近未来のデジタル技術を一堂に集めた国際的イベント『デジタルコンテンツEXPO 2012』が、日本科学未来館にて開幕。10月27日(土)まで一般公開されている展示の一部をご紹介します!
■透明プリウス
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 稲見研究室
いわゆる“光学迷彩”のような技術を使うことで、まるで後部座席全体が透明になったかのように、車両後方の状況をドライバーが見られるシステム。クルマをバックさせるときに後方をより正確に確認できるようになり、安全性が向上するというもの。
実際には、クルマの後部に取り付けたカメラからの映像をPCで処理し、プロジェクターで運転席と助手席のあいだに設置した“ハーフミラー”に投射。はね返った映像が特殊な布をかぶせた後部座席に投影され、ドライバーはハーフミラー越しにそれを見る仕組み。特殊な布は、それ自体はすでにある技術ですが、カメラやプロジェクターと組み合わせて光学迷彩を作り出したところが、このシステムのポイントだそうです。
■代替現実(Substitutional Reality:SR)システム
理化学研究所 脳科学総合研究センター 適応知性研究チーム
なにやら大がかりなヘッドマウントディスプレーを装着して、“過去に記録編集された映像”を“いま目の前で起きている現実”のように体験できるシステム。……というと「単にビデオを観てるだけじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実際にやってみた感想としては、過去と現在が入り交じってその境界すらも認識できなくなるような不思議な体験でした。さっきまで右にいる人と会話していたはずなのに、現実世界では誰もいない壁に向かって話していたり、左右同じ人が現われてもどちらが過去の人なのかがわからない。
自分の現実認識がゆっくり崩れていくような、これはちょっと、言葉で説明できないような感覚。まさに映画『インセプション』の世界なので、ぜひ実際に体験してもらいたいです。
この技術の利用法としては、やはりゲームがいちばん実現可能性が高そうとのこと。どんなゲーム体験が可能になるのか、期待して待ちたいところです。
■拡張満腹感
東京大学 大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 廣瀬・谷川研究室
AR技術を利用して食べ物の見た目の大きさだけを変化させることで、満腹感を操り食事量を変えられるシステムです。手に持ったビスケットのサイズが変化するデモを実際に体験しましたが、ビスケットのサイズ変化に合わせて指先だけ、なんの違和感もなく距離が縮まるのが非常にリアル。
これを使えば、ビスケットを実際よりも大きく見せることでたくさん食べたような気にさせ、食べる量を減らしてダイエットにつなげるというようなことが可能になります。
仕組みとしてはメガネにカメラが仕込まれており、そこから撮影された映像を3Dポリゴンに貼り付けて、違和感のないよう映像ソースをリアルタイムで変換しているようです。人間の満腹感は、食事の量だけでなく、料理の盛りつけや見た目、一緒に食べる人数などの周辺状況に影響されており、満腹感は変わらないのに食事量が約10%減るという実験結果も展示されていました。
■DIVE into World Heritage 3D
パナソニック
5台の3Dカメラで撮影した映像を、横に5台並べた大画面ディスプレーで上映するシステムを展示。視野いっぱいに広がる美しい世界遺産の3D映像は、奥行き感や臨場感がハンパない! 特に、カメラが上下に移動した際の浮遊感には、空間自体が本当に移動したかのような感覚に襲われ、ぞわわっとしました。
こんなシステムが自宅にあったら、ずっと没入してしまうかもしれません。
■高速・高精度な顔画像処理に基づくものまねアバターシステム
慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 満倉研究室
ウェブカメラで撮影した人間の顔の表情や動きを認識して、それをリアルタイムでアバターに反映させられるシステム。笑いや怒り、驚きといった表情だけでなく顔の向きも反映でき、その精度はかなり高いです。一般的なウェブカメラとPCしか必要としないのが、このシステムのポイント。近い将来のコミュニケーションツールとして利用されそうです。
■追体験のためのバーチャル身体技術
首都大学東京大学院 システムデザイン研究科 池井研究室、東京大学大学院 情報学環 広田研究室、日本電信電話株式会社 コミュニケーション科学基礎研究所
他者の“体験”の記録をもとに五感を刺激することで、その体験の“追体験”が可能になるシステム。昨年に引き続き研究が進められ(DCEXPO2011記事)、走行時に足(スネのあたりまで)に伝わる振動の再現性などの面で向上していました。
デモでは、陸上の世界記録保持者ウサイン・ボルト選手の走りを体験! 足に取り付けた装置や座席からの振動、眼前に広がる3D映像、ヘッドホンの音声、ディスプレー下の装置から吹き付ける風などが一体となって感じられることで、風を切って走っているような感覚が。
バーチャル技術というと、視覚に訴えるものがメインになることが多いのですが、これは五感すべてを使うのがポイント。ボルト選手の走りでは嗅覚の要素はなかったのですが、もうひとつのミラノ旅行の追体験では、店先からただようコーヒーや果物の香りが再現されているそうです。
