週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【詳報】マイクロソフトとトヨタが協業会見——クラウド技術を基盤に、全電気機器を集中制御

2011年04月07日 14時19分更新

 米マイクロソフトとトヨタ自動車は本日、次世代の車載用情報通信プラットフォーム構築に向けた戦略提携を発表した。日本時間の午前5時にネット上で行なわれた記者会見にはマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOとトヨタ自動車の豊田章男社長が登場し、発表内容の説明とともに質疑応答に答えた。本稿ではこの記者会見ならびに周辺事情をまとめてレポートしていく。なお、同記者会見の模様はマイクロソフトのサイト内でアーカイブの動画を閲覧可能だ(Silverlightのプラグインが必要です)。

MS_TOYOTA
会見で握手を交わす豊田社長(左)とバルマーCEO(中央)

■クラウド技術を基盤に、車も家もすべての電気機器を集中制御

 今回の提携では、MSのクラウドプラットフォームである『Windows Azure』上にサービス基盤を構築し、これを自動車の車載システムと連携する形でさまざまな情報通信サービスを提供していくことを主眼としている。
 “テレマティクス(Telematics)”とは自動車分野におけるコンピュータ技術と通信技術を合わせた造語だが、このテレマティクスによりGPSを使った各種位置情報サービス、自動車における効率的な電力管理、そしてマルチメディアを駆使した各種エンターテイメントサービスなどが実現可能になる。速報でも紹介したとおり、提携にあたり両社は、トヨタ自動車の子会社であるトヨタメディアサービスに対して10億円規模の出資を行なう。そして2012年には成果として、まずトヨタの電気自動車(EV)ならびにプラグイン・ハイブリッド自動車(HV)向けに技術を提供するとのこと。最終的には2015年までに、全世界のトヨタユーザー向けに同サービスを利用できるクラウドプラットフォームを提供していく意向だ。

 車載用情報通信プラットフォームとはいうが、これだけでは従来のカーナビや車載エンターテイメントシステムの域を大きく出るものではない。豊田氏によれば、来年登場するEVまたはHVのいずれか1車種に搭載される新システムでは、単なる道案内や交通情報だけに留まらない、より高度な情報収集や制御が可能になる“情報端末”としての機能が強化されるという。
 EVやプラグインHVの世代になると、自動車は家庭の電源コンセントや充電用の電気スタンド経由で、車載バッテリーに直接充電を行なう。次世代システムでは、1日のどのタイミングであれば電力需要の少ない時間を狙った“オフピーク”的な充電が可能であるかを知ることができるほか、車内で効率よく電気を使うための細かい制御が可能になる。
 このほか、自宅の電灯や空調、家電製品の電源制御なども車載情報システムで集中制御が行なえ、これらを疑似ナビゲータとの対話形式で音声認識によるハンズフリー操作が可能になるという。また従来のカーナビゲーションや車載エンターテイメントも大きく強化されることになりそうだ。

■質疑応答では・・・・・・

 記者会見の質疑応答の場面では、「なぜEVやプラグインHVが最初のターゲットになるのか?」という質問が出されたが、これに対してバルマー氏は「ユーザーの需要を先読みする必要がある」と答えている。前述のように、電気自動車ではより細かい電力制御が必要になるとともに、昨今のエネルギー事情を省みれば、社会貢献という意味でも環境に配慮したアイデアが重要になる。そのため、単なるカーナビの枠を超えた、より高度な電力制御システムを提供する集中制御コンソールが必要になるというのがその理由だ。

 マイクロソフトはもともと、『Windows Embedded Automotive』という車載システムの開発に力を入れており、特にカーナビや車載エンターテイメントの分野では比較的大きなシェアを獲得している。同社は以前よりフォードとの提携を実践し、2007年1月に車載システム『Sync』を発表しているほか、昨年4月には両社共同でスマートグリッド分野への参入を表明している。今回のトヨタとの提携はこの一環といえるだろう。一方のトヨタも、「トヨタスマートセンター」と呼ばれるプロジェクトで、車や住宅、電力会社などを包含した統合電力管理の実証実験を昨年末よりスタートさせている。両社のこれまでの成果を組み合わせ、クラウドをベースにした次世代情報システムを構築する形になる。

MS_TOYOTA
2009年のCESの会場で『Sync』の提携を発表するMSのバルマー氏(左)とフォードのアラン・ムラーリーCEO(右)。

■スマートフォンやタブレットとの連携も視野か?

 提携の最初の成果は2012年発表されるとのことだが、これはプロトタイプ的な実験モデルの意味合いが強いと考えられる。具体的に2015年までにどういった製品が登場し、ユーザーに対してどのようなメリットが提供されるのかは不明だ。車内のダッシュボードに機能が完全統合された近未来型の電気自動車のようなものになるのか、あるいはもっと緩やかに、ユーザーが持つスマートフォンやタブレットなどと連携する形で新サービスを楽しめるようになるのか、想像は膨らむ。

 例えば、ミニクーパーの『Mini Connected』というシステムでは、iPhoneを専用ドックに接続することで車内での音楽再生だけでなく、交通情報や気象情報の収集など、スマートフォンを活用した情報システムとして機能する。同種のシステムは、先ほども紹介したフォードの『Sync』でも採用されており、『MyFord Touch』と呼ばれるタッチスクリーン型の情報コンソールとして機能している。
 今回、MSとトヨタの提携はスマートグリッド対応など、より広義の意味での自動車情報システムを目指しているようだが、ミニやフォードの事例では、純粋に「自動車で移動する時間をいかに楽しむか」という点に主眼を置いていると両社は説明している。

MS_TOYOTA
ミニクーパーのiPhoneドック
MS_TOYOTA
『Mini Connected』の車載モニター画面

 今後、スマートフォンの利用は急速に進むとみられ、NTTドコモなどは今年から来年にかけて日本国内で販売される携帯電話の半数以上はスマートフォンになるのではないかと予測している。タブレットも同時に急速に普及カーブを描くとみられ、PC以上に台数が出ることになると指摘するアナリストもいる。

 スマートフォンやタブレットでは、各種アプリを利用できる環境が整えられており、イチからプラットフォームを構築せずともアプリの開発だけで各種サービスが利用可能だ。当然、車載情報システムにおいても、これらを活用しない手はない。実際、トヨタ自身も自動車に関連したソーシャルアプリを募集する『TOYOTA SOCIAL APP AWARD』を開催している。マイクロソフトの方は、スマートフォンとして『Windows Phone 7』を、さらに次世代OSではタブレット向けに特化したチューニングも行なわれているという。もっとも、ウィンドウズというプラットフォームで縛るというわけではなく、こうした車載システムではより広範囲なスマートフォンプラットフォームに対応することになりそうだ。実際、フォードのSyncはWindowsPhone以外の各種スマートフォンとも連携が可能になっている。

 このほか興味深いシステムとしては、スマートフォン内蔵のICカードとNFC(Near Field Communications)を組み合わせたシステムを車の電子キーの代わりとして利用し、さらに専用ドックなしでダッシュボード上にスマートフォンを置くだけで充電と車載システムとの通信の両方を行える仕組みが、今年2月にスペインで開催されたMobile World Congressでデモストレーションされていた。これはほんの一例だが、まだまだいろいろ連携の仕方はありそうだ。

MS_TOYOTA
スペインのバルセロナで開催されたMobile World Congress2011では、NFC内蔵スマートフォンを使って車のドアキー解除、エンジン点火を行うデモが披露されている。また、ドックコネクターへの接続なしに車載システムとの連携が可能など、利便性の高さもアピールされていた。
この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう