4月25日、26日に『ニコニコ超会議3』の参加者を大阪から運ぶ『ニコニコ超会議号』が今年も運行された。今年で3回目の同列車では、毎年車内で参加者が個性あふれる楽しみ方を行っている。今年も前年以上の盛り上がりをみせたので、その様子をレポートする。
■今年のニコニコ超会議号はどうだった?
『ニコニコ超会議号』は、毎年ブルートレインに使われる24系寝台客車を貸し切り、ニコニコ超会議の前日25日に大阪駅を発車、1日目26日の昼前に上野駅に到着する列車だ。今年は定員120名のチケットがわずか8分で売り切れるという人気っぷりをみせた(チケットの価格は超会議3のチケット付きで2万8800円〜)。
とはいえ、今年の超会議号は運行までに相当な紆余曲折があったらしく、一度はJRから運行できないと言われてしまい断念する直前だったという。本ツアーを運営する日本旅行社の方に伺ったところ、どうやらJRはこの期間に24系寝台客車を別な用途に使うつもりだったようだ。24系寝台客車は1990年代には全国の寝台特急で使われていたが、その後の寝台特急の廃止に伴って車両数が激減しており、チャーターするのが年を追う毎に困難になってきている。しかし、超鉄道エリア プロデューサーの向谷実氏の粘り強いアプローチにより、2014年の年明けにようやく運行が決定した。
運行したルートは今年も前回と同様で大阪から京都、滋賀と北上し日本海沿いに石川県 金沢駅など北陸地方を通過。新潟県 長岡駅からは谷川岳を貫く上越線で南下し、群馬県 高崎駅から一気に東京まで走り抜ける。大阪駅〜東京駅と言えば、東海道本線を通るルートが一般的だが、現在の東海道本線では客車寝台列車が全廃されてしまい、24系客車を運用できないため、このような北陸周りのルートが採られている。
↑走行するルートは東海道本線(大阪~山科)、湖西線(山科~近江塩津)、北陸本線(近江塩津~直江津)、信越本線(直江津~長岡)、上越線(宮内~高崎)、高崎線(高崎~大宮)、東北本線(大宮~上野)。
なお、今年は前年よりも大阪駅の発車が約1時間遅い20時26分となった。大阪駅の入線時間に関しては臨時列車の情報が掲載される『鉄道ダイヤ情報誌』にも掲載がなかったにも関わらず、発車する11番線の前方はホームはファンで鈴なりとなり、向谷氏も機関車前での撮影を断念したほどだった。列車は定刻通り運行され10時41分に上野駅に到着。主要駅のダイヤと列車番号は以下の通り。京都駅で数名の参加者を乗せ、水上駅で記念撮影タイムを行ったものの、他の駅の停車は機関車交換や乗務員の交代、後続の列車を先に通す運転停車だ。
列車番号:9513レ
大阪駅 11番線 20時17分入線 20時26分発 機関車はEF81 106号機
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京都駅 0番線 20時57分着 21時00分発
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敦賀駅 2番線 22時52分着 23時20分発 機関車をEF81 138号機に交換
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金沢駅 翌0時54分着 0時56分発
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直江津駅 2番線 3時3分着 3時9分発
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長岡駅 3番線 4時12分着 4時49分発 機関車をEF64 1030号機に交換
ここからは方向転換し列車番号が9716レに変更
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水上駅 3番線 7時00分着 7時20分発
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高崎駅 7番線 8時25分着 8時35分発
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上野駅 14番線 10時41分着 11時頃回送が発車
※この後は尾久車両センターにいったん回送後、青森車両センターまで回送。
また、ニコニコ超会議号として走行した編成は以下の通り。
1号車:オハネフ24 27(白帯)
2号車:オハネ25 147(金帯)
3号車:オハネ24 20(白帯)
4号車:オハネ24 51(白帯)
5号車:オハネフ25 202(金帯)
電源車:カニ24 23(白帯)
さらにけん引した機関車は以下。
大阪駅〜敦賀駅:EF81 106号機(ローズピンク)
敦賀駅〜長岡駅:EF81 138号機(JR東日本塗装)
長岡駅〜上野駅:EF64 1030号機
24系寝台客車ブルーの車体が基本だが製造された時期や使用した列車によって、2本の白い帯や、2本の銀色の帯、3本の金色の帯が引かれている。今回使用された車輌は、青森車両センター所属で3月14日に定期列車の運用が終了した寝台特急『あけぼの』や2012年に同様に運用終了した寝台特急『日本海』などに使われていた。特に5号車のオハネ25 202は寝台特急『あけぼの』の下り定期運用最終列車に組み込まれていたもの。また4号車のオハネ24 51は同じく上りの『あけぼの』の定期運用最終列車に使用されていた。向谷氏はじめ、複数回参加している参加者のほとんどが“今年は前年よりも乗り心地が良い”と語っており、最近まで定期運用の寝台特急に使われていた比較的整備状態の良い車輌が当てられたようだ。ちなみに、1号車はオハネフ24 27はオハネフ24形式のラストナンバーとして27番目として1973年に製造された車輌で車齢としては41年を迎える。製造時は大阪鉄道管理局向日町運転所に配属、その後は一度品川へと配置されたが1977年より青森・秋田地区でずっと活躍していた車輌だ。このオハネフ24 27のような青森・秋田地区の車掌室付きの車輌は、豪雪地帯を走るため他の同型式のものと異なり雨樋が張り出していたり、車掌室の窓を小さく改造してあるのが外見的な特徴だ。5号車オハネフ25 202も同様で原形と比べると車掌室の窓が小型化されている。
けん引した機関車に関しては、JR西日本敦賀地域鉄道部所属のEF81 106号機が寝台特急『日本海』の上り定期運用最終列車に使用、JR東日本青森車両センター所属のEF81 138号機が『あけぼの』の下り定期運用最終列車をけん引と歴史的な列車に使われたものが担当した。EF64 1030号機も寝台特急『北陸』や『あけぼの』を数多くけん引。さらに特徴的な電車と客車のどちらも連結できる双頭連結器を装備しているため、首都圏で活躍する数多くの新造された電車を新潟県新津にある工場から運んできたコウノトリのような存在だ。ただ、長野の廃車工場へと運用が終わった電車を運ぶ事も多いため別名“死神”とも呼ばれている。いずれにしろ、日本の鉄道史を影で支えた機関車のひとつと言える。
■今年はブルトレだけではなく、路面電車やバスまで車内で走っていた
ニコニコ超会議号は移動手段というよりも、もはやそれ自体がニコニコ超会議に連動したイベントだ。1回目から車内では参加者達が思い思いの楽しみ方をしている。その中でも毎年語られるのが“カオス5号車”こと5号車の乗客達が展開するイベントだ。実は第1回目の超会議号の5号車にたまたま集まったメンバーたちが鉄道友の会ならぬ“5号車友の会”を結成。ほぼ組織的に様々なネタを仕込んできている。今年も彼らは期待以上に面白くしてくれたので紹介する。
今年は毎年恒例の鉄道模型“Nゲージ”のレイアウトがさらにパワーアップ。今年はNゲージの路面電車や同スケールのバスまで走っていた。これらはトミーテック TOMIXブランドが販売するワイドトラムレールと同社の“鉄道コレクション”や“ザ・バスコレクション”を組み合わせたもので、総額の費用は10万円前後掛けているという。ベッドいっぱいに敷設された引き込み線つきの複雑な線路と道路の配置は正直いって脱帽もの。
1回目の超会議号から走っているNゲージのレイアウトはなんと前年比1.5倍の線路数。向かい合わせの下段寝台を繋いだ線路の構成は、向谷氏は「もはや鉄道博物館がここにある」と語っていた。もちろん、ブルートレインの中でブルートレインの模型列車を走らせる恒例行事も健在。前年同様にスマホ用モバイルバッテリーを改造してコンセントを使わずに鉄道模型を見事に走らせていた。
また、4月18日放送の向谷氏のニコ生『向谷倶楽部』に出演した京浜急行 広報課飯島氏より託された“京浜急行のブルートレイン”こと青い塗装の京急600形 KEIKYU BLUE SKY TRAIN(グリーンマックス製)も走行。JRと京急の夢の共演(?)も実現した。
ユニークな鉄道ネタを展開するミュージシャン“スーパーベルズの車掌DJ”野月氏は、自身が作ったオリジナルグッズの“日本鉄道党選挙カー”の模型を走らせていた。ただ、路面線路のカーブがキツすぎて立ち往生してしまう場面も。自身も鉄道模型ファンである野月氏によると、この路面電車のプランは線路が安定して敷け車輌も走らせやすいので寝台で走らせるには最適だと語っていた。
なお、5号車の入り口のデッキ部分にはこんな張り紙も。もはや寝台車というよりは、どこかの大学の鉄道研究会の部室といった感じだ。
Nゲージだけではなく、プラレールが走るのもニコニコ超会議号では恒例行事と言っていいだろう。参加者に伺ったところ、鉄道ファンはもちろん多く、毎年乗っているという参加者も何人も見かけた。また、どうしても乗りたくてようやく今年乗れたと喜んでいる方や楽しそうな雰囲気が好きで乗ったという女性、このためにわざわざ出張を作ってその帰りに乗ったという会社員などもいて、様々な人々がぞれぞれのやり方でこの列車を楽しんでいた。
向谷氏と音楽館(向谷氏の経営する会社)の横尾真梨子氏、野月氏とスーパーベルズのメンバーは3時間近くかけて客席をひとつずつ丁寧に回って参加者との交流を深めていた。なお、今年は乗車記念として、向谷氏の顔をあしらった“ミノル飴”が配られた。毎年、酒盛りをするグループが複数あるため、客席をまわるたびに少しずつ向谷氏が酔っ払っていくのが毎年の光景だが、中にはキーボードを持ち込んだ参加者もおり、向谷氏はおもわず本職のミュージシャンとしての一面も見せた。
他にも行き先方向幕や模型など様々なグッズが並ぶのも超会議号ならではといったところ。一般参加者は2〜5号車に乗車していたが、数字が上がるにつれて“カオス”な雰囲気は上がっていく。なお、日本旅行社の方に伺ったところ、今回のツアー申し込み時にコメント欄で「5号車に配置して欲しい」と要望があった参加者については優先的に座席を5号車にしたという。通常では、団体ツアーは座席指定出来ない事が多いが、超会議号の雰囲気を大切にしようという粋な心遣いが感じられる配慮だ。
■5号車友の会の底力!? WiFi基地局が開設
今年の5号車の注目すべき点はこれだけではない、なんとニコ生用に強力なWiFiの基地局が開設されていた。
無造作に置かれたタブレットとWiFiルーター、よく見るとASUSのWindows8タブレット『VivoTab Note 8』とWiMAX2+対応の『Wi-Fi WALKER WiMAX2+ HWD14』とNECアクセステクニカ『AtermMR03LN』だ。5号車友の会ネットワーク担当の豚メロン氏に伺ったところ、なんとこの2台のWiFiルーターの回線を束ね、タブレット端末をWiFiルーターにして車内にWiFi環境を提供しているとのこと。列車の車内では、どうしてもネットワーク環境が不安定になりがちだが、帯域の広いWiMAX2+とドコモが回線を再販し山間部でも比較的接続しやすいIIJmioの回線を併用することで、より早く途切れにくい回線を確保しようというものだ。実際に5号車友の会のニコ生はトンネル部や山間部を除いて、比較的安定して配信されていたがその裏にはこうした設備があったのだ。
仕組みとしては『VivoTab Note 8』に仮想化ソフトVMWareを2つ入れ、それぞれにWiFiルーターを接続してWindows 8とネットワークを仮想接続することで、2つの回線を1本化していた。構築した豚メロン氏によると、実は3回線の1本化に対応したシステムだったが、WiFiルーターが1個別に使われていたので、今は2本だけだとのこと。また、スマホで構築したWiFiアクセスポイントのトラフィックを見られるシステムも構築していた。こうしたシステムを構築できる“5号車友の会”は技術力でも侮れない組織になっている。
