『JoinTV』を立ち上げた、日本テレビ安藤聖泰氏と、アスキー総研の遠藤所長が、テレビの可能性について熱く対談。増え続けるデジタルデバイスに対して、テレビはどう向かっていくのか? さらに、安藤氏がハイブリッドキャストに物申す!
安藤聖泰
日本テレビ放送網株式会社 編成局メディアデザインセンター所属。2010年より、IT情報番組『iCon』のプロデューサーを務める。さらに、ソーシャルを活用したテレビ視聴サービス『JoinTV』を立ち上げ、日本テレビにおけるデジタル戦略を担っている。
遠藤諭
アスキー総合研究所所長。デジタル・IT関連のコメンテーターとしてテレビや雑誌等でも活躍。ブログ『遠藤諭の東京カレー日記ii』を週アスPLUSで連載中。
■「テレビは常に見ている人を思い浮かべてつくっている」
遠藤 これからテレビはどうなっていくんですか?
安藤 試行錯誤を続けていくしかないですね。でも、セカンドディスプレーやスマートテレビを使ってなにかしましょうとかから入ると、あんまりいいものができない。僕らテレビは、セカンドディスプレーもスマートテレビもWindows8もタブレットも、敵ではなく“使えるツール”なんですよね。テレビ局って別にテレビのデバイスの会社じゃないし。
遠藤 でも、ユーザーの前にあるのはデバイスなわけで そこがややこしいところですよね。
安藤 だから、軸にしなくてはならないと思ってるんですよ。僕は、今後のテレビ放送を「創造していく」部署“メディアデザインセンター”にいます。メディアデザインセンターでは、「ソーシャルゲームやりましょう」とかそういうのまでやるんですよ。でも、テレビというビジネスがそっちにシフトしていくとはとても思えない。やっぱりそこはテレビの本業から見たら小銭稼ぎでしかないと思う。
今、我々の前に提示された様々なツールをどう使うか。アプリかもしれないし、BMLかもしれないし、スマートテレビかもしれないしタブレットかもしれない。テレビデバイスだけがテレビじゃない。でも、テレビデバイスはメインであり続ける努力をしなくちゃいけない。日テレや他局も含めて、PCで無料動画配信など色々やっているんですが、うまくいったりいかなかったり。まあ、若干アウェーの試合な感じです。
遠藤 んー。人の土俵だと?
安藤 ネットにはGyaO!や、YouTubeもある。その世界だと、いくらコンテンツ力があっても僕らは1プレーヤーでしかない。でも、テレビにおける根幹サービスというのは、テレビ局の番組を作っている人たちは、テレビの前にいる人が今どういう状態にあるかということを常に考えてつくっている。
たとえば、平日の朝に放送している番組『ZIP!』。テレビを見ながら朝ご飯を食べたり、ネクタイ締めながら出ようとする人とか、ランドセル背負って出かける子供といった光景を思い浮かべながら番組をつくっている。テレビっていうデバイスにおいて、我々はやっぱりホームの試合であるし、テレビのコンテンツをどう広げていけるかをやっていくんじゃないかな。
遠藤 テレビがこれからどうなるかというと、使いやすくしてほしいですよね、僕とかは。パソコン屋からすると、なんでやってないんだみたいな部分が多い。今まで偉すぎたんじゃないんですかね。ちょっと悪く言うと。お茶の間のエンターテインメントの王様に君臨していたのであんまりチョコマカしたことやってなかったじゃないですか。大雑把だったというか。
安藤 マス媒体ですからマスの中で、どうみんなが見ているかをすごい繊細に考えてきた。だから、多様化した人々の生活が、その中で一律に同じものを提供するということが、必ずしも万人に受け入れらるものではなくなってきているので、そこをまさにどう補完していくかということだし。
まさにだから、番宣はリアルタイムでやるけど、番宣動画をどうしたらなにかしたい人に対して、どう提供していくかとか。でもまず僕らがやるのは、そこで録画ができるということよりも、番宣動画を“いいね!”した人には、手元のwiz tvアプリなどで、「もうちょっとで番組始まるよ、見てね」ってうのが、まず第1ステップかなと思ってます
遠藤 なるほど、リアルということですね、それは。だから、映画でもテレビ番組でもない、例えばある映像コンテンツ形態というのか、なんかまったく違うものも、いまならありうるわけじゃないですか。
安藤 iPhoneやiPadの出現とかいうほうが近いかも。そういったものの出現で、ライフサイクルも変わってくる。だからこそ僕らはアンテナを張らなきゃならないし。
遠藤 1回失敗しているからやれるというものもあるんですよ。パラダイムが違うとこまで行かないと、新しい宝は手に入れらないじゃないですかね。
安藤 そうだと思います。ただ、それこそ出版社が電子書籍を主にするかしないのかと同じことかもしれません。
遠藤 ある大手出版社の非常に有名なコンテンツを育てた方が、「デジタルになって、よくなった業界はあるのか」って。これすごいセリフだと思った。
安藤 でも自分たちでやったほうが、その業界は席巻できるわけで。とはいえ、自社の既存事業の売り上げは落ちる方向だし。世間一般の話として、それをできる勇気がある人たちが勝ってる気がする。
だから他社に食われて終わっているか、自分たちを自らで乗り越えたかという話。テレビ局が最終的に越えていくのはコンテンツだとしても、そのきっかけはテクノロジーがつくった。インターネットとかソーシャルとかの仕組みが変えていってる。
■「ハイブリッドキャスト対応の機器はものすごいスペックになってしまう」
遠藤 ハイブリットキャストはどうするんですか? やるんですか? 僕のイメージとしては、「APIを用意したんで好きな形で使ってね」という意味では、ネット時代的だし、デザインとしてはけっこう筋がいいと思うんですよ。ただ、誰がやるかとかどう作るかが、問題なんですよ。あとなにを載せるかですよ。やるの大変ですよね。
ハイブリッドキャスト
↑2012年5月に行なわれたNHK放送技術研究所の『NHK技研公開2012』で展示されたハイブリッドキャストの展示。
安藤 結論としてはそこなんです。そしてその機能を使うユーザーがライブの放送中にまずどのくらいいるのかと。さらにいうと、その機能をやるためになにが起こるかというと、通信の遅延が生じるので、放送波を今でこそ地デジで2秒ほど遅れているのに、10数秒遅らせなきゃならない。それは一律です、その時だけじゃないです。ハイブリットキャストのデモンストレーションでよく紹介されるサービス例はまだ非現実的な気がする。
デモでよくやるのが、「見てください、ハイブリッドキャストになると、ほら、走っている選手のカメラの頭の上に、選手の名前が出ているんですよ。で、一緒に動いているんですよ。これはテロップじゃなくて、HTML5でつくって動きを合わせてやっているんです」って言うんだけど、……これやるの? 作るのこれ? 毎回のサッカーの試合で? しかもリアルタイムで?
まあ可能性のデモですからどうこう言ってもしかたがないですが、色んな技術を組み合わればできるのはわかるけど、この処理をするためにテレビの最低スペックが上がったら、そのテレビをいくらで売るんですかと。通信動画の同期を合わせるための仕組みとか、地上波と通信とか、遅延調整をどうしようかとか。本当にネットほどゆるかったら……もっとゆるくてよかったのに。そこが中途半端にテレビの変なこだわりが入って、ものすごいスペックになる。
そうなったらマスサービスじゃない。ほんのわずかな一部の人たち向けのサービスをやるんだったら、もはや全然違う。だったら例えばJoinTVのようなことが最低限できる仕組みとか、FacebookなどのAPIに簡単にアクセスできる最低限のとことか、もっとそれくらいで低コストで抑えたい。超ハイスペックのテレビにだけ機能がついているものをマスサービスではできない。
遠藤 いやいや、あれやるのかなと、もう。僕は本当に会う人ごとに聞いているんですけど。
安藤 僕らはJoinTVだけをやりたいつもりはないんですけど。FacebookだってFacebookフォンが必要かというと、別になくても楽しいサービスができる。でも、ブラウザーにJavaScriptなどの最低限の機能がないと、Facebookが楽しめない。
僕らは最低限の部分ができるテレビが出てくれれば、サーバー上で全部やるし、面倒くさいこともやる。もう個人が自腹で立て替えられるぐらいの価格で放送の4時間くらい借りれるくらい安くなっているのに、ハイブリットキャストが求めるスペックが……。
遠藤 そんなにハイスペックなものがいるとは、僕は認識していなかった。
安藤 本当にハイスペックなテレビがいるなら、もっとコンテンツもハイスペックにしなきゃいけない。うちの部署にゲーム大好きな女の子がいるんですが、「テレビですごいゲームがガンガンできちゃいます」というハイブリッドキャストの説明に対して、「私、本当にゲームやりたいなら、そんなスペックじゃなくて、1フレーム1フレームこだわる、本気のスペックじゃないとダメ」とか言ってました。誰を対象にしたゲームをやるつもりでいるのか。
大事なのは、BMLの地デジテレビというのは、国策で電波帯を変更することもあり、2011年7月にそれまでの受信機が使えなくなると決まっていた。だから昨年7月に、昔のテレビはほぼなくなって、BMLでブラウザーの映ったテレビにほとんどリプレイスされたんですよ。結果的に。
それがスマートテレビになったら、今のBMLのテレビはなくなるんですか? 何年でなくなるんですかと。たぶんBMLサービスとスマートテレビサービスは、20年間両対応放送をするだろうなと。しかも当初は、HTML5のスマートテレビコンテンツをやるとしても、ほとんどの視聴者がその恩恵にあずかれないだろうと。
