“VAIO株式会社”が7月1日、いよいよ事業を開始しました。
ソニーから日本産業パートナーズへのVAIO事業の売却の結果、240名体制のVAIO新会社が発足。長野県安曇野を本社とし、国内向けにVAIOシリーズのPCを展開していくことになります。
果たしてVAIO新会社はどのような方向性で事業を展開するのか、以前の予想記事を振り返りつつ、検証してみたいと思います。
■キャッチコピーと新製品に少しのギャップ
VAIO株式会社の事業開始とともに、新会社における第1弾のPC製品として『VAIO Pro 11』、『VAIO Pro 13』、『VAIO Fit 15E』が発表されました。いずれもソニー時代にオンラインでの販売が好調だったモデルとのことですが、これについて疑問の声も上がっています。
↑VAIO株式会社による新しい『VAIO Pro 13』。 |
新設したWebサイトであるVAIO.comや、新聞広告で訴えた「自由だ。変えよう。」のメッセージの割に、変わっていないのではないか、という指摘です。たしかにVAIO株式会社は「PCにはびこる固定観念を変える」とまで言っておきながら、ソニー時代のVAIOをベースとしたモデルを発表し、今後もソニーストアで販売するなど、大きく変わっていないように見受けられます。目に見える違いといえば、VAIO本体からソニーロゴがなくなったことぐらいかもしれません。
↑VAIO株式会社の製品として、今後もソニーストアで販売される。一般ユーザーから見れば、ソニー製品とほとんど見分けがつかないだろう。 |
↑PC本体から消えたソニーロゴ。 |
特に、最近のVAIOシリーズの中でも花形といえる『VAIO Duo 13』や『VAIO Tap 11』の新モデルが用意されなかった点、そしてVAIO Fit 15Eは、メインストリームに2in1を持ち込むという試みが話題となったVAIO Fit Aシリーズではなく、オーソドックスなクラムシェル型であるEシリーズとなっています。
これはVAIO新会社に、VAIOらしい“尖った新モデル”を期待していたユーザーにとって、肩すかしを食らったような気分になったかもしれません。
ただ、このようなVAIO株式会社のアプローチは、理にかなっている部分があると筆者は考えています。それはVAIO株式会社が法人市場に力を入れ始めた、という点に現れています。
ハードウエア面では、ソニー製品との連携に必要だったNFCを廃止。本体カラーはブラックのみになりました。ソニー製のプリインストールアプリも姿を消し、プレーンな状態のWindows PCとして出荷されるようです。
さらにマイクロソフトがWindows 8をプッシュする中、Windows 7モデルもしっかりラインアップ。最薄部11.8mm、重さ770gのタッチ非対応モデルも残っています。いずれも、PC出荷が好調な法人市場を意識したアプローチです。
↑Windows 7モデルも継続。法人市場におけるWindows 7の比率は7~8割を占めているとの情報も。 |
■まずはPCが売れている法人市場に注力
VAIO株式会社の関取高行社長は「PCは、なくならない」と主張します。「メールのやりとりなど、簡単な用途はスマホやタブレットでこなせる。しかし真剣に向き合う作業や、何かを作り出す作業ではPCが必要」と語り、PCの重要性を訴えています。
↑スマホやタブレットの時代でもPCはなくならない、と主張する関取社長。 |
この主張には筆者も同意しますが、まさにこれこそが、コンシューマー市場でPCの売れ行きが落ちている理由でもあります。PCに向かって真剣に作業するのは、多くの人にとって会社の中だけで十分ではないでしょうか。自宅ではスマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンで事足りてしまうという人も少なくないでしょう。
たしかに、圧倒的に魅力的なPCが登場すれば、コンシューマー向けに売れる可能性はあります。売れるかもしれないし、売れないかもしれません。しかしVAIO株式会社は、確実に事業を軌道に乗せる必要があります。まずは自社開発ではないODMモデルを積極的に活用し、法人向け市場において安定した収益基盤を確保した上で、よりVAIOらしい尖ったモデルの開発を進めていく。そういう二段構えになっているというわけです。
■VAIOの価格はまだ高い?
このようにVAIO新会社は、これまで個人ユーザー向けという印象の強かったVAIOのイメージを変え、法人向けの質実剛健なブランドに、ひとまず方向転換したように感じられます。
第1弾のモデルは法人市場を意識して細かくアップデートされているものの、まだ十分とはいえません。有線LANはVAIO Fit 15Eのみ、アナログRGBやセキュリティケーブル用スロットなど、法人需要の高い機能はこれから検討していくとのコメントにとどまっています。
価格面でも決して安くはありません。、ハイエンドモバイル機のVAIO Proはともかく、15インチのA4ノートであるVAIO Fit 15Eでも、最小構成は10万円(税抜)となっています。これに対して、レノボのThinkPadを同等のスペックにカスタマイズしてみたところ、7万円強となりました。
↑最も安いVAIO Fit 15Eの最小構成でも10万円から、となっている。 |
確かにVAIOは、ODM品を含む全モデルを安曇野で品質チェックする“安曇野FINISH”により、品質の面で優れているかもしれません。しかしこの3万円の差額を、法人ユーザーに納得させることができるでしょうか。また、損金として計上が可能で、社内での決裁も容易な10万円未満のモデルがないという点も疑問を覚えるところです。
↑安曇野FINISHによって高い品質が保たれるとはいえ、やや高すぎるきらいはある。 |
■大きな変化が予想されるPC市場にも、柔軟な対応ができる
今後、VAIO DuoやVAIO Tapといったモデルが続々と登場する可能性はないのでしょうか? 執行役員副社長の赤羽良介氏は、「そういったモデルを次々に出していたのでは、以前と同じになってしまう。絞り込んでいくことが重要」と、慎重な姿勢を見せています。ただ、VAIO株式会社の開発による新モデルとしては「今年度中には、なんとか」とコメントしているように、何らかの新モデルを準備していることは間違いないようです。
Windows 8以降、Windowsを取り巻く環境は大きく動いています。ソニー時代のVAIOを含め、タッチ操作を意識した新しいPCが続々登場したかと思えば、まだまだ法人向けにはWindows 7の人気が高いというのが現実です。
それでは今後もWindows 7に注力すべきかといえば、それも微妙になってきました。低価格デバイス向けのWindows 8.1 with BingはOSのライセンス料が大幅に下がりました。すでにエプソンダイレクトはWindows 8.1 with Bing搭載モデルのPCを発表し、Windows 7モデルより7000円も安いという、衝撃的な価格設定となっています。その一方で、次期Windowsはデスクトップ利用を大幅に改善する方向に進む、との見方も出ています。
VAIO株式会社では、ソニー時代に1000名以上だった部門が240名体制にまで縮小することで、時代の変化にも柔軟に対応できるとしています。既存のPCメーカーが規模の経済を追求してきた中、PCのトレンドが二転三転するなどスピード感が求められる時代にどう立ち向かっていくか。VAIO株式会社は、非常におもしろい存在になりそうです。
■関連サイト
VAIO
山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ
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