話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』。週刊アスキー本誌で掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。
第5回目のゲストはこの人、アカツキ『サウザンドメモリーズ』の共同創業者 代表取締役CEO、塩田元規さんです。(前編、中編、後編)
なお、第6回のゲストはコロプラ『白猫プロジェクト』の浅井大樹さんと角田亮二さん。このインタビューを読んで気になっていただけた方は、10月28日発売の週刊アスキーをチェックしてみてくださいね。
↑共同創業者 代表取締役CEO 塩田元規氏 |
■ “ディスカッション”こそアカツキの最大の武器
安藤:この連載でも、過去にスマホのゲームにおける二律背反について語り合ったことがありました。たとえばRPGだと、ストーリーをガッツリ入れるとテンポが損なわれる。でもストーリーがないと語り継がれるRPGにならない。そういうときは、経験豊富なスーパークリエイターがしたたかな構造設計を発明して解決したりするんですけど、塩田さんたちは初めてネイティブに挑戦したこともあって、そこまでやるのは難しいと思うんです。でも結果的にうまいバランスで二律背反するものが収まっている。それをなしえた秘訣はなんでしょうか。
塩田:気合でしょうか(笑)。ただゲームづくりって人間の本質まで考えるじゃないですか。何に感動して何を面白いと思うのか、そこをくだらないぐらいディスカッションし続ける文化が僕らにはあるんです。
安藤:かなり話し合われるんですか?
塩田:話し合いますね。僕らはひとりの天才が生むものよりも、みんなとのディスカッションから生まれるものを信じる会社なんです。たとえば千メモも同じプロデューサーだけがずっとやっていたら、かなり重いゲームになったと思います。そこに僕が入ってガチンコで戦いながら、人間とはなんぞやとか、スマホってこうだよねとか話しながら形にしていったんです。
安藤:この会社哲学の小冊子も、人間とはなんぞやというところから入りますものね。何かを深く考えたり、意見を交換し合うのが好きなんですね。
塩田:好きですね。何のために生まれて何をして生きるか、何を見てどういうときに感動するのかとか。
安藤:ちなみにそういうディスカッションは、いきなり始まるものなんですか? 時間を決めて集まって始めるんですか?
塩田:いきなり始まることもあります。企画ミーティングを1時間しか取っていなかったのに、終わってみたら4時間やっていたということも結構あります。特に夜はずっと話し込んだりします。
安藤:アカツキさんのオフィスは、ゲーム会社としては珍しく土足禁止ですよね。土足禁止の会社に行くと、週末にお金持ちの友だちの家に遊びに行って、そいつの家にたくさんあるファミコンのカセットを遊ばせてもらう、そんな気分になるんですよ。靴を履いていないことや、照明がちょうど落ち着くくらいのほどよい明るさも、お金持ちの友だちの家を思い出させる雰囲気ですしね。そのあたりもディスカッションが盛り上がる秘訣でしょうか。
塩田:そうだと思います。オフィスは全部意図的に設計していて、基本的に裸足だと喧嘩にならないんですよ。言いたいことは言えるけどイライラすることがないんです。リラックスしてディスカッションできるようにミーティングルームにアロマを炊いたりしますし、2階の入り口のそばにコミニュケーションスペースがあるじゃないですか。あそこは通るときに、必ずすれ違って会話するような構造になっているんです。
安藤:なるほど、導線がちゃんと考えられているんですね。いろいろギャップを感じる中で、ひもといていくと、この会社には必ず狙いがあったり明確なゴールがある。意識的に二律背反をどうやって着地するかに挑んでいるからだと思いましたが、基本はディスカッションなどのコミュニケーションなんですね。ここを大切にしながら全員で矛盾や難題に立ち向かっている。そこがアカツキさんのよさであり、強さなのかもしれないですね。
↑入り口からコミュニティースペースを撮影。左右に伸びる色の違う床をたどるとそれぞれオフィスへと行き着く。対談にもあるとおり、人が交差し、会話が交差する空間となっている。 |
■ 千メモの気になるところあれこれ放談!
