LINEカンファレンスの直後より、NHN Japanからは機能実装や業務提携のリリースが矢継ぎ早に発信され、その成長性を見せつけている。ソーシャルサービス『LINE』の勢い、そして近い未来におきるであろう可能性については、カンファレンス翌日に掲載したコラムのとおりだ。そこから以下の一文を引用しよう。
Googleやfacebookがそうであるように、グローバルな巨人たちが規模の拡大につれて正負の両面をそれぞれ色濃くしていくのはネットの常だ。
引用:LINEがmixiを超えた日 次の標的は誰か(関連サイト)
そして、筆者は「いつか訪れるであろう巨人化がもたらす不安」と続けて表した。LINEの巨人化が「正」と「負」の両側面をもたらすのならば、すでにその萌芽もある。
引き続き本稿では、LINEの抱える課題のなかから、ひとつを取り上げて考えてみたい。先日のカンファレンス以降、さまざまな視点や切り口で、各方面の識者や実際のユーザーたちが語り始めている。そうしたインターネット上に残される数々のログと合わせて、本コラムを、読者諸氏がLINEについて考えるきっかけとしていただければ幸いだ。
■IDが広げる交流とかつて見たインターネット
電話帳のリストをコミュニケーションの基本とするのが、LINEの特徴でありウリだ。現実の人間関係(彼らのいうリアルグラフ)で使われるサービスであるためLINEは楽しまれ、急激にユーザーを増やしている。では、その基本の上に展開される“応用”は何か。それは、LINEのもつID機能にある。
LINEでは電話番号を登録しなくても、メールアドレスと連携させることでアカウントを取得し利用できる。登録も簡単で、UIは誰にも親しみやすく美しくつくられており、わかりやすく始めやすい。また、個人と紐づけて登録する「ID」と呼ばれる半角英数の文字列を使い、PCや複数台のスマートフォンといった異なるデバイス間で、自分のアカウントを同期して利用が可能だ。スマホもPCも使いこなすようなユーザーには便利でうれしい機能だろう。
しかし、それだけではない。LINEには、IDの検索機能も提供されている。友達を探すための検索機能を使えば、そのIDのユーザーが表示されるしくみだ。つまり、「ID」で検索すれば、見知らぬ誰かとつながることもできる。あたりまえだが、第三者の検索にひっかからないよう設定する方法もあらかじめ提供されている。設定画面から、デフォルトでオンになっている“IDの検索を許可”をオフにすればよい。(筆者はユーザーの安全のためにはデフォルトはオフになっていたほうがよいと考えているが、そこは彼らにとってジレンマかもしれない。オンになっていたほうが、ユーザー数拡大の後押しになるだろう)
その結果、残念ながらAppStoreやGoogle Playではアプリレビュー欄に自らのIDを晒し、出会い系として利用しているユーザーもいる。あるいは、「LINE 出会い」で検索してみるのもいいだろう。IDを晒す掲示板が出てくるはずだ。インターネットが普及して以降、電子メールや数々のSNSがたどってきた道をなぞるように悪質な業者によるスパム行為もある。
当然のことながら、こうした利用をNHN Japanは禁じている。華々しいカンファレンスのなかで、あえて『LINEの「安心・安全化」に向けた取り組み』というセッションを設けアピールしたのは、こうした背景を受けてのことだ。
週アスPLUSにアクセスし、本コラムを読んでいただいている読者諸氏のように、自ら情報を集めるユーザーならば「楽しいし便利だから使うよ」、または「不安だから使わないことにしよう」と判断できるだろう。あるいは「こういう時には使うけど、こういう時では別のツールを使おうかな」と、ほかのコミュニケーションツールやプラットフォームと使い分ける、という人もいるに違いない。
しかし、すべてのユーザーが高いネットリテラシーをもっているわけではない。(※日本の教育課程において、ネットリテラシーの教育を施されないまま社会に出ることを余議なくされた世代は多い。デバイスやツールは使えるようになっても、しばしばインターネット上で成人のユーザーが大きく炎上している理由はそこにある。義務教育で学ぶ機会があるぶん、昨今の小中学生のほうがリテラシーは高いのではないだろうか)友達が使っているから、家族が使っているから。キャラクターが可愛いから、好きなタレントが使っているから。そんな理由で使い始めるユーザーのほうが多いのではないだろうか。さらに、今後はLINEの新たな特徴である“クーポン”や“ゲーム”といった新機能に惹かれて使い始めるユーザーも出てくる。
では、そのようなユーザーに対してどのようにLINEというサービスを説明していくのか。GEEKがつくったFacebookのように、「ルールや使い方は全部Webにのっけてるから勝手に読んでね」と、現場がアイデアを発展させて突然新機能を搭載したり、ひっこめたりしていく。メインのユーザーは分別のある大人だろう、リテラシーもそれなりにあるはずだ。最初はイノベーター、次はアーリアダプター、その次は……とすすめ、多少のトラブルは覚悟のうえで突き進み、対応は走りながら考える。単純にユーザー数を拡大していくだけならばそれが早くていいかもしれない。そうした手法が「ネットらしいスピード感」と持て囃される節もなくはないし、筆者も全面的に否定するつもりはない。(ないが、そうした「持て囃し」がstudygift(関連サイト:Google検索)という残念なインターネットを産みだしたことを日本のWeb業界は忘れてはならない)
■誰もが安心できるサービスとは
「LINEはここが便利で楽しいよ。でも、こういうこともあるから、そこは注意しようね」
リテラシーの低いすべてのユーザーのそばに、読者諸氏のようにそんな説明ができるユーザーがいるかどうか想像してみてほしい。いないのであれば、サービス提供者であるNHN Japanが自らそれを伝え、誠実に対応することが求められるだろう。
