話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。
第10回はバンダイナムコゲームス『ドリフトスピリッツ』の中西俊之さんと門田研照さんを召喚!
→前編はこちら
なお、第11回のゲストはアソビズム『城とドラゴン』の森山尋さん。追って掲載いたしますのでそちらもよろしくお願いします。
『ドリフトスピリッツ』
↑右からバンダイナムコゲームス門田研照(もんでんけんしょう)氏、バンダイナムコスタジオ中西俊之氏、スクウェア・エニックス安藤武博氏。 |
■ 車好きの共感を呼ぶ“カーライフを味わう楽しさ”を実現
安藤:ドリスピにはレースゲームとして優秀なところがたくさんあって、ひとつはチューニングする楽しさがガシャ(ゲーム内では“オーダー”)においても上手に表現されていること。ガシャは大半のスマホゲームの主力商品ですから、カワイイ女の子のように可愛かったり、キャラクターが立っている方がいい。逆にガシャで無骨な武器や防具を獲得するというのは色気がないので売りにくい傾向にある。エンジンやマフラー、トランスミッションといったパーツをオーダーで獲得するのは、どちらかというと後者なんですけど、峠の世界観になると不思議なもので、良い部品が出るとすごく嬉しい。自分の愛車につけたらどこまで速くなるだろうとワクワクする。そこがすばらしい。
門田:ありがとうございます。
安藤:もっといいのは、車をメダルを交換するシステムです。実は僕は、ドリスピではいかにお金を使わずに速い車にするか、という遊び方をしているんです。
中西:そうなんですね(笑)。
安藤:一度課金してしまうと歯止めがきかなくなるからなんですけど(笑)、ドリスピだけはギリギリまで踏ん張りたいんです。そんな僕が遊んでいていちばん最初に思ったのは、「メダルを500枚ためてクラウンアスリートを手に入れよう」だったんです。言ってみれば、買い物の楽しみですよね。
中西:それはもう、完全にそうですね。
安藤:堀井雄二さんは、『ドラゴンクエスト』は買い物を楽しむゲームでもあるとおっしゃっています。少ない所持金の中でどのように武器防具を買っていこうか案を練ったり、武器屋で武器を買って先に進んだら、実は隣町の武器屋の方が安かったみたいな、買い物をしながら未来に向かってのやりくりをするのがすごく楽しい。
ドリスピの構造もそうなっていて、給料をためてマフラーを買おう、ボーナスが出たらディーラーやカー用品店にいこう、そういう気持ちにちゃんとなれる。速さを競うだけでなく、いわゆるカーライフの感覚まで踏み込んでいるんです。ただのレースゲームではなく、車にひも付いた人生や物語までデザインされている。そこは中西さんご自身がカーライフを楽しんでいた時代があったからでしょうか?
中西:もちろんそれもあります。実は僕は『グランツーリスモ』シリーズが大好きで、あのゲームの何がいいかというと、まさにカーライフが味わえるところです。
安藤:ゲームとしてのジャンルが「カーライフシミュレーター」になっていますものね。
門田:お金を貯めて欲しい車を買ったり、中古車を探してみたり、まさにカーライフですよね。
安藤:買い物の楽しみが大きいですよね。
中西:ドリスピでもそんな気分を味わえたらと思う反面、あそこまでのボリュームは詰め込めない。好きな車を手に入れて、頑張ってチューニングして、少ないお小遣いをやりくりしながら愛車を速くしていく楽しさ。そこだけなんとか残せたかなと思っています。
門田:実は“洗車”というアイデアも昔からあるんですよ。
安藤:グランツーリスモでも、お馴染みの!あのシステムはすごいですよね。
中西:車が速くなるわけでないですが、「愛車をピカピカにしたぜ!」という喜びがある。まだ入れていないですけど、“洗車”をしたら愛車レベルが上がるようにしたいと思っているんです。
門田:車がテーマのゲームですから、速く走らせるだけではなくて、車を愛する要素も今後は入れていきたいですね。
安藤:いいですね。中西さんは車好きのツボをわかっておられるし、まさに車が好きなお客様に共感していただける愛で方ですよね。
↑エンジンやタイヤなどのパーツを組み替えて車をチューン。パーツ同士を合成すると能力がアップする。 |
■ ドリスピの隠れたルーツは“風のクロノア”!?
