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スマホMMORPGのトレンドを生み出した『剣と魔法のログレス いにしえの女神』(前編):召喚★アプリ神

2015年01月10日 14時00分更新

 話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第7回は『剣と魔法のログレス いにしえの女神』の板倉基之さんと下川晶平さんを召喚!(前編中編後編

 なお、第8回のゲストはスクウェア・エニックス『乖離性ミリオンアーサー』のプロデューサー岩野弘明さん。追って掲載いたしますのでそちらもよろしくお願いします。

『剣と魔法のログレス ~いにしえの女神~』:召喚★アプリ神
↑マーベラス プロデューサー板倉基之氏(左)、Aiming プロデューサー下川晶平氏(中)、スクウェア・エニックス安藤武博氏(右)。

『剣と魔法のログレス いにしえの女神』

『剣と魔法のログレス ~いにしえの女神~』:召喚★アプリ神

■ MMORPGのトレンドを生み出した2人

安藤武博(以下、安藤):今回召喚させていただくのは、スマホの本格MMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Gameの略。多人数同時参加型オンラインRPG)、『剣と魔法のログレス いにしえの女神(以下、ログレス)』を手がけられた2社のお二人です。Aimingのプロデューサーの下川さんとマーベラスのプロデューサーの板倉さんですが、2社はどのような関係になるのでしょうか?

板倉基之(以下、板倉):ログレスは2社の共同事業で進めていまして、開発、運営、パブリッシング、広報等、基本的に両社で協議しながら進めています。

下川晶平(以下、下川):そのなかでも開発に関しては、私が担当させてもらっています。

安藤:ログレスは生き馬の目を抜くスマホゲームのなかでも安定したランキングに位置していて、まごうことなきヒット作だと思うんです。出自も他のゲームと一線を画していて、元々がPCブラウザーのMMORPGでそれが手のひらにやってきた。国産のゲームとしては独特ですよね。ブラウザーで人気だったログレスをスマホに持っていこうと企画されたのは板倉さんでしょうか、下川さんでしょうか?

板倉:第一声はAiming代表取締役の椎葉さんでした。

安藤:もちろん椎葉さんは存じています。古くは『RED STONE』、『ブラウザ三国志』や当社の『戦国IXA』も手がけられていますよね。

下川:PC版のログレスはフラッシュで動いていたので、ツールを使ってアプリ化するなどいろいろな話があったんですが、ここまできたらネイティブでつくり直そうと。デザインデータなどはそのまま持ってきているものもありますが、アプリ自体はほぼフルスクラッチでつくり直しています。

板倉:当初は、今ならPCブラウザー版をスマホに持っていけばイケるんじゃないかという比較的軽い気持ちでした。

安藤:そこを軽い気持ちでいけるというのが、お2人の強みですよね。今となってはログレスが受けましたし、中国でも当社が昔つくった『クロスゲート』というMMORPGをそのままタブレットにもっていったらすごく人気になったり、MMORPGをモバイルデバイスで動かすことが今年の大きなトレンドになりましたよね。

■ スマホへの移植は苦心の連続 リリース時の完成度は30%!?

安藤:MMORPGがモバイルデバイスで受け入れられた一方、スマートフォンに移行してまでこんなにコミュニケーションのコストがかかるようなゲームって受け入れられないんじゃないかという不安もあったと思うんです。お二人のなかでは、スマホでMMORPGを出すことに勝算はあったんでしょうか?


下川:ゲームのなかに友だちがいることでまた戻って来られますし、マメにインしたくなる状況をつくるのに最適なのはMMORPGだというところが芯としてありまして、そこは自信がありました。ただMMORPGって複雑ですよね。実際にスマホに落とし込むときに、MMORPGの操作性やルールをそのまま持ってくるだけではダメだと気づいたときは本当にしんどかったです(笑)。

安藤:どんなところがしんどかったですか?

下川:MMORPGではセオリーとして、ダメージや状態異常など戦闘の経過をログで出します。あとで読み返せるようにするためです。でもスマホのログレスでは快適性を優先して、ログを一切出さずに瞬間的に数値やプレイヤーの状態を表示する形に変更しました。そこまで簡略化するのは相当勇気がいりましたし、チーム内でも「本当に大丈夫なの?」という声がありましたが、スマートフォンでやるにあたって色々なところをカットしたり改変しました。