安藤:今回の対談は、全般的に二律背反みたいなものがテーマのような気がします。千メモも入り口は入りやすいけど中身は骨太で、リターナーを成長させたり武器をセッティングするシステムは結構マニアックですよね。
塩田:そうですね。
安藤:ライトな人は恐らくやらないような複雑な仕様も入っていて、そこも二律背反するんですがきちんと成立している。本当によくできたバランスだと思います。
塩田:ありがとうございます。武器のシステムは、出した後にいろいろ振り返ったんです。「これは入れたい!」という意志で入れたんですが、ユーザーさんによってはなじめなくて離脱する人もいるでしょうし。
安藤:そうかもしれないですね。
塩田:とはいえそれがないとシンプルになり過ぎてしまう。パズドラの模倣アプリをつくりたいわけではないので、今までにない新しいものを入れたいと常に思っています。
安藤:わかります。強い意志でつくったんだろうなと思いながら遊びました。
塩田:「カードゲームはもういいや」と言いたかったのもありますし、やっぱりそこは変えていきたいところですね。
安藤:千メモがリリースされた当初、中身を遊ぶ前は多くの人が「結局これカードゲームだろ」と思ったはずです。でもやってみると「これは違う」となる。しかもこちらの想像の上を行くほど違う。そこがすごく新鮮だったんですよね。システムの取捨選択も「おっ」と思うような面白いところがあって、たとえばストーリーはじっくり読むこともできますが、どんどん飛ばせるようにもなっている。オープニングムービーも同じです。僕らの『拡散性ミリオンアーサー』も千メモと同じように、チュートリアルの後に1分ぐらいのムービーが始まるんですけど、千メモのムービーはスキップしてしまうと2度と見られない。
塩田:そうなんです。まさにそこも議論を戦わせたところでした。
安藤:ムービーもクリエイターの力量のみせどころですから、ミリオンアーサーではオプションでいつでも見られるようにしてあるんですけど、千メモは間違って飛ばすともう見られない。きちんとつくられていて主題歌もあるのに、そこまで思い切れるところもすごく面白い。
塩田:いつでも見られるようにしたいんですけど、それって運営のエゴかなとも思いますし、「そこに工数をかけるのだったら他のことをやった方がいい」という結論になって今の形になりました。
安藤:確かに、意外に工数がかかるしムービーを入れるとクライアントが重くなりますよね。ブラウザ系のものをつくってきた塩田さんにとっては、ダウンロードの時間も気になっているんじゃないですか? 千メモはチュートリアルが終わると長いダウンロードを要求されますよね。塩田さんにとってすごいストレスだと思うんですけど。
塩田:はい、そうですね。ボイスを入れたので結構重くなってしまって、待っている時間に何してもらうかという課題認識は今でもあるんですよ。ウェブ系をやっていると、ダウンロードのために待つこと自体が新しい感覚なんです。待ってくれるユーザーがどれだけいるのか、いつも考えています。
安藤:主要なキャラクターの紹介とか、タップするとトトが「焦らず待つニャ!」としゃべるとか、ひと通りのおもてなしはありますが、他に何かできると思いますか?
塩田:すごく解りやすくていいなと思うのは、『ワンピース トレジャークルーズ』の手法です。長いダウンロードの何が問題かと言えば、待っている間に放置しているとスリープしてしまうことです。画面を触るきっかけをつくらないといけないわけですが、ミニゲームを入れるのはすごくいいと思いますね。
安藤:プレイステーション1の名作レースゲーム『リッジレーサー』を、ふと思い出しました。当時最先端のゲームなんですけど、CD-ROMが主要メディアになるはしりの頃だったので、マスクROMのゲームに比べるとかなり読み込み時間が長い。そこでロード画面で『ギャラクシアン』が始まって、敵キャラを全部倒すと隠しマシンが出てきたりするんですよ。
塩田:そうなんですね。
安藤:ロードのストレスを軽減すると同時に、実はやり込み要素や裏技が仕込まれている。やっぱりゲーム屋はそのぐらいのおもてなしを考えないといけないし、スマホでもやらないといけないなと思うんです。ダウンロード中にファミコンクラスのゲームを遊べるようにできないかなとか、『メイド イン ワリオ』みたいなものを入れられないかなとか。かつ、そのプレイの結果がゲームの本編をより楽しくするデザインにできたらいいですよね。先輩たちは20年も前にそれを実現しているので、負けていられないなと思います。
塩田:そうですよね。ミニゲームの難易度とか、早くダウンロードしてほしいけどリセマラはしてほしくないとか(笑)、いろいろ難しい部分もありますし、まさに今、そこを議論しているところですね。
↑スクウェア・エニックス安藤武博氏 |
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