安藤:中西さんは、コンシューマー制作時代はどのようなゲームをつくられていたんですか? 車のゲームをつくられたことはあるんでしょうか。
中西:僕がいちばん最初に携わったのは、ワンダースワンの『風のクロノア ムーンライトミュージアム』でした。入社してしばらくは『風のクロノア(以下、クロノア)』シリーズをやっていました。
安藤:まさかクロノアのお話が聞けるとは! 僕はクロノアがものすごく好きで、かなり遊んでいました。『スーパーマリオ』的な遊びや手ごたえ、ゲームハードの特性まで考えてデザインされたいいゲームですよね。
中西:クロノアの第1作目はPSで、当時はたくさんボタンがついたコントローラーが主流だったんですけど、なるべくボタンを使わないゲームしようとディレクターに言われていたんです。ジャンプと風だまによる攻撃、基本この2つしか使わない。そういう制約の中でクロノアにパズルをやらせたりボスと戦わせたり、いろんなアイデアを出して工夫をしていました。その経験があるので、ドリスピも極力シンプルにしたかったんです。
安藤:なるほど。ほかに何か、過去のものが活きている例はありますか? 先ほど過去の資産というお話もありましたが。
門田:ドリスピの車のベースは、リッジのエンジンの仕組みなど、もともとあるものを使っています。でもリッジでは、車1台に数多くのパラメーターが設定できるようになっていたんです。
中西:それこそ車重から各ギアのつながりまで全部設定できたんです。とりあえず数値を入れないと車が走らないので、最初は入れていたんですけど。
安藤:そうなんですね。
中西:試作が通っていざ本制作となった時に、複雑すぎてこのパラメーターを全部お客様に見せるわけにはいかないなと。
門田:もとのベースは全部リアルにつくり込んでいたんですが、結局お客様のわかりやすいパラメーターだけに絞ったんです。
安藤:いいですね。最先端のスマホゲームでクロノアとリッジの話が出てくるというのがすごく面白いですし、今のバンダイナムコさんからドリスピが出たのも決して偶然ではなく、過去からのいろいろな積み上げとチャレンジの集大成として出たものなんですよね。
“削る”というのも大事なキーワードで、この連載でよく言うんですけど、引き算のゲームデザインができる人は一流のゲームクリエイターだと僕は思うんです。クロノアで培った制約の中でゲームをつくるという意識や、リッジの車から不要なパラメーターを削ったお話を聞けば聞くほど、ドリスピは選択と集中に注力されているとわかる。だから誰でも楽しめるゲームになったし、新しいゲームになったんだと思います。
↑第1作目の『風のクロノア door to phantomile』は、1997年12月にプレイステーション用ソフトとして発売されたアクションゲーム。多くのゲームクリエイターに絶賛されるほどの完成度だった。(c)BANDAI NAMCO Games Inc. |
■ あえてオリジナルタイトルにしたバンダイナムコゲームス“イズム”
安藤:僕がいちばん気になっていたのは、ドリスピをオリジナルのタイトルとして立ち上げたことです。バンダイナムコさんなら頭文字Dや湾岸ミッドナイトの名前を使うやり方もあると思うんですが、あえてオリジナルの世界観にした狙いはなんですか?
中西:まさにそういうお話もありました。でも僕はオリジナルでつくりたかったんです。IPものだとそれだけで色がついてしまう。たとえば頭文字Dにしたら、マンガを読んでいない人は入ってこない可能性もある。車好きの人ってもっとたくさんいるはずなので、オリジナルではじめて湾岸や頭文字Dはコラボとして盛り上げていきたいと考えていたんです。
安藤:中西さんはすごくプロデューサー的な考え方をお持ちですよね。湾岸ミッドナイトのIPを使ってゲームをつくってしまうと、頭文字Dと更に他タイトルとのコラボがしにくくなりますし。
中西:まさにそれです。タイトルに湾岸とつけても、やはりほかの作品とのコラボは難しくなりますよね。
安藤:でもドリスピはオリジナルだから、それが大きな受け皿になっていろいろなコラボが可能になる。そういう考え方が実にプロデューサー的だと思うんですけど、中西さんは主にプロデューサーという立ち位置でお仕事をされてきたんですか?