板倉:戦闘システムは二転三転して、かなりギリギリまで変更が入りました。先行体験(オープンβテスト)をやったときと現在では、まったく違うシステムになっています。

下川:当初はリアルタイムでコマンドを入れてずっと動かしている仕組みでしたが、今はほとんどオートで戦います。

安藤:PCゲームのずっとマウスを”カチカチ”クリックするところを、思い切ってスマホ向けにしたんですね。そこがログレスのすごいところ。僕は業界に長くいるのでログレスがMMORPGの構造をもったゲームだとわかりますが、それと知らずに遊んでいる方も多いと思いますし、あえてそのように見せるプロデュースをしていますよね。MMORPGではなく、剣と魔法の正統RPGといううち出し方をされている。その切り取り方が見事だと思うんです。

板倉:MMORPGやオンラインゲームという言葉を理解していただけるかどうかということと、敷居が高く感じられてしまう懸念があったんです。

下川:ゲームとしても、ファミコンで友だちと遊ぶ気軽な感じでありつつ、ネットワークを通じて何万もの人が遊ぶRPGにしたいというのがありました。

安藤:今風のその気軽さ、親しみやすさが、受け入れられている大きな理由かなと思います。

板倉:実際、初期のころはMMORPGと知らずに普通のRPGだと思って入ってくる人も多かったんです。レビューではソロで進めている方から「ボスが強すぎて倒せない、序盤で最強の武器を揃えないと詰むゲーム」と書かれたこともあります(笑)。

安藤:やっぱりそうなんですね。ほかのプレイヤーと共闘したり、コミュニケーションを取って進めるという経験がない人は、ソロで戦って進めるものだと思いこんでしまいますものね。配信からもうすぐ1年経ちますが、ログレスとは、MMORPGとはこういうものだと無意識に理解してコミュニティができるまで、少し時間がかかったと思うんです。でも、今やみんなが「この世界に仲間がいる」という思いをもって、しっかりとコミュニティも形成されて楽しまれている。ランキングもじわじわときた感じがありますよね。

板倉:スマホでMMORPGを遊ぶ人の数や市場がまったく未知数なので、最終的にどれだけの人が遊んでくださるかはわかりませんでしたが、MMORPGの楽しさは必ず伝わるはずと思っていましたし、遊んでいただけるとは思っていました。

下川:椎葉も言っていたんですけど、リリース当初は完成度30%で、戦ってアイテムがもらえるだけのMMORPGだったんです。ただ、チャットをしながら戦うという体験をしたことがない人にとっては相当刺激的な遊びになるので、とりあえず出してしまおうと。後から追いかけてコンテンツをつくりつつ運営もやりつつで、多くの人に遊んでいただけたのかなと思います。

安藤:僕も10年ぐらい前にPCでMMORPGをつくりましたが、プレイヤーどうしのチャット自体が大きなコンテンツになりえますよね。3割の完成度でもコミュニケーション要素が強いことで、いい意味で間が持つわけですけど、逆にそれで間がもつから3割の完成度でも始めようという判断ができるのは、今までのノウハウや確信があったからだと思います。下川さんや板倉さん、椎葉さんのようなネットワークゲームのスペシャリストならではのことですね。

『剣と魔法のログレス ~いにしえの女神~』:召喚★アプリ神
↑「これをやらなければ意味がない」と下川氏が語った戦闘中のチャット。こうして見るとよくありそうなMMOだが、技術的難度は相当高く、それをさらっとやってのけてしまうところにログレスのすごさがある。

■ 安藤氏も憧れた戦闘中のチャットはAimingのエンジニアが実現

安藤:ログレスの特徴的なところは、フィールドでも戦闘中でもチャットでほかのユーザーと会話ができることです。PCでは当たり前ですが、スマホでは今までになかった。技術的に難しいからなんですが、ログレスではあっさりと実現していますよね。Aimingさんには優秀なエンジニアが集まっているというイメージがすごく強いんですけど、やはりその力が大きいんでしょうか。

下川:以前からMMORPGをやっていたこともありまして、サーバーのエンジニアさんに「“LINE”をつくってください」とお願いをしました。

安藤:すごいですね。僕も以前から戦闘中のチャットをやってみたいと思っていたんですが、「まだ無理!」といわれていたんです。でもログレスが出たときに「ほらできるやん!」という感じでした。

下川:ログレスにとって、これがないと正直つくっても意味がないというレベルだったので、社内でも議論を重ねて何とか落ち着けることができました。

板倉:最初に戦闘システムを変えたのもチャットのためでした。戦闘の操作をしていると、チャットをしているヒマがなかったんです。

安藤:技術的にもシステム的にも快挙だと思いますし、しかもそういった裏の苦労を感じさせないのもAimingさんのすごさだと思います。

※記事の内容は2014年11月26日のものです。

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