■鉄道ファンと“艦これ”提督との意外な関係
今年のニコニコ超会議号で印象的だったのが、萌え系のネタは毎年あるものの、“艦これ”ネタがいくつか見られたことだ。夜行快速“ムーンライトながら”と軽巡洋艦長良をかけたり、艦これに出てくる帰国子女 金剛のセリフやそれに関連した方向幕などが見られた。
参加者たちに伺ったところ、鉄道も好きだが、艦これも好きな提督たちが多かったようだ。確かに筆者も鉄道好きで艦これもやっているので、気持ちはよく分かる。男子にとって鉄道も軍艦もカッコイイ憧れを抱くものなのだ。
■早朝の長岡駅に“撮り鉄”が集結!静かで激アツなドラマを見せた機関車交換
ニコニコ超会議号の見所のひとつは長岡駅で行われる機関車交換と方向転換だ。これは大阪方面から来たニコニコ超会議号が上越線に入り上野を目指すためには機関車を編成の5号車側から1号車側に付け替える必要があるため行われる。長岡駅には前年とほぼ同じ4時12分に3番線に到着。前年よりも駅が開く時間が早かったためか、4番線5番線ホームには超会議号を撮るため、早朝にも関わらず20人近い鉄道ファンが詰めかけた。編成の先頭と最後尾を撮るために、ホームをカメラを担いで急ぐ撮影車もちらほら。今年は車内からは参加者2名と野月氏、スーパーベルズのメンバー3名が連結シーンを見学。機関車が連結されると見学者たちは静かな興奮に包まれた。
前年は同じEF81 138号機を前から後ろに付け替えたが、今年はEF64に機関車が変更された。そのため、長岡までけん引してきたEF81が4番線を通って長岡車両センター方面に回送されたあと、EF64 1030号機が尾灯を片側だけ点灯しつつ接近し連結された。このようにEF81とEF64が前後に交換される光景は長岡駅で見られるのは2010年に廃止された寝台特急北陸を彷彿とさせる。
■水上駅で記念撮影
7時ちょうど、ニコニコ超会議号は水上駅に到着。20分の運転停車でここで前年同様に記念撮影タイムとなった。外側から見ると、実に様々なものが窓に貼ってあったのがわかる。これも超会議号ならではの光景と言えるだろう。また、高崎駅からは前年同様にデゴイチ弁当が積み込まれ、参加者たちの朝食となった。なお、向谷氏は超鉄道エリアの準備のためにここで下車。
■ニコニコ超会議2015が開催決定! 超会議号はどうなる?
そして、10時41分、ニコニコ超会議号は定刻通り上野駅14番線に到着。ここでも詰めかけた100人近い鉄道ファンが撮影していた。参加者たちはバスでニコニコ超会議の会場まで向かった。
今年は無事に24系客車で運行できたニコニコ超会議号だったが、来年は24系ブルートレインで運行できない可能性もあるという。事実、ここ数年は毎年3月に寝台特急が廃止されており、上越線経由としては最後の寝台特急だった『あけぼの』も今年3月に廃止されてしまった。定期列車があればこそ、その設備や人員を活用してこのような臨時列車ができるのだが、定期列車が廃しされてしまうと、その用意には手間と予算が掛かるため運行は難しくなってくる。また、定期列車が廃止されると、車両も廃車になるのでニコニコ超会議号に使える24系寝台客車もさらに減ってしまう。ニコニコ超会議2015の開催は決定されたが、超会議号は今までのスタイルで運行できるかは、JRの今後の方針次第といったところだろう。とはいえ、今回のニコニコ超会議号の車輌を所有しているJR東日本は、人気のあるSLを次々に復活させて各地で運行している。そのため、臨時列車として人気のある車輌は同じように残してくれる可能性がある。従ってまだ来年も24系が使える可能性はあるだろう。ぜひ来年も今年同様にブルートレインのニコニコ超会議号を運行して欲しいところだ。
■関連サイト
・ニコニコ超会議3 公式サイト
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