中西:実はドリスピが2回目で、ディレクターのほうが長かったんです。オリジナルでやったひとつの理由として、頭文字Dとのコラボをやった後に湾岸とコラボをやれば、頭文字Dのハチロクと湾岸の悪魔のZが並ぶ。その絵をずっと楽しみにしていたんです。
安藤:車好きや原作ファンにとってはたまらないですよね。
中西:僕としては、たとえば『スーパーロボット大戦シリーズ』のように、車が出てくるいろんなコンテンツとやってみたいんです。車や原作が好きな人に楽しんでいただけるようなコンテンツに仕上げていければと思っています。
安藤:バンダイナムコさん、特にナムコさんは『パックマン』や『ゼビウス』にはじまって、リッジもあれば『鉄拳』もあり、IPものと並行してオリジナルタイトルもずっとやられている。冒頭で触れたように似たゲームが多くなって、オリジナルがないと次に続かないというときに、このタイミングでよくオリジナルタイトルでくさびを打ち込んでくれたなと思うんです。そうしないと未来がないし、過去の先輩の作品を食いつぶして終わってしまいますものね。
そこがバンダイナムコさんのすごさだと思いますし、老舗のゲームメーカーのものづくりイズムも脈々と受け継がれている気がしますがいかがでしょう?
中西:純粋にお客様に楽しんでほしいという気持ちがまずあって、楽しんでもらうためにいちばんいい方法は何なのかを真面目に考えるし、真面目に考えている中で外した遊びも入れていくところがバンダイナムコの流れかなと思っています。
門田:みんな真面目に、良い意味で不真面目なことをやっているところがあって、おもしろいこともやりつつ何かを追及したり、面白いことをちゃんと伝えるために何をしたらいいのかということを、本当に皆さん真面目にもやるし不真面目にもやる、と僕は思っています。
安藤:まじめに不真面目、確かにそういうところはありますよね。実は僕は20代のときに、積極的に未来研究所に遊びに行かせていただいていたんです。未来研究所という名前がすごく気になっていて、この研究所でどんな未来が見られるのかな、と。
中西:わかります、何をつくっているのか気になりますよね。
安藤:今から10年ちょっとくらい前で、そのころは皆さんアーケードの筐体を主につくられていました。セガさんが『ダービーオーナーズクラブ』を出された後で、カードにいろいろな情報を記録したり蓄積して、繰り返し遊ぶゲームが人気でした。
門田:筐体もカードを使うものが多かったですね。
安藤:湾岸マキシのモックアップもあって、まだ旋盤で切られているのを見せていただいたりしたんですけど、『アイドルマスター』のプロデューサーの小山順一朗さんが、その時やっぱりカードを使って何かをつくるというお話をよくしていらしたんです。
中西:また懐かしいお話を(笑)。
安藤:カードを使うなら剣と魔法の世界とか、セガさんがやられていたスポーツ路線で行くのかなと思ったら、「いや全然違う」と。「これでアイドルだ、アイドルをやるんだ」と、アイドルマスターの原型の話をされたんです。カードを使って、女の子をアイドルに育てていくんだと。「すごいなこの人たちは!」と思いましたね。
中西:そんなことがあったんですね。
安藤:今、門田さんがおっしゃったまじめに不真面目、みたいなところは当時からありましたし、振り返れば寿命を測定するアーケードのサービス『余命検索サービス X-DAY』があったり、よく企画して商品化したなと思うものがバンダイナムコさんには必ずあった。そういった意味ではバンダイナムコゲームスイズムとして、楽しみながら攻めるというイメージや、気概をすごく感じますね。そういう土壌があるからこそ、ドリスピが生まれたんだと思います。
↑ドリスピのデータの元となった『リッジレーサー』は、1993年にアーケードに登場した、テクスチャマッピングを使用した3Dレースゲーム。1994年12月にはPSのローンチタイトルとして家庭用に移植され、さらに人気は拡大した。(c)BANDAI NAMCO Games Inc. |
※この対談は2015年2月に行なわれたものです。
■関連サイト
・ドリフトスピリッツ公式サイト
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