるぷっちょを採用したという。

 ハイブリッドロケットでは、燃料を筒状に成型して中央の空洞に酸化剤を通すといった方法が主流のため、まずはぷっちょをいったん溶かし、マカロニ状に成形することから始めた。しかし、これが意外にうまく燃焼しない。火がつくのが遅く、地上実験ではロケットを飛翔させる推進力を生み出すことはできなかった。焦げやすく手間のかかるキャンディーの成型に、大学の学生から「もういやだ」といった声もあがり、成型ぷっちょ燃料は採用が見送られた。

 では、なんとか、ぷっちょをそのままの形で燃焼室に詰めて使えないものか、と検討していたところ、家庭用の“ガチャガチャ”にヒントを見出したという。ガチャガチャのカプセルがひとつずつ整然と出てくるのは、出口部分に2枚の穴のあいた板があり、板がスライドすることによって穴の位置が合うと、カプセルが出てくるというしくみだ。同様の板を使い、穴の位置を互い違いにしておけば、ぷっちょが穴からこぼれることなく、燃焼ガスだけ外に抜けて推進力を得ることができるのではないかと考え、考案されたのが、“邪魔(ジャマ)板”だった。

ぷっちょロケット
エンジン構造のポイントとなった“邪魔板”(タンクや配管の内側に取り付ける、穴の空いた円形の板のこと。バッフルとも呼ばれる)。

 エンジンの地上燃焼実験は成功していたものの、打ち上げは今回初。和田所長の懸念は「加速度がついた中でもうまく燃焼するか?」だったが、見事にロケットは上昇し、1粒30メートルに迫る記録を残す結果になり、ロケット燃料としてのぷっちょのポテンシャルの高さが実証された結果となった。

 無事、飛んで帰ってきた1号機のエンジン側を持った和田所長によれば、「甘い匂いが漂っている」とのことだ。

ぷっちょロケット
おかえり、ぷっちょくん。

■関連サイト
世界初! キャンディでハイブリッドロケットを飛ばせ!

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります