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Windows情報局ななふぉ出張所

Tizenスマホは“ギーク”向けに出すべきだった?

2014年01月29日 17時00分更新

 NTTドコモがTizenを搭載したスマートフォンの発売を延期したことが、1月16日に話題となりました。

 本来であれば、NTTドコモの2013年冬モデルとして発表が期待されていたTizenですが、発表会にその姿はありません。とはいえ端末の開発は続いており、2014年の早い時期にリリースされるものという見方が有力となっていました。

Tizenスマホはギーク向けに出すべきだった?
↑NTTドコモは日本におけるTizen OSの旗振り役だったはずだが……。

 果たしてTizenはどうして延期になったのか、改めて振り返ってみましょう。

■発表を目前にしていたTizenスマートフォン

 NTTドコモから“Tizen OS搭載スマートフォンについて”というタイトルのメールが送られてきたのは、同日1月16日のこと。これは一般的なプレスリリースという形式ではないものの、報道関係者向けに一斉送信されたものと思われます。このメールでは、Tizenスマートフォンについて“2013年度内の導入を目指していた”ことを明らかにしつつ、“モバイル市場を取り巻く環境の変化に鑑み、導入を当面見送る”として、発売を延期することに言及しています。

 ドコモによるTizen端末の開発スケジュールが全体的に押してはいたようですが、2013年末には製品版に近い水準に仕上がっていたものとみられます。このことから、少なくとも年明け、遅くとも2月のMobile World Congressにおいて、正式発表されるものと筆者は予想していました。しかし1月中旬、その正式発表を目前にして、発売が延期されたということになります。

Tizenスマホはギーク向けに出すべきだった?
↑2013年10月、Tizenについて語るNTTドコモ プロダクト部技術企画担当部長の杉村領一氏。Tizen AssociationのChairmanも兼任する。

 たしかにドコモは“2013年度中の導入を見送った”としか説明していないため、2014年4月以降、何事もなかったかのように復活を遂げ、端末ラインアップに加わる可能性は残されています。しかし短いメールとはいえ、報道関係者向けにあえて文書で通達するということは、かなり深刻なレベルで延期に至ったものと見る関係者が多いのも事実です。

■Tizenはスマホだけではないが……

 以前にも本連載でレポート(関連サイト)した、インテルによるイベントなどにおいて語られてきたように、Tizenはスマートフォン専用のOSというわけではありません。スマートフォンと並行して開発が進んでいるものとして、車載用の“Tizen IVI”があります。さらに今後は、テレビ、デジタルカメラ、プリンターといったデバイスや、冷蔵庫などの白物家電向けの実装も提供される予定となっていました。このようなマルチデバイス展開は、2014年第2四半期にリリース予定の“Tizen 3.0”における目玉機能とされていました。

Tizenスマホはギーク向けに出すべきだった?
↑車載用のTizen IVI。カーナビやカーオーディオなど車内のシステムを簡単にクラウドサービスなどと連携できるようにするのが狙い。

 また、NTTドコモによるTizen延期の発表後も、インテルはその姿勢を変えていません。Tizenはオープンソースプロジェクトであり、インテルは独自のポジションにおいて、パートナー各社に向けたTizenへの取り組みを継続していくとしています。そして、今回の騒動のきっかけを作ったNTTドコモでさえ、“Tizen Associationのメンバーとして、Tizen OSの普及に向けて取り組んでいく”と付け加えています。

 実際、NTTドコモがTizenを延期するかどうかに関わらず、2月のMWC2014ではTizenが大きな話題のひとつになるでしょう。Tizen Associationはホール8.1に大型のブースを出展する予定(関連サイト)となっており、Orangeや韓国キャリアのTizen端末が並ぶことになると予想されます。

Tizenスマホはギーク向けに出すべきだった?
↑MWC2014のフロアプランより。ホール8.1にTizen Associationのブースが確認できる。

 とはいえ、Tizen OSの旗振り役として先頭に立っていたNTTドコモがあっさり降りたことは、さまざまな影響を及ぼしそうです。スマートフォン向けのTizenアプリに取り組んでいたパートナーにとっては、ハシゴを外された格好となりますし、様子見を決め込んでいたパートナーにとっても、新しいプラットフォームに早期参入するリスクを実感したことでしょう。

 これはFirefox OSやWindows Phoneなど、これから日本市場の攻略を目論むプラットフォームにとっても“いい迷惑”です。実際、Firefox OSの開発を進めるKDDI関係者も、「うちはNTTドコモとは違う視点からFirefoxに取り組んでいる。第3のOSとしてひとくくりにされるのは迷惑」と漏らしています。

■KDDIによるFirefox OSのアプローチはどうか

 これに対して興味深いのは、KDDIがFirefox OS端末の開発を継続している点です。NTTドコモの発表直後となった2014年春モデル発表会においても、KDDIの田中孝司社長自ら「来年度中」と具体的なスケジュールに言及し、「ギーク層向けに、尖ったものを出したい」という意向を示しています。

Tizenスマホはギーク向けに出すべきだった?
↑2014年春モデル発表会でのKDDIの田中孝司社長。Firefox OSについて言及した。

 ドコモがTizenを初心者向けの位置付けにしようとしていた点に比べると、対照的なアプローチといえます。たとえばNTTドコモ関係者はTizen端末の位置付けについて、「ドコモのサービスを安心してお使いいただける端末になる。展開にあたって、TizenというOSの名前を前面に出すことはないだろう」と語っていました。

 これに対してKDDIは、真逆の方向性を模索しているようです。KDDIの広報担当者は「まだコンセプト固めをしている段階」と補足してはいるものの、筆者は興味深いアプローチだと感じています。ギーク層といえば、日頃からスマートフォンを取っ替え引っ替えしているケータイマニアや、必要なアプリがあれば自分で作ってしまうデベロッパーがターゲットとなるでしょう。

 これらの人々は一般ユーザーに比べて市場規模としては小さいものの、新しいOSに真っ先に飛びついてくれやすい層です。また、荒削りな製品に対する質の高いフィードバックや、ブログやSNSを通した情報発信力も期待できます。具体的には、ROMの書き換えツールを提供したり、端末をSIMロックフリーとしてW-CDMAのネットワークでも使えるようにするなど、ギーク層の話題となりそうな仕様を積極的に採り入れる可能性があります。

 こうして考えてみると、Tizenも最初から“ど真ん中”を狙わず、あえて斜め上の方向から新しいOSに興味を抱いて集まってくる“ギークな人々”をターゲットにするという選択肢があったのではないか。――そんなふうに思えてきます。

 最後になりましたが、Tizenの延期によって余ったリソースを、Windows Phoneの発売に向けて活用してくれることに期待したいところです。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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