その第一歩はカンファレンスで示された。『「安心・安全化」に向けた取り組み』という、以下の4つだ。
1. 異性との出会い・交際目的での使用について
App Store/Google Playのレビュー欄をモニタリングし、該当する書き込みについては発見次第、Apple社とGoogle社に削除要請を行っています。
また、友だち募集を目的とした非公認サービス(掲示板・ウェブサイト)のリストを開示し、一般ユーザーに対しての注意喚起、および非公認サービス運営事業者に対して抗議・差止要求を行っています。
2. 未成年保護の取り組みについて
国内通信キャリア事業者より年齢確認情報の提供を受け、未成年保護の対策を推進していきます。
3. スパム対策について
不特定多数のユーザーに対して大量にメッセージ送信を行う行為、およびNHN Japanが規定する内部ガイドラインにおいてスパムと認定された行為を行った場合、即座に当該アカウントの削除を行います。
4. トラフィック負荷対策について
トラフィック負荷低減を目的に、国内通信キャリア事業者とアプリ仕様改善・システム改善についての協議を開始しており、段階的に対策を実施してまいります。
(引用:コミュニケーションツールから、「スマートフォンライフ・プラットフォーム」へ LINE、プラットフォームサービス「LINE Channel」を発表 世界4,500万人のスマートフォンユーザーを対象に、ゲーム・占い・クーポンなど 外部コンテンツパートナーによるコンテンツを提供、新たなエコ・システムへ サービスの「安心・安全化」に向けた取り組みも併せて発表(関連サイト:NAVERプレスリリース))
これだけでは、よくあるただの箇条書きだが、実際にはそれぞれについて内部では体制を整えて動いているものと、まずは素直に受け取っておこう。そして、第二歩、第三歩についても待ちたい。
さて、以上を踏まえて考えてみたいテーマがある。それは、「LINEがユーザーを大切にすること=LINEの負担が膨大に増えること」という点だ。
TwitterやFacebookの普及スピードを超える速さでユーザーが増え続けるということは、トラブルも比例して増えているであろうことは想像に難くない。それは、読者諸氏がこのコラムを呼んでいる、この瞬間も、だ。そしてそのトラブル解決には、これまで以上に高いコストが要求される。NHN Japanがこれまでハンゲームの運営で得たオンラインゲームのサポートノウハウとは異なったものが必要になるだろう。アバターを使う匿名の仮想空間以上に、現実の人間関係(リアルグラフ)を基本にしたトラブルは、現実世界のトラブルにそのまま反映されるためだ。
Twitterは市井の開発者に多くのAPIを解放し、匿名も実名もユーザーにゆだねる、いわば古き良きインターネットの世界に沿った「自由」でそれに対した。Facebookはユーザーサポートを大幅に省き、ネットベンチャーらしい「スピード」と「実名主義」で対した。ではLINEはどうするだろう。
確認しよう。ソーシャルネットワークサービスLINEは、電話帳に紐づくような身近な人とのコミュニケーションで使う、ユーザーの大切な人間関係の上に成立するサービスだ。Facebookのようにスクラップアンドビルドをユーザーの目の前で繰り返し、「説明はWebにのっけておいた」で済ませられてはユーザーは困ってしまう。そんなやり方はせずにユーザーを大切に考えてくれていると思いたいところだ。一方で、LINEがユーザーを大切にすればするほど、彼らは自らのハードルを高く上げることになるのも、また事実だ。
人間同士のつながりを扱うビジネスである以上、トラブルが増えるのは避けようがない。そして、トラブルに対応していくには、やはり“人間”が必要となる。
コミュニティサイトではあたりまえのことだが、監視プログラムを走らせて自動化できる部分もある。だが、どれだけ効率化を図っても最後には人が動く必要があり、それには相応のコストが発生する。身体ひとつとパソコン1台でもやっていけるのがWebビジネスの魅力だといわれるが、逆にいえば、Webビジネスの中で馬鹿にならないコストが人件費だ。筆者には想像すらできないが、2012年内の目標である“全世界1億ユーザー”に対応するための人員コストはどの程度に達するのだろう。そうして、LINEの全世界4500万ユーザーという数字は、Facebookの9億ユーザー(※2012年4月IPO申請時)の5%なのだ。
■LINEに何を期待するのか
これまでみてきたとおり、その成長率は目を見張るほどだ。楽しく、素敵なサービスだからこそユーザーから多くの支持を受けているのも疑うべくもない。水をかけるつもりは毛頭ないが、それらは同時に、彼らの立ち向かうべき課題も大きく成長していることにほかならない。
GREEやDeNAが急成長していく過程で、私たちの社会で何が起きたのか。あるいは、拡大傾向にあったアメーバピグで、サイバーエージェントが大規模な自主規制に踏み切ったのはなぜだったのか。LINEの課題は本稿で触れたひとつだけではないだろう。カンファレンスで「Facebookのスケールをめざす」と社長の森川氏が掲げたハードルは、単純なユーザー数だけを意味しない。ソーシャルネットワークサービス『LINE』が自ら課したハードルは高く、そして多い。
LINEが、ユーザーの家族や身近な人とのつながりを手中にする以上、IDによる交流やかわいらしいキャラクター、ゲームをきっかけに未成年者が使う可能性がある以上、高いハードルを超えるための負担をきちんと背負い、丁寧にユーザーと向きあってほしい。そして、誰もが安心して、楽しく使えるサービスを提供してもらいたい。
これからのLINEに、そう、筆者は望んでいる。
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