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3D性能はコアi7内蔵GPUの倍以上!? AMD Trinity『A10-4600M』の感触

2012年05月15日 13時01分更新

AMD 新Aシリーズ(開発コード:Trinity)登場
Trinity
↑ダイ面積はLlano世代の228平方mmから246平方mmへアップ。トランジスター数は約11.7億から約13億個へ増加した。
ノートPC向け新Aシリーズのラインアップ
Trinity
↑TDP 25Wと17Wの2種類は“Ultra thin”(超薄型)ノートPC向けのライアップ。Llano世代であったA4-XXXXMは今回も予定されているが、年末発表となる見込み。

 AMDの次世代メインストリームAPU、『Aシリーズ』(開発コード:Trinity)がついにお披露目された。なお、発表されたのはノートPC版の5モデルでデスクトップ版はまだ先の話。なお、原稿執筆時点では既報でHPの『HP ENVY Sleekbook』の15.6インチモデル(699.99~ドル、6月20日発売)に採用される予定ということだけわかっているが、日本での展開は未定だ。

 Llano世代のAシリーズとの主な違いは、CPUコアは新たに“Piledriver”、GPUはRADEON HD7XXXGシリーズを採用している点。CPU比で25%、GPU比で50%の性能向上をうたっている。今回AMDから新Aシリーズ搭載ノートPCの開発機を入手したので、早速どんな性能・特性なのかテストをしてみた。

A10-4600Mを搭載するノートPCで検証!
Trinity

 開発機のためメーカーなどは一切不明。『HWiNFO64』で情報をチェックしてみたところ、APU(CPU)はTDP 35W、2.3GHz動作の4コア版Aシリーズの最上位『A10-4600M』だった。GPUコアの型番は『RADEON HD7660G』。Llano世代の内蔵GPUで最もスペックが高かったのは『RADEON HD6620G』だったので、GPUの設計そのものが1世代繰り上がり、描画性能も少し上がった(型番下2ケタが20から60へアップした)ことが予想できる。Trinity対応の新チップセットは『A85X』と目されているが、テスト機には従来と同じ『A70M FCH』が搭載されていた。

Trinity
↑『HWiNFO64』でチェックしたところ、チップセットは『AMD A70M』、メモリーは4GB、サムスン製SSD『830』(SATA3)が使われていることがわかった。液晶の解像度は1366×768ドットだった。

 ではさっそくベンチマークで性能をチェックしてみよう。比較対象として、『GeForce GT650M』を搭載し、ゲームノートPCとしてはかなりお買い得なIvy Bridge世代のコアi7搭載ノートPCを用意した。

マウスコンピューター『NEXTGEAR-NOTE i300SA1』
(直販価格8万9880円)

■SPEC
ディスプレー:11.6インチワイド液晶(1366×768ドット)
CPU:Core i7-3612QM(2.1GHz)
メモリー:PC12800 DDR3 4GB
GPU:GeForce GT650M
ストレージ:320GB HDD(5400回転)

3D性能はコアi7内蔵GPUの約1.7倍以上

 ではゲーム系のベンチからチェックしていこう。定番の『3DMark11』を筆頭に『モンスターハンターフロンティア 大討伐』、『ファンタシースターオンライン2』、『The Elder Scrolls V : Skyrim』、『バトルフィールド3』と軽いものから重いものまでそろえてみた。ただし、画質設定は標準、あるいは“中”設定を選んでいる。

Trinity

 A10-4600Mはコアi7内蔵GPU『Intel HD Graphics 4000』の約1.7倍以上。しかし、ミドルクラスのGPUであるGeForce GT650Mと比べるとその3D性能は約半分。つまり、GT650MとIntel HD Graphics 4000の隙間を埋めるような立ち位置だ。

Trinity

 GT650M>A10-4600M>コアi7内蔵GPUという序列は3DMark11と同じだが、GT650Mとの性能差が如実に出た。

Trinity

 A10-4600Mのスコアーは1599と、快適動作の目安(5000以上)には届いてない。しかし、画質“3”で平均で43fps、最高72fpsは出せるので、プレーには支障なさそうだ。

Trinity

 コアi7内蔵GPUでは最低フレームが10fps以下となり、プレーには適さないことがわかる。しかし、A10-4600Mは最低25fps程度まで落ちるが、平均では十分プレイアブルな30fpsを突破した。

