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ペルソナを決めるのは誰か? 対話AIの発展に見る人工知能と人類の未来像

対話AIで人類にもたらされる”危うさ”の課題

2018年11月08日 09時00分更新

(2)評価の問題

 もう1つの問題は、より具体的な属性を含むペルソナを実現した際の評価方法である。たとえば、上記のオルツのような実在の人物のデータに基づいたペルソナを持つ対話AIが実現できたとして、そのペルソナが「正しい」かどうかの評価は容易ではない。

 1つの方法として、元となった本人と日頃親しくしている同僚や友人に、対話AIと話してもらい、本人への印象との類似度などをアンケートなどで尋ねる形がある。しかし、このやり方では限られた周辺人物の主観に大きく依存するため、明確な結論が出ない可能性がある。評価者と本人との関係性による印象のばらつきも大きいと思われる。たとえば、仕事中心のコミュニケーションデータに基づいて構築されたペルソナは、仕事と無関係に本人と付き合っている友人や家族には厳密な評価できない。

上司からの依頼に応えるP.A.I

 実現したいペルソナが、架空のキャラクターなど実在しないものである場合は、さらに評価が難しい。上記のようなアンケート形式で評価を行なうにしても、各人が持っているペルソナに対するイメージの差異などによって、同じ対話AIでも評価結果が異なるからである。

 たとえば女子高生のペルソナによる「女子高生らしい対話」を評価する際、女子高生と接する機会が少ない中年男性と、毎日同級生と会話している実際の高校生がそれぞれ持っているイメージには、大きな差があるものと想像されるため、この両者による評価結果も大きく異なるものになるだろう。そして、どっちの評価を「正解」とすべきかも、対話AIが利用される場面などに影響されるため、非常に悩ましい問題である。

対話AIにおける多様なペルソナの必要性と課題

 ここまで、主に技術的な観点から、対話AIにおけるペルソナの重要性と可能性について説明してきた。技術の発展によって、ペルソナを含めた対話AIの設計の自由度と精度がどんどん高まることは間違いない。そうなると、次に問われるのは対話AIの特性や利用場面に応じた、適切なペルソナの定義であろう。

 たとえば、企業におけるカスタマーサポートの一次対応者として対話AIを実現する場合、企業のビジネスや顧客を踏まえたキャラクタやペルソナの設計は重要な問題になりえる。実際、ある企業がウェブ上でチャットツールによるサポート(注:対話AIではなく人間が応対)を提供した際に、顧客側に表示されるアイコン画像の写真を変えるだけで、顧客からのハラスメントを含むメッセージの量が激しく変化したという事例も報告されている。たかがアイコン画像ひとつとっても、顧客との関係性を大きく左右する要素になるということである。見た目よりも本質的な、対話の内容や話し方を含めたペルソナの重要性は言わずもがなである。

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