『ZIP!』という番組のデータ放送で、ラジオ体操のカードみたいに、毎日1枚1枚めくっていける仕組みにしてるスタンプラリーが人気なんです。その1日の利用者が30万〜50万人。スマートテレビがどれくらい普及するかわからないし、僕らは当面、最低でも10年くらいはBMLテレビをやっていくんだろうと。
遠藤 しかも、スマートテレビの仕様はいまのところバラバラだもんね。
安藤 JoinTVをこの間『PON!』という番組でやりまして。番組で紹介したお店の情報がデータ放送で出ると、JoinTV参加者は、“シェア”ボタンを押して友達に教えられる。そうすると、情報がウェブに表示され、テレビみたいな感じのも伝播する。僕らが取材してとってきた情報は、やっぱり自分たちで伝えていかないと。それが僕らの価値でもあるから……。
遠藤 そこを売ることもできますよね。
安藤 売ります。そういう意味じゃ、番組関連情報を売ることもありますからね、今でも。いろんなところに。JoinTVのプランを立てた時になにを悩んだかっていったら、番組情報とかURLを出してるんです、シェアするために。だけどテレビ画面では表示されないんですよ。シェアしておいて「あとでFacebookで見てね」と。
『PON!』×『JoinTV』
↑8月に行なわれたJoinTVと『PON!』の連携サービス。『PON!』の番組放送中に、スタンプラリークイズやプレミアム星座占いなどを実施した。
遠藤 電話番号すらなかなかテレビは出さないですよね。それはもともと体質的に。けっこう情報を絞るじゃないですか。だったらメタデータを、APIを有料化するとか、違う商売があるんじゃないですか。
安藤 API化します。実は“日テレアプリ”で検索すると、日テレの番組情報のニュースAPIなどやっていて、仕様も出しています。
遠藤 ああ、それは拝見しています。ハイブリットキャストって、要は「電波が来ているし、クラウドも使えるようになりましたと」っていうことなんですよね。で、電波のほうはものすごくがっちり規格ができていて、ちょっと変えるのも、すごい大変。ネットのほうは、今のところみんな勝手にやってる。……ちょっと言葉の言い方が悪いんですけど。
安藤 僕らテレビ局はそれぞれ違う事業者で、全然違う考えがある。なのに、テレビっていうだけで横並びに並べて、「テレビ局の皆さんは共通の仕組みで第3者のアプリ提供事業者に番組情報を提供してください」というのだとしたら意味がわからない。「なんでテレビ番組の上に他のアプリを重ねて、テレビの情報をもってきちゃいけないんだ!」と言われても……。ネットの世界でもやってませんよね。そこまで。
僕らはビジネスまたはサービスとして、別にサーバーでデータを用意します。だからニュースも、ここまではAPIを用意します、ここから先がほしい場合は、URLの情報をAPIに入れているので、そこにリンク張って情報取ってくださいとか。そうやりたいですね。
ビジネスとして成り立つんだったら、あるかもしれないですよ。でも、「テレビのコンテンツの上になにを重ねたっていいじゃないか、なんで文句言うんだ」みたいに言われて。だったら、HP上の広告を勝手に隠して他の内容を表示していいのかっていう。なんで、横並びに仕様を決めさせられちゃうかもわからないですね。
以上第3回目は、ハイブリッドキャストの話題を中心にお届けしました。次回の第4回で、いよいよ対談もラスト。ネット時代のテレビとテレビコンテンツについて、ふたりがそれぞれの立場から今一度語りあいます。最後までお見逃しなく。
【第4回】ネット時代のテレビコンテンツとは?
【第3回】ハイブリッドキャストの抱える問題点
【第2回】これからのテレビ設計と、ソーシャルの力
【第1回】JoinTVの反響とテレビが抱える課題とは?
日本テレビでは、2012年10月19日(金)、26日(金)に放送される“金曜ロードSHOW! 20世紀少年 サーガ”でソーシャルテレビ視聴サービス『JoinTV』を利用した新コミュニケーション機能が楽しめます(第1回は10月12日(金)に放送済み)。JoinTVのサービス概要、登録方法については下記サイトをご参照ください。
「JoinTV」ホームページ(外部サイト)
2012年10月16日(火)に、安藤氏と遠藤氏が登場する“日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜”が開催されます。このカンファレンスは関係者向けのクローズドなイベントのため、参加者がすでに定員に達していますが、下記アドレスでライブ配信が予定されているので、ぜひご覧ください。
日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜(外部サイト)
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