■Agni's Philosophy -- FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO
スクウェア・エニックス
開発中の次世代ゲーム開発環境“Luminous Studio”をデモするため、E3でも公開されて話題となったリアルタイムCG映像作品『Agni's Philosophy』を上映。リアルタイムレンダリングの長所は、ユーザーの視点の移動などにも対応しながら描画できること。しかも、ハイエンドPC程度の処理性能(しかもWindowsOS)で、プリレンダーCG映像と遜色ないレベルのリアルタイムCG映像を作りだすことができます。これに対応できる新ゲーム機が登場すれば、ゲーム導入ムービーの映像と、操作画面の映像に全く差がなくなるということで。
最近はCG部分と実写の境目がわからないレベルまで映画のCG能力は高まっていますが、それと同じくらいのリアルなクオリティの映像を、リアルタイムで生成できてしまうわけですね。おもしろかったのは、老人のヒゲの色やちぢれ具合の設定を変えて、映像を動かしながら出来上がりを調整していくデモでした。早く実装されることを期待しています。
■Gnzo - Catch more videos. :インターネット動画を複数同時再生
Gnzo
複数の動画を並べて同時に表示する技術を応用してつくられた動画サービスです。システム自体は企業向けに販売されるもので、クラブやライブ会場などでの使用が想定されていますが、一般ユーザーでも利用できるiOSアプリとウェブサービス(関連リンク)がリリースされています。
Gnzo - Catch more videos. - Gnzo Inc.(関連リンク)
アプリやウェブからは、アップロードした動画をタグでまとめて見たり、キーワード検索したりが可能。もちろん、会員登録(無料)すれば、自分で撮影した最大6秒間の動画をアップロードすることもできます。たとえば、子どもやペットのビデオを毎日撮影してアップロードし、ある程度まとまったところで並べて同時に見るなんていうのも素敵な使い方かもしれません。
今後はFacebookと連携したり、ライブ配信映像にも対応したいとのこと。そうなると、友人とのビデオの共有も簡単になりますし、全国各地からのライブ中継を並べて視聴なんてことも可能になるので、いろいろと使い道が広がりそうです。
■VRとAR技術による新しい都市空間の演出
森ビル
都市計画などを行なうディベロッパーである森ビルは、再開発などの計画を関係者に説明するため、精巧で広大な都市模型を六本木ヒルズのいちフロアーに作成しています。その作業で蓄積されたデータを3Dデジタルデータに変換し、VRやARの技術をプラスして作られたシステムが展示されていました。
VRを利用したシステムでは、実際の原宿の街並みをそのまま再現した仮想空間内を、アバターを操作して歩き回ることができます。またARを利用したシステムでは、実写映像に仮想の都市模型が重ねられ、モーション技術でその模型を拡大したり、断面図を見たりすることが可能です。
現実世界を完璧に再現しているという利点から、初めて行く場所の下見をするなんて使い方から、仮想空間内の街頭展示スペースやショウウィンドーに広告を掲載したり、ARを利用したアート作品を気軽に設置させるなどの利用法を模索していきたいとのこと。仮想空間の店舗で現実より1日早い発売イベントが行なわれて、みんなで行列するなんて未来も楽しそうです。
■HTML5を、遊ぼう!使おう!語っちゃおう!
アスキー・メディアワークス 角川アスキー総合研究所
そのほか、展示会場脇のステージでは、ユビキタスエンターテインメントの清水亮代表取締役社長兼CEOと、角川アスキー総合研究所の遠藤諭ゼネラルマネージャーによるステージイベントが開催されていました。
目玉はなんといっても、ゲームエンジン『enchant.js』を使った即興ゲームプログラミングコンテストです。清水氏によると、「時間がかかるイメージのあるプログラミングを、アスリート的に短時間でやり遂げる姿を見てほしい」とのこと。参加者がわずか9分間(!)でコードを書き、簡単なゲームを作り上げ、どちらがおもしろいゲームを作れるかといった公開勝負を展開。
そのほか誰でも簡単にプログラミングができる、ブロック型プログラミング環境『前田ブロック』の初心者向けワークショップやトークショーなども毎日開催。無料で直接質問もできる大チャンスなので、プログラミングに興味のある方は是非ともご参加を! 場所はシンボル展示 Geo-Cosmos ジオ・コスモス(関連リンク)の真下ですのでお間違えなく。
上記の展示以外にも、パイオニアのARヘッドアップディスプレー・ユニットや東芝の84V型4K対応テレビ(参考出品)などの製品から、興味深い研究成果やさまざまなアート作品まで、多数の展示があり、1日いても飽きないほど。ぜひ会場に足を運んで、実際に体験してもらいたいです!
デジタルコンテンツエキスポ2012
日時:2012年10月25日~27日(土)
場所:日本科学未来館
料金:入場無料
■関連サイト
デジタルコンテンツEXPO 2012
日本科学未来館
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