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Windows情報局ななふぉ出張所

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?

2013年07月10日 20時30分更新

 ここ数年、iOSやAndroidではOSのバージョンアップに伴う断片化の問題が指摘されています。石川温氏の寄稿にもあるとおり、アプリ開発者にとって悩みのタネとなってきました。

 これに対してWindows Phoneは、断片化が発生しておらず、一貫性のあるプラットフォームを維持できていると評価されることがあります。はたしてそれは本当なのか、断片化したiOSやAndroidに対する優位性になり得るのか、考察してみたいと思います。

■断片化の問題点とは?

 Androidにおける断片化とは、OSバージョンや端末が多数共存しており、それらの組み合わせによって互換性の問題が頻発している状況を指しています。これはアプリ開発者にとって、“すべてのAndroid端末で正常動作するアプリ”を作ることが非常に難しいことを意味しています。

 そのため、Android向けのアプリ開発では、主要なAndroid端末を動作保証端末とし、それらの端末で一定のテストをクリアーすることで完成とみなすことが一般的です。普通のアプリであれば現行モデルの人気機種をターゲットに、企業向けの受託開発であればその企業が採用している端末を前提に、開発を進めるでしょう。

 その結果、不人気の端末を使っているユーザーにとっては、動作保証されているアプリが少なく、入れてみても動かないといった現象に遭遇しがちです。“ツートップ”のような人気機種を使っていても、新機種の登場により型落ちとなる可能性もあります。それらのクレームによってアプリのレビュー欄が炎上している場面もよく見かけます。

■Windows Phoneではハードウェア仕様を共通化

 これに対してWindows Phoneでは、端末ハードウェアに一定の要件を定めており、均質化されている点が特徴です。Windows Phone 7~7.8世代の端末では、すべての端末で画面解像度が800×480ドットに統一されています。

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?
↑『IS12T』をはじめとするWindows Phone 7.x世代の端末はすべて800×480ドットを採用する。

 カメラのシャッターについて、1機種の例外を除いて全端末が物理ボタンを搭載。メモリーは256MB以上、ストレージは4GB以上といった最低スペックも決まっています。

 しかしファームウェアについてはメーカーが主体となって開発できるため、カメラに独自機能を搭載したり、スピーカーをサラウンド対応にするといった差別化が可能となっています。

 一方、Windows Phone 8ではハードウェア要件が新しくなり、断片化が訪れるのではないかと懸念されました。というのも、画面の解像度が従来の800×480ドットに加え、1280×720ドット、1280×768ドットという2つの解像度が追加されたのです。

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?
↑Windows Phone 8から画面解像度は3種類になった。

 実際の端末にもこれらの解像度は採用されており、ノキアの『Lumia 920/925/928』では1280×768ドットを、HTCの『Windows Phone 8X』では1280×720ドットを採用しています。

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?
↑ノキアのLumia 925は1280×768ドットを採用している。

 しかしWindows Phone 8では、比較的問題が起きることなく、これらの解像度に対応できたと言えます。開発ツールやエミュレーターが優れていること、Windows Phoneアプリのユーザーインターフェースの構造などにより、開発者の負担は最小限になっていると言えます。

 また、画面解像度以外の点では、Windows Phone 8端末は非常に似通ったスペックとなっています。いずれもQualcomm製のデュアルコアプロセッサーを搭載しており、画面解像度によって512MBまたは1GBのメモリーを搭載しています。これは、ある端末で動作するアプリが、別の端末でも同じように動作する確率が高いことを意味しています。

 その結果、アプリのテスト時に考慮しなければならないバリエーションは少なくなります。アプリの品質向上策として、“テストしやすい設計にする”というアプローチがありますが、Windows Phoneは構造的にテストしやすくなっているといってよいでしょう。

■ハイエンドとローエンドの両方で制限が大きい

 このようにWindows Phoneでは、いまのところ断片化をうまくコントロールできており、アプリ開発者にとって、アプリを開発しやすい環境であることがわかります。その一方で、ハードウェアの仕様に制限を設けるというWindows Phoneのアイデアは、いくつかのデメリットも生み出しています。

 たとえばWindows Phone 8では、画面解像度としてフルHDがサポートされていません。Androidでは、ハイエンドのスマートフォンがフルHDを採用することも珍しくありませんが、Windows Phoneではまだ実現できません。

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?
↑サムスンの『GALAXY S IIIα』、『ATIV S』、『GALAXY S4』。現行のWindows Phone 8の仕様では、GALAXY S4のようなフルHD端末は作れない。

 逆に、800×480ドットより低い画面解像度や、異なるアスペクト比の画面についてもサポートされていません(厳密にはWindows Phone 7の初期にHVGAの仕様がありましたが、実際にはHVGAの端末は登場しませんでした)。これはBlackBerryスタイルのような端末を作ることが難しいことを意味しています。

 このようにWindows Phone 8では、ハイエンドとローエンドの両方について、一定レベルを超えた端末を作りづらくなっています。たとえばノキアはLumia 920に続けてLumia 925やLumia 928といったハイエンド端末を投入しています。しかし、いずれも画面解像度は1280×768ドット、CPUもデュアルコアにとどまっています。

Windows Phoneはもっと“断片化”すべき?
↑最新のLumia 928や925も、基本的なスペックは920と同じ。

 たしかに重要なのはスペック表の数字ではなく、実際に使ってみたときに快適かどうかという点です。しかし現実的には、Windows PhoneはAndroid端末の横に並べて販売するショップがほとんどです。両者のハイエンド端末が価格的に似通っている以上、Windows Phoneがスペックで見劣りしている点は残念な印象を受けるものです。

■Windows Phoneはもっと“断片化”させるべき?

 これまでのWindows Phoneは、各メーカーが注力するAndroid端末のノウハウを転用して作られたものがほとんどでした。そのため、ミドルレンジを想定したハードウェア要件により、マイクロソフトと各メーカーの利害が一致してきた面があると言えます。その一方で、Windows Phone 8以降のOEMメーカーはノキアが中心となっており、状況は大きく変化しています。

 いまのところマイクロソフトからは、ハードウェア要件を大きく緩和することなく、一貫性のあるプラットフォームを維持していくという意向を筆者は感じています。2013年7月現在、Windows Phoneの次期バージョンについては発表がなく、次のアップデートは年末から年明けにずれ込むとの見方もあるものの、基本的にはフルHD対応や、クアッドコア対応といった順当なアップデートが予想されています。

 しかし別の可能性として、ハードウェア要件を大幅に緩和し、Androidのように多くのOEMメーカーが自由に端末を作れるようにするライセンスモデルを導入するなど、あえて“断片化”を進めるという手もあるのではないでしょうか。Windows Phoneが生き残るために採るべき道はどちらなのか、改めて考えてみるのも面白いでしょう。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

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