Trinity

 バトルフィールド3では平均約26fpsと、欲を言えばもう少し欲しいところ。快適にプレーするためには画質設定を標準よりもやや下げるのが無難だろう。

CPU性能は……評価不可能

 結論から言うと、今回のテスト機ではTriniyの正しいCPU性能評価は下せない感じだ。その根拠となるのが『CINEBENCH R11.5』のCPUスコアー。4コアのA10-4600Mが2pts程度というのは低すぎるように思える。

Trinity

 この謎は『HWiNFO64』でクロックの変動を見て明らかになった。CINEBENCHで負荷をかけると本来Turbo Coreで3GHz近くまで上がるはずが1354MHzまでしか上がらない。そればかりか、CINEBENCHテストの中盤以降では1コアだけ1GHz近辺にずっと落ち込んだままになることもあった。

Trinity

 さらにCINEBENCHのスクリーンショットに注目してほしいのだが、オレンジの枠が各コアで処理している部分。明らかに1コアだけ処理が遅れているのがわかる。コアi7搭載ノートPCでもCPUが高熱になるとこの現象が出るが、今回のTrinityノートPCは動作クロックが上がりきらない(=熱問題ではない)のに処理が遅れているのが不可解。相当TDP枠を低く設定されているテスト機の可能性もある。

 CPU性能の見極めに使ったテストがもうひとつ。『MediaEspresso6.5』で45分のMPEG2-TSファイル(1440×1080ドット)をiPad2用のMP4ファイルへ変換する時間を比較してみた。ちなみにGPU支援アリのパターンでは、コアi7はQSVを使っている。

Trinity

 GPU支援を受けたA10-4600Mはそれなりに高速化されるのでGPUの性能はそれなりに優秀のようだが、残念ながら当代最速のハードウェアエンコーダー『QSV』の足元にも及ばなかった。ここでもやはりCPUが足を引っ張っていると見たほうがいいだろう。製品版でもう一度見極めたいところ。

発熱や消費電力は?

  一応、発熱や消費電力もチェックしてみよう。CPUの温度は『HWiNFO64』の“CPUパッケージ”を、消費電力は『watts Up? Pro』を使い、液晶の輝度は最低にした状態で計測している。

Trinity

 『NEXTGEAR-NOTE i300SA1』が飛び抜けて高い温度を示しているが、これはA4サイズのコンパクトボディーにGT650Mとコアi7を載せているため仕方ない。A10-4600M搭載ノートPCも動作クロックの上昇が確認できないので、CINEBENCHで負荷をかけているときの値は信用できない。参考程度に見てほしい。

Trinity

 A10-4600M搭載ノートPCのアイドル時の消費電力がダントツで低いが、これはCPUのクロックが698MHzまで落ち込むことを考えれば納得できる(Core i7-3610QMではアイドル時1.2GHz)。一方、消費電力のピークは低めだが、CPUのクロックが上がりきらないため、これをもってA10-4600Mの実力だとは言いきれない。

結論:低価格ノートPCに搭載して欲しい!

 テストでは動作にかなり怪しい部分(特にCPU部)もあったが、ひとまずA10-4600MのGPU性能はある程度の予測がついた。ミドルクラスGeForceの約半分、コアi7内蔵GPUの約1.7~2.5倍の性能で、画質さえ適切に絞れば、最新の3Dゲームだって普通に遊べてしまう。今回用意したマウスコンピューターのGT650M搭載機は8万9980円だが、CPUを『Core i3-2350M』に落とすと、同じくGT650Mを搭載する6万9980円の『NEXTGEAR-NOTE i300BA1』も見えてくる。したがって、新Aシリーズが搭載され、ライトなゲーミングマシンとして悪くない選択肢になるのは、5~6万円の低価格ノートPCや薄型モバイルノートPCだろう。

 しかし、テスト機のCPU性能がフルに発揮できない状態だったのは非常に残念だ。ゲーム性能もCPU部が足を引っ張っている可能性が高く、本当はもう少し頑張れるのでは? とテスト中何度も思った。そういった意味でも今後出てくるであろうAシリーズ搭載機の製品版に大いに期待したい。

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